34.戦闘前のオフ会
フラッグ奪取当日、イベント開始まで時間があったので水姫主導の昼食に恵美、葵を連れだって約束の駅前で水姫を待っていた。
「ん?」
着信音に携帯を取りだし、メールを確認し、口角をつり上げる。
「あら、気持ち悪いにやけ面をしてどうしたの?」
「アンタ、その顔やめなさいよね。嫌な予感しかしないじゃない!」
昇の様子に気付いた二人はそれぞれに口撃を放つ。
「コウから連絡がきて、聖戦という名を借りた野郎どもの僻みで俺は今日、集団リンチに合うらしい。人数は分からねぇけど今回は死ぬかもなぁ」
「あら、死ぬのは相手方じゃないの?」
「かもな」
「アンタが死んでるなら私なんか即死するわよ!」
「だろうな。芋ってるだけ射手ならすぐに即死だ」
「私が芋ってるようなの見える?」
葵は顔を吐息が当たるくらいに近づけ真っ直ぐに俺を射抜く
「いいや、近距離なら斬殺に遠距離なら射殺に切り替えてしっかり殺ると思ってる」
それに応えるようにゆっくりと視線を合わせる
「わわ、分かってるなら良いわよ!」
葵は自分と俺との距離感に顔を赤くして脱兎の如く離れた
「ヒュ~、甘酸っぱい光景だにゃ~良いな~青春して俺っちも味わいたいぜ黒やん」
奴はゲームと同様に三連ピアスに髪を逆立たせ、陰陽服の代わりにパンクなシャツとデニムの出で立ちで現れた。
「青春?何、言ってんだ康介。ただの確認作業みたいなもんだよ」
「ん~♪その鈍さはプライスレス。俺っちこと、鏑木康介様が同情するぜ葵っち!」
葵に向けて良い笑顔でサムズアップした上にウィンクをかます。
「アンタなんかの同情なんてい・ら・な・い!」
葵はそれに倣って親指を立てたまま、首を横に切りそのまま指を下に向けた。
「葵っちがひどいよ!助けて黒や~ん!うわーん、うわーん」
「誰が助けるか!」
わざとらしい泣き声を上げる康介にすかさずツッコミをいれる
「うわーん、シクシク」
康介、現実
リアル
でもめんどうだお前。
「この漫才はいつまで続くのかしら?」
見飽きたと言わんばかりの口を曲げる恵美
「やめた方がいいか?」
「ええ。待ち人ならぬ待たせ人が来たわ」
恵美は振り返り、こちらに向かってくる残念娘と黒服に連れられた目隠しにヘッドフォンを着けた男女を指し示す
「すいません、皆さん。人拐・・・人探しをしてたら遅れました」
ペコリと小さく頭を下げる水姫
「お前はここに来るまえに何やってるんだ」
「えと、人拐い?です」
「やるならもう少し隠密にしないとな。アイマスクにヘッドフォンで公共の場に連れて来たら駄目だろ?」
「そ、そうでした!次は暗い倉庫のようなところにします!」
「だな」
昇は満足げに深く頷いた
「いやいや、なに満足げに頷いてんのよアンタ達の会話おかしいから!犯罪者の会話よそれ!」
「「えっ?」」
葵の正論“ツッコミ”に二人は知らんかったとばかりに表情をキョトンとさせる
「・・・昇くん」
「・・・水姫」
「もうそのくだりはいいから拉致られた二人をあの状態から解放しろ!」
顔を合わせて何かを言う前に封殺して二人に命令し、拉致られた男女の装備を解除する
「ふぅ・・・太陽が眩しいぜ。オッス、黒川!」
「ここは何処?私は藍原雅
あいはらみやび
よしっ!」
一人は俺に挨拶、もう一人は状況確認。普通はあの状態だと状況を把握するのが当たり前なんだけど・・・危機感ねぇのな約一名。
「のんきに挨拶せずに危機感くらい持てよ袁堂」
「お前がいるから大丈夫だと思ってるぜ」
「それならまぁ、良くないけど良いか。自己紹介は後回しで葵と恵のところ行っとけ」
「了解」
意気揚々と葵達のところに行く袁堂を見送り、念入りに状況確認をしているもう一人に声をかける。
「あー、やたらと状況確認してるところ悪いけどいいか?」
「ええっと・・・はい」
とりあえず、声かければ反応するけど眼に不安感を浮かべて足をプルプルと震わせている。
「俺は黒川昇。アンタを連れて行ったっていうか拉致った元凶は更科水姫。そこまでは理解できるか?」
「うん、君が黒川昇君でここまで連れてきたのが更科水姫さんだね」
言ったことを理解して要約はできるなら話しても大丈夫そうだな
「連れてきた理由はフラッグ奪取前の決起集会兼プチオフ会をするためだよ。ギルドマスターいねぇと始められねぇからな」
「フラッグ奪取・・・ギ、ギルマス・・・え?えええええええプチオ、オフ会ぃいいいいいいってことは君はギルメンで連れてきた女の子もギルメン!?」
驚いてるけど現状つーか、ネタばらししたけど理解はできたみたいだな。
「ということで他の奴ら待たせてるから行くぞ!雅」
「え、えええええーーー」
驚いている雅の手を引き、そのまま合流して目的地に七人は歩き出した
そこは駅から10分ほど歩いて交差点の角を右に曲がり、路地を真っすぐに抜けた先に目的の喫茶店兼バーがあった。看板には白と黒の鶏が左右一対に羽を広げているのが特徴でその下に「二羽鶏
にわとり
」という店名が刻まれている。
カラン、カランとベルの音を響かせドアを押し開けるとそこには色黒でサングラスを掛けた禿頭の巨漢が立っていた。
