31.人をやめる。鬼の再誕
久しぶりの投稿で~す
「到着」
鳥居をくぐり抜けると日本のどこにでもありそうな和風建築の神社があった
「石畳の参道、狛犬、手水場、賽銭箱、本殿・・・さすがに凝ってるなMWO」
それに比べてオーガバーサスだと本殿、鳥居、石畳くらいで参道から本殿までが殺風景で物悲しかったことを思い出すけど戦うこと前提条件で考えてるとそれはそれで良かったのか。
一人納得して警戒しつつ参道を進み、本殿に近づくに連れて侵入者を拒むように辺りは白み始めて本殿に着く頃には目の前がギリギリ見えるだけで振り返るともう何も見えず、前進あるのみで本殿の扉を蹴り開けて入口で足を止める。
「・・・って何にも出てこないのかよ警戒して損した」
本殿の中は壁に付いている燭台から申し訳ない程度の明かりだけで薄暗く進む度に床板から悲鳴にも似た軋みが耳に入るが突き進み、一番奥まで行くと今にも外れそうなボロボロの紙が壁に貼り付けられそこには“此岸、彼岸の挟間に連なる者を喚び出したくば己が身を供物とし奉げよ。さすれば来たらん”と書かれている。
「鬼人を呼ぶやり方はやっぱり変わらないのか・・・前に相手したことあるから大丈夫だな。それより・・・・・・痛てぇけど“鬼”に戻るためだ」
アイテムから三方と呼ばれる木製の盆の下に三方向の穴のあいた直方体状の神具を取り出し床に置くと次は腰に差した刀を抜き、左手に持ち替えて刃を右肩に軽く添えてから離し、一呼吸すると意を決して力を込めて躊躇いもなく付け根から自らの腕を斬り落とし、床を赤く染め上げる。
「っっあがががががぁぁぁぁあああああ・・・」
痛い、痛いっていうか熱い!斬ったところに焼き鏝押し当てられてるみてぇにジンジン痛んで灼ける。
それでもクロノは額から汗を流し、歯を食いしばって痛みが軽くなるまで耐えた
「はぁ、はぁ・・・思ったより痛ってぇな!システム上、痛覚はある程度遮断される筈なのに効果が出るまで地獄だ。そう思うとえっと・・・マジなんとかに少し悪いことした気がするな」
名前を微妙に覚えていないプレイヤーに軽い罪悪感を覚えつつも、HPを確認し斬った腕を三方に乗せて一緒に刀を添える。
斬ってすぐなのに出血エフェクトはすぐに収まったし、自ら腕を斬り落としても戦闘行為での部位欠損じゃないからHPは減らずに腕が一本ないだけで支障は何もない・・・とりあえず、鬼人を呼ぶか。昔、言ってたので出たら笑えるけど・・・
「我、己が血肉を対価に此岸、彼岸の挟間に住まう者を呼び出さん」
準備が整ったので言葉を紡いでみると、空間が割れそこから粘り気を帯びた黒い塊が現れる。
「なんだよこの塊!」
前のとやっぱり違いがあるな。来るか?
