9.正当防衛・ダメな子
「なぁ、ミヤビ」
「何だい?」
「PvP解禁してくれ」
「おっ?ついにやる気になったのかぁ~クロノ」
「それは今度相手してやる」
「エンと戦わないなら何する気?」
「運営の奴を蹴ろうと思って」
「ク~君。出会って間もないけど言わせてもらうよ!運営にスキル使ってまで蹴り入れるプレイヤーがどこにいるんだい?」
「ここにいる俺だぁ!」
「・・・バカでしょキミ」
「それは認めてやるから早く制限外せ。何しても責任は俺に向けられるだろうし・・・」
「分かったよ」
≪ミヤビさんがPvP制限を解除しました≫
「サンキュー。ついでに聞いていいか?」
「ジャンジャン募集中だよ?お姉ちゃんに任せな!」
男前に胸を叩くミヤビ。女の子なのに男らしいところがあるなぁ~
姉御肌ってやつか?
「PvPって形式上は一対一だよな?」
「そうだよ。一対多とか考えてる?」
「そうだけど・・・できるのか!」
ギルメンとも戦り合いたいし、できたらうれしいんだけど・・・
「できるけどそれがどうしたんだい?」
ミヤビは顔を引き面にして何か嫌な予感がすると無言で訴えている
「今からPvP申請するから」
クロノは満面の笑みでギルメンに申請した
≪クロノさんがギルドメンバーに一対多の全損決着を申請しました≫
≪エミルさんがクロノさんからの申請を受けました≫
≪エンさんがクロノさんからの申請を受けました≫
「クロノ君!そんなに戦闘狂の血が騒ぎますか?」
「そんな血は騒がないからとりあえず受けてくれ」
≪ミズキさんがクロノさんからの申請を受けました≫
「皆、何するかも分かんないのによく受けるよ」
ミヤビは自嘲気味に言う
「諦めて受けてくれ」
≪ミヤビさんがクロノさんからの申請を受けました≫
≪DUELが受理されました≫
≪DUEL START≫
開始早々にミヤビ以外の血気盛んな奴等に三方向から襲われた
「ったく誰も戦うなんて言ってないんだけど・・・“スキル”討刃、疾走発動!」
正面からエン、左側からエミル、右側からミズキ。まずは実力もパターンも分かるエンから
「ウラァァァッ!」
エンは駆け引きなく真っ直ぐに青いエフェクトを纏い、鋭い突きを放った。しかしそれは当たることなく、槍の穂先が触れる瞬間、身体を右に捻り無理矢理避ける
「相変わらず初手だけは変わらねぇな」
「槍使いは突っ込んで貫くっていうのが醍醐味だろうがよ!」
エンは空を貫いた槍を引き戻そうと腕を引くが・・・
「甘いな。そう簡単に得物を返すわけねぇだろ!!」
クロノは槍を掴み、そのまま力任せに引き寄せて武器のみを残したまま蹴り飛ばし間髪、入れずに
ハンマーで脇腹目掛けて横殴りしてくるエミルの一撃を槍で受け止める
「ショックよ!チャンスと思ったのにアッサリ受けとめられるなんて」
「確かに多数で単機を叩くのに相手の攻撃終了直後に一撃入れるのは良いんだけど・・・それを実践するなら3人ではなく最低4人は必要だな」
クロノは小さく嗤って槍でハンマーのベクトルをズラし、バランスを崩したエミルにそのまま槍を深々と突き刺し、動きを止めて次の行動に移る
「ヤァァァ!」
ミズキが気合いの入った裂帛ともに飛び上がり銃把を頭に打ち降ろすがそこには何もなく代わりに勢いよく蹴り上げられたつま先が当たり銃を高く蹴り飛ばした
「私のグリップアタックがアッサリと弾かれるとは!なかなかやりますね」
ミズキは悔しそうに唸り声を上げながらも着地し、残った一丁を俺に向けたまま隙を伺っている
「弾かれたくなきゃアーツとして登録しとけバカ」
腕を伸ばして、デコピンの要領で鼻を人指し指で弾く
「ッ痛」
鼻を押さえるミズキに前蹴りを食らわし、くの字に曲がった身体に踵落としをお見舞いし、顔面から地面に叩きつけた
「まったく!戦わないって言ってるのに襲い掛かりやがって手加減するのに苦労したなぁ~」
汗もかいていないのに満面の笑みで額を拭う
「イヤイヤ、言ってることとやってること違うからね?手加減できてないから!」
ミヤビは冷静に突っ込みを入れる
「・・・してるわ。貴方はどこを見てるのかしら?」
槍の刺さったまま、苦言を呈するエミル
「アイツは武器を抜いてねぇぜ?」
蹴り飛ばされたエンは起き上がり事実を告げる
「格好つけてないで早く抜きなさい!継続ダメージで貴方は私を全損に追い込みたいのかしら?」
「あいよ!」
エンはエミルのところまで歩き、槍を一気に引き抜いた
「二人ともそう言いますけど・・・私だけお腹蹴られた後に踵落としをいただきました!!」
「「「「いや、グリップアタックがうざかっただけでしょ!!!!」」」」
「総ツッコミキター」
「話が誰かさん達のお陰で脱線し過ぎたけど本題に入る」
「ク~君もその一端を担ってるからね」
「分かってるから話を進めさせろ!」
「はーい」
