18.集結
いつもより長くなりました
≪エミルさんからボイスチャット申請が来ています≫
珍しい、アイツはこういうのしないタイプなのに余程の要件か。
まぁいい
画面をタップし、連絡に応じる
「何だよ?」
(出たわね、早くギルドに来なさい。それだけ)
「あっそ」
返事をした時、当人はもういない。一方的に要件を言って切りやがった・・・アイツらしいか。
エミルの要請により早足でギルドに向かい、ドアを開けると・・・
「・・・?」
髪を逆立たせた金髪、左耳に三連ピアスを着けた陰陽服の男が簀巻きにして吊し上げられている
「あら、早く来たわね」
エミルの対応はいつも通りだが、一言話す度にそれを蹴りつけている
「お前がボイスチャットで連絡するのが珍しかったから足早に来ただけだけど・・・どういう経緯で“虹鬼”が簀巻き吊し上げなんだ?」
「そこのスマツルに聞くといいわ!」
スマツルって安直なネーミングセンスだ。簀巻き吊し上げの略じゃねぇか!
「ということでスマツル何をして今の状況に陥ったか説明しろ」
「お~クロやん!おひさー、元気だった?」
「質問に答える気ないだろスマツル」
「クロやん、それ定着させようとしてる~?」
「・・・」
クロノは無言で刀に手をかける
「ちょ、ちょっと!答えないからって暴力は危ないじゃな~い?痛みはないけど刺されたり、斬られると何もないのに気持ち悪い感覚があるんだから分かる?される側の気持ち分かる?」
スマツルは焦りながら顔からいろんな汁を垂れ流しながらされたくない一心でまるで懇願してるみたいだ・・・察するにされた経験があるらしい
「・・・されたくなきゃ答えろよ」
「え、えっと・・・それは・・・」
やっぱり答える気ないだろ!
「しょうがない」
変化のない様子にクロノは清々しいまでの綺麗な笑顔で鯉口を切ってみせる
「クロやん、それ・・・あからさまな脅しじゃん!鬼、悪魔、人でなし!」
言われた当人はさらに鞘から刃を見せて笑ってみせた
「ウッ!分かった、分かりましたから早くその物騒なモノしまってちょ?」
言われた当人は首をかしげて中途半端なモノを抜き放ち、首筋にペタペタと笑って押し当てて続きを催促した
「絶対、コイツ良い死に方しない!・・・俺っちはさ、宴のガールズメンバーに“もっと、はだけて俺っちを元気にさせてよ。目の保養、目の保養!これ、俺っちの好感度上げるための絶対条件だ・か・らよろ~”って言ったら・・・恐いかおして撃たれるわ、斬られるわ、叩かれるわで、こんな状況になったというわけだよ。説明したから助けて同志!」
「いつ、同志になったんだよ?ただ全面的にお前が悪いだけだろ!エンにでも助けてもらえよ」
視線をエンに向けると槍投げのモーションで槍を投擲する
「ホォォォ!そんなところに投げたらダメ、するならもっとマシなとこにエンっち!」
投擲された槍はスマツルぎりぎりで地面に刺さるだけで明らかに脅しだった
「エンが躊躇いなく無抵抗の人間に槍投げつけるなんて珍しい・・・何言ったんだよ?」
「エンっちに“その槍は自分の矮小なモノを隠すためでしょ?”って言っただけなのにあの調子なんだよねぇ~どうにかしてよ同志☆」
コイツって昔からこんなにウザい奴だったけど年々磨きかかってる
「って反省の色なく色々と面白おかしく言ってるけど皆、どうする?」
「「「「「ああ?」」」」」
奇しくもスマツルへの怒りでギルドメンバーが初めて一致団結してしまう・・・面白いからいいか
「皆、それに同意するなら押してくれ」
≪クロノさんが一対多の全損決着を提案しました。集団リンチの対象はコウさんです≫
システムアナウンスって状況によって違うこと言ってくれるから良いよな
「クロやん、極悪非道過ぎる!」
≪ミズキさんが了承しました≫
≪エンさんが了承しました≫
≪ミヤビさんが了承しました≫
≪エミルさんが了承しました≫
≪アオヒメさんが了承しました≫
「動くなよ?」
一息で一気に斬り捨て、簀巻き吊し上げ状態を解放してあげる
「おお、同志よ!ありがとうじゃあ、逃げるわぁぁぁって刃物を人に向けないでって先生に習わなかった?」
「習わなかった。さっさと了承しろ」
「・・・鬼、悪魔、人でなし!」
≪コウさんが了承しました≫
≪御武運を・・・PvPを開始します。START≫
「余計なこと言わなきゃこんな状況にならなかったのに」
「追い打ち掛けたのはクロやんじゃ~ん。責任もって俺っちを助けるくらいはしてちょ!」
「やだよ。四番が二番を助けるわけだろ?鬼に金棒になっちまう」
「それってどういうことです?クロノ君ってオーガバーサスで一番じゃないんですか?」
ミズキが急に口を挟んできた
「ミズキ、俺は一度も一番だと言った覚えはないんだけど」
「アレ?」
「スズキーンと戦った時に言ったことを思い出せよ?」