と構えるが黒い塊はゆっくり、ゆっくりと床を這ってクロノを素通りし、三方に覆い被さると木片の割れる音、硬いものが折れる音、ぐちゃぐちゃ食べる様な咀嚼音が空間を満たし、音が無くなるとそれは徐々に盛り上がり形を形成してゆく。
最初に脚から腰辺りまで形成されるとボコボコと音を立ててさらに盛り上がり岩のような腹筋が生まれその上部で分厚い胸板と引き締まった背中、太い両腕が作られ、最後に二本の鋭角が生えた婆娑羅髪の頭が形を作り、黒い鬼人が姿を現す。
≪イベントが発生します≫
「我を喚んだは貴様か、召喚に応えたのは久しいぞ。加えて数多の御魂を搾取し、血を啜り、肉を喰ろうたモノを媒介として顕現した為、十全に行使できる肉体を手に入れた。紛い物よ、礼を述べよう」
「長ったらしい言い方しやがって腕が一本生えただけの元“片腕の鬼人”が何言ってやがる」
身長2メートルちょいの奴から礼を言われてもな・・・
「ああ、貴様は腕を無くしていたな。我をその状態で喰らうことができるのか?」
「出来なきゃ前に立つかよ!相手の心配してる余裕があるなら自分の事だけ考えろよお前は喰う側から喰われる側にいる。俺の腹を満たす為の餌だ」
「カッカッカ、やはり貴様は可笑しき人間だ。我をそこいらの家畜同然にしか見ておらんか。その粋やよし、参れ」
「言われなくても・・・行ってやるよ!!!」
≪戦闘を開始します。
・勝利条件
1.対価に捧げた腕を取り返す
2.刀を奪い返す、且つ装備した状態で使用せずに殺す
追記:切断した腕を取り戻すまで、部位欠損ポーションは一時的に使用できなくなります≫
開始と同時に鬼人の頭上にHPバー表示され、その上にEnemy Name≪arata≫ と表示されている。
「・・・アラタ」
MWO、こいつに名前を付けたのか。“片腕の鬼人”って呼称で表示されると思ってたのに
「何を呆けている紛い物!来ぬなら・・・参るぞ!」
一瞬で姿を掻き消したと思えば、背後に回り込み、斧を降り下ろすように鋭い踵が頭目掛けて迫り来る
「ちょ・・・怖えぇぇ!」
何となくの直感で振り向く間もなく頭を抱えて転がり距離を十分にとって背後を振り向くと床が陥没し、蛇のようなヒビが床を伝い、壁にまで広がっている。
危機察知で気づいた時には降り下ろされてるってことはコウレベルかそれ以上の速さがあるってことかよ!
これだと危機察知が逆に邪魔になるから切っとくか。
「・・・うむ、先の一撃で脳漿もろとも臓腑が見れると思うたが存外、勘の良い者だ」
アラタにとってさっきの奇襲は確実性の高いパターンだったらしい
「もう少し、気づくのが遅けりゃお前の言う通りになってるかもな!!!」
クロノはアイテムから投げナイフを取り出しては浮かせて自身の周囲に射出態勢を展開していく
「何をしているのだ。そのような小さき刃で我を殺れると思うてか」
「一本なら首は殺れねぇけど、一気に刺さればどうなる?」
見せつけるように投げナイフを一本をつまみ上げて、嗤いかける
「き、貴様ぁぁぁ!!!」
浮かせていた投げナイフを自ら一本、二本、三本と投擲し、残りの展開していた斬弾を一気に開放し、鬼人を瞬間的に大量の刃で埋め尽くし、それは意思を持ったかのように一つの黒い群れとなって一本も落ちることなく次々と突き刺さり、刺さるたびにHPがガリガリと削れていき、半分を切った時にそれは起こった。
突如、鬼人が咆哮を上げ、黒い刃嵐の中から紅い蒸気がゆっくりと立ち上り、それと同じくらいに甲高い金属音が何度も何度も何かに弾かれる音が耳に響く。
「小さき刃と思うて気を緩めておったが数多の刃なれば中々に侮りがたいものだな誉めておこう」
「舐めてんのかてめぇ!」
クロノは額からうっすらと垂れてる汗を拭い、思考を巡らせる。
おかしい、氣術操作で投げナイフを確実に当ててるのにさっきから弾かれている何か、固有のエネミースキル・・・回収して引っ込めるか。
射出していた投げナイフを回収し、周囲を覆っていた刃嵐が無くなると両眼に爛々と紅い燐光が灯り、手足は燃えるように揺めき、身体全体から紅い蒸気を発している姿に嫌な予感しかしなかった。