コイツ、蹴り飛ばしてやろうか
という思いを飲み込み咳払いをひとつして話を始めた
「とりあえずお前らには今から起きることの証人になってもらう」
「「蹴るの?」」
状況を察したミヤビとミズキが嫌そうな顔をする
「時と場合による」
クロノはその場をタップしてウィンドウからGMコールを押した
「ドゥ~ン。100点、100点、100点!フェリちゃん優勝!!」
突然、上から降ってきて体操選手並みの動きして一人で喜んでいる
「うるせぇ」
「なにゅのぉぉぉぉぉぉ!」
クロノはスキルを発動状態のまま微塵の躊躇もなくPvPフィールド上の壁まで蹴り飛ばした
「よし、クリーンヒット!」
「「よし!」じゃないよクロノくん。ボクの頭にたんこぶができたじゃないか!」
頭にはたんこぶが一つこさえてあった
「お前、仕様をイジッただろ」
「ばれちった。でもこうすれば!」
フェリに注目していると指先だけが人一倍早く動いていた
【第6サーバー管理者がたんこぶを仕様に追加しました】
「バカだろ」
「バカでいいもん!汚れた大人になんかなりたくないよ!」
「あっそ」
「それよりもボクに用があるんじゃないの?」
「何で俺のステータス、スキル、装備をイジリやがった?」
「ボクの私怨とワタナベさんからの指示」
「あのオッサンやっぱりこのゲームに絡んでやがったのか」
「知ってるの?」
「元オーガバーサスプレイヤーならというより“黒鬼殺し”のイベントに参加者は運営側の人間として見たことあるだろうな」
「確か・・・クロノくん対オーガバーサス全プレイヤーだったよね?」
「そうだけど調べたのか?」
「まぁね」
「とりあえず話戻すけど・・・元に戻せ!」
「戻すのはムリ!貰うもの貰っちゃった!うめぇ棒十本でしたよ!」
さっきの発言はどこに行った!汚い大人に買収されてるじゃねぇか!しかも一本十円のおやつかよ!小学生でももう少し高いものをねだるぞ
「安請け合いでプレイヤーを貶めるな!俺じゃなきゃ即やめるぞ!」
「続ける気なんだ~「アイツはどんなことがあっても諦めることはせずに全てを捩じ伏せる男だ」ってワタナベさんの言う通りだね!その姿勢にはボクも敬服するけど直さないからね」
自ら薄い胸を叩き、笑顔でVサインをする
買収された割に義理堅いな
「じゃあ他の管理者に連絡取らせろ」
「・・・目の前のGMに他のGMを仲介しろって言えるなんてある意味スゴいよ」
「お前がしないなら他に頼むしかないじゃねぇか」
クロノはまるでそれを当然のように言えるような男だった
「よし、分かった!全12サーバーのGMにボクが連絡だけは取らせてあげるよ」
あとは俺自身が交渉しろってことか
「じゃあ第5サーバーに連絡してくれ」
「え!だ、第7サーバー?分かったよすぐに連絡するね!」
何か焦ってるな・・・
「第5サーバーだ。勝手に変更するな」
「で、でも彼処のGMはボクよりも陰険で理不尽で気持ち悪いおじいさんダヨ?」
何でそんなに脂汗流して動揺してんだよ
「どうでもいいから早くしろ」
「う・・・うん」
≪第6サーバー管理者がクロノさんへのウィンドウ閲覧を許可しました≫
フェリはスゴく嫌そうな顔をしてチャットボタンをタッチした
(・・・あら、フェリ。急にライブチャットで連絡するなんてどうしたの?)
そこに映されたのは気持ち悪いおじさんではなく淡い紫色の三つ編みをした髪に深緑色の軍服みたいな服に身を包んだきれいなお姉さんだった
「あ、あのねお姉ちゃん。勝手に追加してごめんなさい」
さっきと全然態度が違うぞ?妙に素直過ぎる
(たんこぶのことなら気にしてないけど?ほかに何かしたのかしら?)
フェリ姉は笑顔で優しく問いかける
「実は・・・」
何だろう。コイツに任せると話が進まない気がしてきた
「代われ」
「え?ちょっと・・・」
俺はその場からフェリを押し退けフェリ姉に話しかけた
「初めまして、クロノと申します。お名前をお伺いしても宜しいですか?」
(私は紅蘭と言います。どういったご用件でしょうか?)
紅蘭さんの顔つきが管理者のとしてのものに変わった
「実は・・・」
現状までの流れを説明する
(・・・クロノさんの現状の原因は妹にあるということで間違いないですね?)
「ええ。とりあえずこっちの要求は全部戻してほしいだけです」
(分かりました。3日後此方から強制転移という形でお呼び立て致しますことをご了承ください)
「分かりました」
(では失礼致します。フェリ、後で話があるから待っていなさい)
最後に目の笑っていない満面の笑みでチャットが終わった
「どうしよう・・・お姉ちゃんに怒られて折檻される!」
フェリは涙目で今にも泣き出しそうだ
「知らねぇよ。身から出た錆びだろうが諦めて怒られてこい」
「ひ、ひどいよ~」
しばらく同じようなやり取りのあと軽い挨拶を交わしてフェリは消えた