「いらっしゃい・・・お前かさっさと入りやがれ」
入るなりドスの効いた声に不気味な笑顔のセットで出迎えられる
「接客態度悪すぎだろおっさん!そんなんじゃ昼に客来ないし堅気がやってる店に見えないからな」
「五月蝿い。夜はバーにして儲けてるから良いんだ。昼は遊びで開いてるだけだ!」
「あっそ。阿漕な商売は程々にな」
「小狡いことしなくても稼げるわ!今日はお前一人か?」
「いや、ツレもいるんだがドスの聞いた声にびびって約一名が後ずさりしたまま逃げそうだから引きずって連れていくのに時間かかってるだけだ」
「またやっちまったか」
昇の後ろで引きずらている雅を見て、悔しそうにカウンターに拳を叩き付ける
「そんなことしてるからビビられるんじゃないのか」
「五月蠅い」
店内は全体的に手入れがされて輝きを纏い、カウンターとテーブルが4つというシンプルさで少し狭いがそれが居心地よく感じる店内にはなってるはずなんだがこのおっさんのせいか昼は客はあまり来ない。慣れればそんなに問題ない筈なんだけど。
「さて、約一名がびびってオフ会兼決起集会始めるのに時間掛かったけどするぞ」
「「「「「「はーい」」」」」」
「雅、まずなにする?」
「とりあえず、自己紹介からでいいんじゃないかな?」
無難なだがオフ会だからそうなるよな
「そうだな」と昇
「まぁ、定番よね」と葵
「ですね」と水姫
「ありきたりだけどそうね」と恵美
「俺っちがイケてるところ紹介だ」と康介
「無難だぜ」と袁堂
一同に言いながらも了承し、話は進んでいく
「最初は提案したのが私だからやるよ!藍原雅、高1。MWOではミヤビってキャラでギルド“宴”のギルドマスターやらせて貰ってるよ色々足りないところあるけど改めて宜しくお願いします!」
「ギルマスが最初なら次は私かしらね。湯川恵美、高1。MWOでエミルという名前でしているわ。貴方達の装備を担当している生産職にしてサブマスターよ宜しく。次は・・・水姫ね」
「更科水姫、高1です。MWOでミズキってキャラでしてます。皆さん、宜しくお願いします!ということで次は袁堂さんお願いします」
「袁堂瞬、高1。エンってキャラでプレイしてる。リアルでもゲームでも槍を使ってる宜しく。蕪木、次」
「ハイハイ、皆さんお待ちかねの俺っちの自己紹介タイムだぜぇ~?俺っちは鏑木康介、高2!世界で一番イケてる俺っちはMWOでコウって超絶イケてるキャラでやってるゼェ~宴メンバーズ、改めてシクヨロ~!」
誰一人、頼んでいないのにポージングを決めながら自己紹介する康介に全員が汚物を見るような残念なモノを見るような視線を向けて自己紹介は何ごともなく続きが進められた。
「コウくんの次は満島さんお願いー」
「別に葵で良いわよ雅。満島葵、MWOでアオヒメって名前でしてる・・・よろしく。最後、アンタね」
「黒川昇、以下略。よろしく」
「ちょ、ちょっと省略し過ぎだからねクー君!」
「俺はいろんなとこから情報ダダ漏れだからあんまり言うことないんだよ。それとも俺に興味があるのか雅?」
「そ、そんなことないさ!ギルドマスターとしてきっちりして欲しいだけ~」
「しょうがない。ギルマスからの私的命令を聞いてやるか」
「誰が・・・!」
図星だったらしく声にならない声を出している雅を一瞥し、話を進めた
「黒川昇、高1。MWOにおいてクロノってキャラでやってる。武器は刀と銃、種族は半人半鬼、常在戦場を旨としている。理由としては戦うの好きだからな。以上だ」
「自己紹介も一通り終わったし、何しようかな?」
雅はわざとらしく悩むふりをしながら全体を見渡して俺にチラチラと目配りする。
コイツ、思いついてないな!俺になんか言わせようとしてやがる。しょうがねぇな
「雅、フラッグ奪取前に襲撃班と防衛班で互いにどんなことをしようって考えてるか情報共有したらどうだ?」
「流石、ナイスアイディア。まずは私の方から話すね。防衛班は臨機応変に動く!それ以外になし!襲撃班は?」
「襲撃班(俺たち)は四人いるから二対二に別れて互いにフラッグを奪いに行くことに決めた。その際に一人は護衛役、もう一人は回収役にして動く予定だ」
「予定?」
「こっちも防衛班と一緒で作戦自体がおおざっぱなんだよ」
「う、うん。両班ともにざっくりだけど大丈夫なのかいクー君!」
雅は不安そうに眉を下げ見つめる
「問題ねぇよ。いくらヘマしたって助けてやるから気にせず好きに動けば良いよな?水城、恵美、葵、康介、袁堂」
昇は雅にニッと笑いかけ、五人に視線を向けると
「私もヘマしますが大丈夫です!」
「ええ、問題ないわ」
「任せなさい」
「俺っちは最強だから任せなさい!」
「しゃーねぇ!いっちょ、やるぜ!」
五人への問いかけに対する答えを聞き、雅の表情からは不安が消えいく
「これで安心できたか?雅」
「うん!私のためにありがとねクー君」
「単に上が不安だと下に波及するからな。それだけだ」
「そっか。でもありがと」
昇のぶっきらぼうな言い方に苦笑しつつも礼を言い、頬を染める雅であった。
それからは特に何ということもなく互いの連絡先を交換し、各々は現実から仮想世界に舞い戻っていた。