「舐めてはおらぬ。しかし視界に敵が写らぬというのはなにぶん不便であった。小さき刃をしまい込み、次は何をしてくれる紛い物?」
大したことねぇ攻撃なら効かねぇよとでも言わんばかりにいやらしく口角をつり上げ、わざとらしく両腕を広げて誘っている
「てめえの右腕、引きちぎってやる」
数メートルある間合いを氣術強化済みの脚で一気に眼前まで詰め寄り、間髪入れずに右肩目掛け、一撃を鬼人に仕掛けるが当たる直前に左腕を掴まれ、咄嗟に無い右腕で防ごうとして紅い拳を鳩尾に叩き込まれ、蹲ってしまう。
「かは・・・」
なんつう拳してんだよ!打ち込まれた腹より背中が痛みやがる。
「何をしている。立て・・・」
休む間もなく鬼人は髪を掴み上げ、無理やり立たせるとそのまま、サンドバッグ状態で拳と蹴りの集中砲火を浴びせられる。
一撃、一撃が重い上に速い。食らう度に色彩が無くなって視界が白黒に染まっていく。HPを確認するとギリギリ危機領域・・・三割弱!このまま受け続けると死亡は確定済み。確実にしなきゃいけないことは距離を開ける、右腕を奪うの二点のみ。しばらくは最小限に受け続けてアイツが大技を出すのを待つしかないか・・・
「どうした。先ほどの威勢はどこへ行った!我の腕を引きちぎるのであろう?」
鬼人は挑発しながらも手足を緩めることなくさらに苛烈に攻撃を増していく
「いや・・・てめぇが・・・意味もなく・・・手数で仕掛けるからよ・・・たった一発で・・・俺を殺す力が・・・無いってことに・・・気付いちまって・・・わざと受け続けて・・・やってんだ・・・感謝しろよ」
クロノは乱打に曝されながらも意趣返しに嗤って見せる
「戯れ言を申すな!狂言、甚だしい」
その態度が勘に触ったのか語気を荒げて拳を振り上げてさらに一撃加える。
「・・・効いてねぇから生きてんだ。出せるなら出してみろよ!」
殴れたまま、口角をつり上げて好機とばかりに押しの一手で挑発を続ける
「吐いた唾は飲み込めぬと知れ!」
乱打は止み、雄叫びとともに身体から発せられるオーラは右拳に収束し、打ち据えんとばかりに強く握りしめ腰まで引き絞り、左手を突きだす。
「来いよ」
クロノは意識的に拳が届かない位置にまで距離を取った。
構えから見て中段突きなのは分かる・・・あの拳は意識しとかないと少しでも掠ったら殺されるそんな予感がする。
距離にして数メートル弱。互いに踏み込めば縮まり即座に射程距離圏内。鬼人と人間の視線が交錯し、絡み合い、嗤ったままに同時に踏み込み、床が軋みをあげる。
「去ね」
先に攻撃に移したのは鬼人。踏み込みと同時に腰を捻り、突きだしていた左手を引き、引いていた右拳を爆発させ、溜め込まれたエネルギーが真っ直ぐに拳圧という暴虐な一撃となって本殿を破壊しながら迫る。
「おおっ!射程距離が想定外にありやがる。でもなぁ!氣術強化・右足、アーツ・餓狼」
数瞬遅れて眼前に迫る拳圧に肌を焦がしながらもギリギリの距離で左足を引き、半身のまま右足を無理やり強く踏み込んで懐に飛び込み、右肩を左手が蒼牙を纏って喰い千切り、肩口から紅い噴水が吹き出る。
「返せ、返さぬか!我が右腕を!」
鬼人は肩口から止めどなく溢れる血に構わず、残った左腕を振り上げた
「誰が返すか。少し、沈んどけ!」
迫る鬼人に腰を捻り、そのまま勢いよく鳩尾に蹴り込み、垂れ下がった頭を踵で床に叩きつけた上に踏みつける。
「鬼人が床に埋没している間に喰いますか」
その場で左手に持ったままの腕を骨付きチキンのように平らげてHPを確認すると
俺のHPは2割弱から4割まで回復。一方、鬼人は反対に5割弱から2割強まで減少している。ナイフ以降これといって当てられてないから紅い拳圧は威力がある代わりにHPを対価にする消費するとっておきの一撃だったのかこりゃ、当たれば誰でも即死だ。
≪部位欠損ポーションが使用できるようになりました。刀を取り戻しました≫
クロノはシステムから知らせを聞くや否やアイテムから部位欠損ポーションを振りかけ、再生させた右手の感触を軽く確かめて刀を腰に差した。
「これで十二分に殺れる。鬼人、いつまで寝てんだよ!」
床に埋めてる首根っこを引っ掴み、持ち上げると反応がないのでそのまま、投球フォームよろしくな体勢で2メートル弱の身体が本殿を突き抜け、境内に放り出される。
