23.暇な日
昼休み、珍しく食堂で俺たちは飯を食べている
「今日は授業がお昼までなのにMWOが19時までメンテナンスとアップデートで出来ないです!どうしましょう?」
水城は退屈を表すようにスプーンで皿をカチカチと鳴らしている
「暇なのは分かるけどそれはやめろ。家帰って1限の宿題でもしてればいいだろ」
「宿題はもう終わってます。全てはMWOのためにマッハで終わらせました!」
「あっそ」
次の授業時間にしたのかよ和訳
「別の授業中に宿題をするなんていけない子ね水姫」
「だよな・・・恵美?何で食堂にいる!」
「貴方と同じで“お義母さんがお弁当を作り忘れた”だけよ。隣いいかしら?」
「勝手に座れ。あと義理を入れるな」
「いいじゃない。一つ屋根の下に暮らして親公認の仲なんだから」
恵美は人の悪い顔でわざと引っ付くように隣に座る
「向こうが勝手に言ってるだけだ」
「私は別に構わないのだけれど?」
「え、えええ~!!!恵美さん、爛れた関係って冗談じゃなかったんですか!!!!」
見事に恵美の術中に嵌まってるな
「あら、冗談だなんて言ったかしら?」
煽るな
「男の子と女の子が一つ屋根の下、親公認、いけない関係・・・あわわわわ」
「恵美、そろそろやめろ。水姫が許容量不可で沸騰する」
「水姫、嘘よ」
「・・・本当ですか?」
水姫は猜疑心たっぷりの視線を恵美に向け、その当人は妖しく笑って見せるだけだった
「“笑って想像に任せます”じゃなくてちゃんと答えてやれよ」
あとが面倒だから・・・
「同居してるのは両親の仕事上都合。親公認の仲なのはよく“恵美ちゃん、昇のお嫁さんになってうちの娘になりなさい”って叔母さんに言われるわ。この人も私の母に同じようなことを言われてるせいね」
「そういうことですか。納得です」
「分かってくれて良かったわ」
「お前がからかわなきゃ苦労しなかったのにな」
こう話が一段落してすぐにまた何か来る感じがする・・・ほら、来た
「授業ないのにアンタ達、何してるのよ」
学校指定の制服ではなく袴姿でカレーうどんを持った葵が現れ、当然のように水姫の隣の席に座る
「飯食ってたんだけど・・・お前はコスプレして昼飯か?」
「そんな趣味ない!部活」
「弓か」
「一応、弓道で入ったからこの学校。しょうがないわよ、アンタも剣道で入ったのに・・・何で出ないのよ」
「戦う相手がいないだけ弱すぎるんだよ剣道部。それに爺さんから“無闇に若い芽を摘むようなことは決してするでない”とのお達しもある」
「道真さんから言われてるならしょうがないわね。メンテナンスとアップデートが終わるまでアンタは何するの?」
「爺さんの道場で軽く打ち合いでもして、型を一式するかな」
「アレを軽くって・・・どういう体力あるのよ」
顔をひくひくと引き攣らせて明らかに引いている
「引くなよ。たった三時間休憩なしの打ち合いからの型を一時間するだけじゃないか」
「それがおかしいのよ。使ってるのが竹刀ならまだしもアンタのところ全部、木刀でするから恐いのよ!」
「お互いミスったら西瓜だな」
「嫌なもの想像させるな!」
「葵は創造力豊かだよな恵美?」
わざとらしく恵美に振ると
「想像力が豊かということは他の想像力も同様なのかしら?」
「アンタ、何言ってるか分かってんの?」
葵は意味深な言い方に顔を赤くし、恵美の術中に嵌まってることが昇には手に取る様に理解できる
「分かってるわ。MWOの“アーツ”の有用性上、創造力豊かなのは良いということくらい」
「嵌められた」
「あら、人聞きが悪い。私が如何わしいことでも言ってるとでも思ったのかしら」
「うっさい!」
さらに顔を赤らめた顔を誤魔化すようにズルズルと勢いよく啜り、カレーうどんのせいで赤いと主張したいらしいが誤魔化すのへた。カレーうどんの汁が付くぞ
「水姫、悪いけどこのハンカチ濡らしてきてくれ」
「分かりました。マッハで行きます!」
二つ返事で受け取り、すぐさまに席を立ち上がる
「あの子、親切ね」
「そうだな」
優しいともいうけど
「貴方もね」
「気のせいだ」
「ギャッ!カレーうどんの汁が」
言わんこっちゃない。予想通りのことをしてくれる
「昇君、濡らしてきました」
「サンキュー。そのまま葵にそれ渡してくれ」
「葵さん、ハンカチです!これで拭いてください」
こくりと頷くと葵に放り投げる
投げるな!手渡ししろよ!
