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決意は歪
―? ? 数十年前―
「助けて」
もしもこの言葉が簡単に届いたのなら、どれだけの人が救ってくれるだろう。
「誰でもいい」
この言葉を誰かに言うことが出来ない自身の弱さ。
「苦しいよ」
耳を塞ぐ。外の賑やかな音が嫌で。
「寂しいよ」
一番身近な人がどんどん遠くに行ってしまう。
「辛いよ」
身近な人が手の届かない憧れの人物へと変わっていく。
「どうして」
あんなに優しかった人が厳しくなった。
「強くなりたい」
憧れの人に並びたい、昔みたいに一緒に。認められたい。認められれば、追い付けば、きっとまた笑顔を見せてくれる。
才能のあった兄と何もない自分、この距離が生まれてしまうのは必然だった。
「なんだってする」
強い強い決意。
その決意は最初から歪んでいた。
その決意は家族、国、世界をも巻き込む。
その決意はまだこの世界に生を受けていない人物をも犠牲にする。
「絶対に追い付くから」
絶対に。