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9.「でもさ、子供って割と残酷だよな」

今回も茅野君の過去編です。今回も少し道徳的ではない表現が出て来るところがあります。

 チャコの耳は切断されていたらしい。それを知ったのは、学校に母親が駆けつける前に、先生と話をしている時だった。

「どうしてチャコを殺したりしたんだ?」

 先生は初め、俺に優しく聞いてきた。俺を怒ることはしなかった。

「どうしてって、理由なんかないよ」

「じゃあ、チャコの右耳はどうしたんだ? それもお前がやったのか?」

 右耳。

 ――知らない。真美ちゃんが言うには、耳が無くなってたって。

 耳が無いとは、どういうことなのだろう。

 俺は幼いなりに考えた。真美ちゃんも相当ショックを受けていたとのことだったから、チャコの耳は切断されていたのだろうという結論にたどり着いた。

「どっかその辺に捨てたよ」

 だとしたら、誰がそんな酷いことをしたのだろうか。何故そんなことをしたのだろうか。

「裕也!」

 急に大きな声を出されて、俺は吃驚して体が固まった。普段はそこまで怖くない小峠先生だが、大人の男の人に大声を出されるというのは、小学生にとっては脅威だ。

「自分が何をしたか、わかっているのか!?」

 分かるも何も、俺がチャコを殺したわけではない。

 俺がしたことと言えば、自分がチャコを殺したと嘘を吐いたこと。

 俺がチャコを殺したという状況に憧れてしまったこと。

「……わかってるよ」

 俺はあの時、違うと反論すべきだったのだ。チャコの死を悲しむべきだったのだ。そうわかっていて尚、俺はこの状況を後悔はしていなかった。

「失礼します、茅野裕也の母親です」

 その時、息を切らした母が教室へ駈け込んで来た。そこからは母と先生が主に話をしていた。俺はただぼうっと窓の景色を眺めながら、二人のやり取りを聞き流していた。


 その時の俺は、それくらいじゃ友達がいなくなることは無いと思っていた。だから初めの一週間は皆が俺を避けていくその状況を楽しむことができたのだ。

 でも、皆は俺と関わろうとしなくなった。あの日、一緒に遊んでいたクラスメイトは、俺に露骨な嫌がらせをしてくるようになった。と言っても、俺の前でわざと悪口を言うくらいの、ちょっとしたものだったが。

 俺はすごく不思議だった。あの日、放課後に自分たちがやっていたことを棚に上げられるそのクラスメイト達の気が知れなかった。俺たちも同罪なのではないかと悩んでいる素振りは少しも見えなかったし、俺を遊びに誘わなければよかったと後悔しているようにも見えなかった。ただ、悪いのは俺だけ。

 まあ、俺は元々考え込むようなタイプではなかったため、その状況にもすぐ慣れた。一人でいることに慣れるには、そう時間はかからなかった。たまに寂しいと感じることはあったが、半年もすればそんな感覚もなくなった。

 俺の元クラスメイト達は、もうチャコのことなど覚えていないだろう。否、覚えているのかもしれないが、皆にとってチャコの死はただの嫌な思い出だ。あれ以来、チャコの話をする奴は一人もいなかった。


   ☆


「……まあ、こんな感じ、かな」

 自分で自分の黒歴史を説明するというのは、なかなか嫌なものだ。嫌というか、恥ずかしい。

「ほおええ……」

 昴君が変な声を漏らした。内容は割と重めだったと思うのだが、満足そうな顔をしている。

「それって、お前と一緒に遊んでた奴等、すげえ最低じゃん。自分らのやってたことは棚に上げんのかよ」

「そもそも教師もひどくないか? そういうのって、教師にも十分責任あると思うんだけど」

 圭祐君と翔也君は随分と本気で腹を立てているようで、それはそれで俺的には嬉しかった。しかし、小峠先生が文句を言われるのは嬉しくない。あの先生は何気いい人だったから。

「ま、過去の話だし。そういう風に言ってくれるだけで嬉しいよ」

「裕也いい人過ぎだろー!」

「っ……!」

 いきなり、光太郎が飛びついて来た。

「暑いって、離れろよ」

 そんな風に言ったのは単なる照れ隠しだ。こんな風に誰かとじゃれ合うのは久しぶり過ぎて、素直に嬉しい。ただ、暑いというのは事実で、今が冬や秋であればよかったのに、と思った。

「でもさ、子供って割と残酷だよな」

 ふと、圭祐君が言い出した。

「俺なんか、カマキリにわざとバッタ喰わせて、その様子見ながらすげえーって言ってたよ。今思うと残酷なことしてたなって思うけど、でもそういうのって誰しも通る道じゃねえ?」

「あ、俺はオタマジャクシ捕まえようとして、よく潰しちゃったりしたなあ。他にもアリをわざとアリ地獄に落としたりとか」

「……お前らそんなことしてたのかよ」

 さらりと結構酷いことを言い出した二人に、翔也君は顔を歪めた。彼はどうやらかなり心優しい人らしい。因みに俺も似たようなことをやっていたような気がする。

「正直、ウサギを殺してしまったっていうだけで――あっいや、だけって言っちゃダメなんだろうけど――何年もとやかく言う必要性を感じねえよな。ま、それも他人の罪を被っていると来た。哺乳類も昆虫も命には変わりねえんだし? 誰にも裕也をとやかく言う資格なんてない!」

 光太郎が力強く言った。……何か、此処まで言われると流石に気恥ずかしくなってくる。早く別の話題に移らせよう。

「な、なあ。もうそろそろ祭りの方に行かねえ?」

 時計を見ると四時半を回っていた。

「お、もうこんな時間か。そうだな、行く準備するか!」

 うまく話の矛先を変えられたようだ。こうとなれば皆の意識はひまわり祭りに向くだろう。

「よっしゃ、レッツエンジョイヒマワリフェスティボー!」

 俺たちは他人の家に居るということも忘れ、意味もなく騒ぎテンションを上げた。


 出掛け、光太郎が母親に呼ばれていた。短時間だが説教を受けていたらしい。

「騒ぎ過ぎってさ」

 最後の叫びは確かに余計だったな。

 光太郎と光太郎の家族に申し訳なくなり、俺は密かに反省した。

いかがだったでしょう、これでようやく茅野君の過去が分かりましたね。

後半にバッタを云々の話が出てきましたが、あれは全て僕の実体験でもあります。小さい子供って凄く残酷ですよね……。今では虫はあんまり得意じゃないです。昆虫類はもう触れません。

さて、次回は茅野君たちがお祭りをエンジョイする話です。ようやく恋愛要素を盛り込むステージが用意できました。今まで全然恋愛してないですし、次回はがんばりどころですね! 頑張ってみせます!

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