「ありがと、水姫・・・アンタもね」
「どういたしまして。後日返してくれればいいからな」
「うん、借りとく。部活だから後で」
大事そうに握りしめて、立ち上がり心なし気分良さそうにいってしまった
「俺も行くか。二人はもう帰る?それか暇潰しに道場でも見学する?」
「帰りますと言いたいのですが昇君の道場に興味が湧いたので着いていきます」
「私も行くわ。お祖父様に少し教授してほしいところがあるの」
「分かった。行くぞ」
昇達は学校からその足で直ぐ様向かい、道場を訪ねる
「たのもー。道場破りだ~」
引き戸を勢いよく開けて門下生と奥にいる剃髪の老人に出迎えられる
「ふざけてるわね」
「昇君、声に抑揚があるほうが良いと思います」
二人も昇に続いて中に入る
別に棒読みでいいだろ。本当にするわけじゃないから
「よう、爺さん」
「お前か。ふざけて道場破りなどと言いおって門下の者が殺気だっておるではないか」
「それは困った。ぶちのめすか?」
口元を歪ませ、威圧するように門下生達に視線を向ける。
するとその中からリーダー格らしきキノコ頭の青年が子ども相手に熱くなるのはバカらしいとでもいうように優しい口調で話しかける
「君、先生の孫だからって調子に乗ってないか?」
「調子に乗った覚えはない。そっちがガキ扱いするのは勝手だけど得物持ってるなら先に攻めたほうが敗けなくていいぜ。それとも無手相手に怪我させるのが恐くて腰が引けてるのか?」
腕を組み、鼻で笑ってみせる
「馬鹿にするな!」
余裕の笑みが消え、みるみる赤く染まっていく。その様は今にも襲いかかりそうに拳を握りしめ、必死に踏み留まっているように見える
「くだらない台詞を吐くのは自由だから止めないけど、てめぇの価値は口だけで大したことねぇな。文句があるなら実力を見せてろよ!」
それは火に油を注ぐだけで留まっていた思いを実行に移す引き金にするには充分だった
「祖父の七光りが、その鼻っ柱へし折ってやる!!!」
青年は木刀を引っ掴み、感情のままに床を踏み鳴らして襲い掛かる
「・・・上段の構えか」
構え自体はしっかりしてるし、踏み込みも良いけど感情に飲まれなければっていう前提でならそう誉められるだけだな
昇はゆっくりと息を吐きながら右足を前に、そのまま大きく足を開き、だらりと遅れるように上段の構えから斬り込む木刀目掛けて踏み込み、奪い取って切っ先を首に突き付ける
「まだやる?やるなら互いに得物持って殺ろうか」
「・・・参りました」
「先のは無刀取りではなかろうな?」
一悶着の後で狙ったように爺さんが話しかける
「疑似的な模造品だけど間違ってねぇよ」
「カッカッカ。面白いモノを身につけおって強欲な奴。して今回は如何様だ?」
「俺は打ち合いしたいから来た。そこにいる水姫は見学、恵美は何か教えてほしいんだと」
「は、はじめまして!更科水姫と申します。本日は見学に参りましたよろしくお願いします!」
たどたどしいしくもしっかり挨拶をする水城
「儂は黒川道真。この道場で門下生に稽古をつけているしがない師範代だ。だからそんなに身を固くしなくてもいい。男だらけの何もないところだがゆっくりしていきなさい。恵美ちゃんは何を教わりたいのかね?」
「もっと上手な身体の動かし方を教えてほしいの」
「身体操作術ということかな?」
「たぶん、それだと思うわ」
「・・・ふむ。それはちと難しい」
「?」
「・・・昇、説明せよ」
なんで俺に振るんだよ!悪役にする気満々なのかこの爺さん
「・・・“身体操作術は身体能力が格段に向上するものではなく身体の動かし方がより良くなるものである。それは一朝一夕でできるものにあらず常に鍛錬すべし、ならねばすぐに朽ち果て使えぬものになろう”って言われる。お前がどういう目的で身体の使い方を習いたいのか知らないけど時間が掛かるよ」
「どれくらい?」
「基礎ができてる前提でひと月から三月くらい、それもできてなければ早くて一年」
「・・・そう」
恵美はがっくりと肩を落として明らかに悔しそう答える
「そんな顔しなくても身体の使い方は十分できてる。俺がやめてからしばらくここに通ってた成果は出てるんじゃねーの?」
「気のせいよ!貴方がまたするって期待して通ってないわ・・・運動不足解消に通ってただけよおバカ」一瞬、目を丸くしてすぐに顔を真っ赤にして叫ぶ
「あっそ・・・爺さん、すこしくらいなら教えてやれよ恵美の場合は回避術一択でいいはずだし」
葵とのPvPで動きバレてんだよ。葵も同じようなもんだろうな・・・たぶん
「それなら教えられるが・・・儂には門下の者を教えねばならんのだが」
「俺が指導してやるからその分、恵美に基礎だけでもいいから叩き込め」
「お前の時間も使うがよいな?」
「いいよ。俺を舐め腐った奴らに灸を据えるだけだ」
門下生に何も言わずに静かに視線を向けて笑って見せる
「う~話に着いて行けません。私、完全放置です!」
水姫はふくれっ面を作って分かる説明をしろと訴えてるようにも見える
「あとで説明してやるからしばらく扱きを見てろよ・・・な?」
約三時間ほど、阿鼻叫喚の叫びが道場から聞こえたのは言うまでもない
書いていたらある一戦のデジャブになりましたw