「・・・う・・・うう・・・ここはどこだ」
鬼人の視界には眩い光と青い空が映り込み、何故か地面に寝かされて動けない理由が時間が経つにつれてハッキリと思い出されていく。
「動かぬ・・・禁咒の反動か」
我は戦の最中にあったはず・・・人為らざぬ人・・・紛い物と。
「起きたか、鬼人」
声の方向に首を上げると紛い物は全身から黒と赤の靄を立ち上らせ、紅い眼が見下ろして立っている。
「なぜ、我を見下ろす紛い物」
「あとは殺して喰うだけのモノに生き物として価値はない」
その言葉に背筋が凍りつくのを感じる。たかが腕が生えて元に戻った人間に我は畏れを抱き、それと同時に否応なしに自覚させられる。それでも・・・
「我は・・・鬼として・・・たかが人間如きに喰われるようなモノではない!我、命果てるまでは」
アラタはよろよろと立ち上がり、再び、紅いオーラーを立ち昇らせる。
立っているだけでその身は悲鳴を上げ、今にも崩れそうになりながらそれでも拳を構える。
「その覚悟に免じて、一撃だ」
それに相対するように人間は深く息を吸い込み、拳に破壊の奔流が宿す。
零距離射程、疾走をする間もなく震脚し、腰から捻りをバネとして互いの拳が振り抜かれる。
「「シッ」」
両者の腕は十字に交差し、轟音にも似た音が同時に二つ響く。
「我の・・・負けだ」
クロノを見つめて、小さく笑うとそのまま地面に吸い寄せられるように静かに鬼人は倒れていった。
≪戦闘終了、勝利条件クリア。イベント進行します≫
戦闘が終了と同時に目の前はイベントシーンに切り替わる
「まがい物・・・いや、人間」
死にかけの鬼人が声をかけてくる
「何だよ?」
「我の・・・命はもう尽きるだろう。その前に・・・言っておくことがある」
クロノは小さく頷き、耳を傾ける
「貴様は今後、さらに人から道を外れるだろう、そして我と同じように・・・」
そこで鬼人の意識は途絶えてシステムからの終了が告げられる
「・・・って何か気になる言い方されて終わちまった!」
≪イベントを終了します≫
「続きが気になるけど、さっさと鬼人を喰うか」
気持ちを切り替えて死体もとい鬼人に喰らいつき、咀嚼し次々と飲み込んでいく。それから食べ始めて数分経ったころ、腹が満たされて限界が訪れようとする時、身体に変化が起こり始めた。
「・・・・・・っ!あががががあああああ」
突然、全身に痛みが走る!何が起きたんだ。痛い、痛すぎる、体を中から喰われる!それは痛みとは形容しがたく何かに喰われるまたは飲み込まれるといった類のモノだ。
「・・・おか・・・なに・・・おき・・・・・ああああああ」
痛みで言葉にもならない。耐えることのできない痛みにその場に蹲り、のた打ち回り痛みが去るまでそれは行われ・・・痛みが治まってきたころ、クロノに変化が起きた。
黒い髪は一気に伸びたと思ったら白く染まり、額からは硬く鋭い角が二本生えて、爪は鋭く、身体は肌色から漆黒に染まり紅い刺青のような宗教染みた線が全身に浮かび上がり変化が治まる。
ポーン、ポーン、ポポーーーン
激痛なお食事終了と同時にシステムコールが連続で鳴り響く
うるせぇなシステム、今度はなんだよ。
ウィンドウを開くと・・・
【第一次・人間やめますか クリアおめでとうございます】
・第二次・イベント開始まで、強制ソロプレイが解除されます
・種族が“人族・ディーマン”から“鬼族・半人半鬼”に変更されました
・種族変更に伴い、容姿を再変更できるようになりました
・種族変更に伴い、新たなスキルが手に入りました
・“鬼呪装備・右腕”が手に入ったことに伴い、“第一能力”が解放されます
種族、半人半鬼っていわゆる鬼の半妖みたいなもんだよなって言うことはこの姿はスキル使用時となるのか。
「スキル解除」
姿はいつもの人間時・クロノに戻り肌、髪は元にあっさりと戻る。
ただ、鬼として名残なのか刺青と爪だけはそのまま残っている。
とりあえず、曲がりなりにも鬼人を喰って鬼に戻れたからあとの諸々は戻ってから確かめればいいか。
クロノはその足でそのまま来た道を戻って鳥居からギルドに帰って行った。