「“元オーガ・バーサス・オンラインプレイヤー、所属ギルド・鬼の宴、No.4“黒鬼”キャラ名 黒利。現在、マテリアライズ・ワールド・オンラインプレイヤー、キャラ名 クロノ”でしたよね?」
「・・・番号はさっきミズキが言った通りNo.4。これは【鬼の宴】内における俺の序列、実力を表している。その中で“スマツルのコウ”さんはふざけた振りして二番というわけだ」
ホント、何でこんなのが俺よりも序列上位なのか疑問だよ
「絶対、それ定着させようとしてるじゃ~ん?変な通り名はいらな~い。イケメンな俺っちには“全魔の奇策師”っていうイケてる通り名があるんだからそっちで呼んでちょ☆」
「「「「「「やだよ」」」」」」
コウの言い様にギルメン全員の声が否定を唱える
「全員で否定することないじゃん!俺っちもう激おこプンプンコウさんだぁ!覚悟しろよ~クロやん!」
口調が軽い割に、左手に倭刀を持ち、右手には梵字の書かれた札を数枚持ち何かを仕掛けようとしている
「クロノ、奴さんやる気満々にお前を指名してるぜ?」
エンは嬉しそうにコウを指し、肩をすくめてみせる
「ああ・・・」
ご指名は嬉しいけど明らかに罠だよなぁ。相手は格上で楽に勝ち越したことのない難敵。こっちの手札は人数的な有利とたぶん昔を知ってるアドバンテージくらいか・・・
コウに注意を向けながらもいつものように身体から黒と赤の靄を噴出させる
「あれれ~?そっちが来ないなら俺っちが先攻貰い!符術付加・風、炎!速度強化」
札が足に貼り付き、緑と赤が混ざった光が発光したかと思うと、その姿は掻き消えて気づいた時には、目の前で剣を振りかぶる姿がゆっくりと見え、これは確実に“斬られる!”というイメージと言葉が浮かんだ。その刹那に思考に反して身体は反射的に刀を振り抜き、金属音を響かせて一撃を防ぐ。
「アブねぇな。お前速すぎだろ」
下手すりゃ俺がスキル使った時より速いかもしれない
「いい線行ったと思ったのに防がれると思わなかった。やるじゃん我が同志☆」
ウザい奇術師はかち合ってすぐに肉薄してこちらも押し潰されまいと力を入れて半ば強引に鍔迫り合いに持ち込まれる
「うわーウザいなぁ」
持ってかれた!相手のペースに乗せられつつある。それに今の拮抗状態はそう長く続かねぇ、コイツは近接で戦うタイプの人間じゃないむしろ、遠距離から攻撃を仕掛けることで相手が近寄る前に仕留めるタイプ。絶対、何か企んでやがる・・・
「警戒してる?俺っちが何か仕掛けるそんな事しない、しない☆まぁ頑張りなよアハハハハ」
肩に極自然に手を乗せて、また掻き消えてほかの五人にも同様のことをして距離を置き、露骨に何かしてますオーラを匂わしている。
戦闘中に肩に手を置くなんて舐めてる・・・罠か!・・・ヤバイ嵌まってる、相手の術中に嵌まった自覚がある。
クロノは自覚しながらも触れられた肩に恐る恐る目をやると・・・何もない、何も貼られてない。
ふっと息苦しさから無意識に止めていた呼吸を再び再開して、一気に空気を吐き出す
「お前ら、一応コウに触れたところを見ろ!自分で見れないところはほかの奴に見てもらえ!」
指示を出しながら自身も見える範囲を念入りに見るが何もなく、五人に視線をやるが変わった様子は見られない・・・気のせいか
「「「クロノ!」」」
エン、アオヒメ、エミルの驚いた様子で俺を指している
「は?」
気が付かなかったいや、気づけなかった。見たのに見えてなかった。コートに札がびっしりと貼り付いていたことに。
「あっバレちった!でも剥がせないから腕の一本か足の一本は覚悟しなよ~。燃え盛り尽きぬは生命、再炎にその身を焦がせ!“爆符”」
「ちっ!」
その瞬間、辺りを激しい閃光と爆音が包む
「ウハッ!我ながらやり過ぎちゃったかな?」
爆発地点は燃え盛り、人間三人分を横並びにした幅の深いへこみが出来き、その中心にはボロボロの黒コートらしきモノが地面に横たわり、持ち主の姿は見えない。
「アイツが・・・負けた?」
アオヒメはコートだけを見てそう断定した
「何言ってるの?あの化物ならまだ生きてるわ。これは装備だけ棄てただけよ」
エミルは爆発地点の遥か後方で白煙上げる黒い塊を指し示す
「・・・気づくの速えよエミル・・・あと少ししたら皆、勘違いしておもしろいのに」
黒い塊は煙を上げたまま呑気に座り込んで笑ってみせる
残り7割、思ったより喰らったな
「仮にも私たちより強い貴方が負けたことになったら士気に関わるわ」
「あっそ」
クロノはおざなりな返事を返す
「で、それはなんなの?」
エミルはクロノの身体からは今もなお、出ている白煙を指している
「勿論、スキルのエフェクトだが?」
「短い間に貴方はどんどん人害になっていくわね」
勝手に人に害あるものにするな!
「あら違うの?」
エミルは違和感なく心の中を読み、妖しい笑みを浮かべて話を進める
「当たり前に会話を続けるなっていうかこのやり取りの続きは後でしてやるからコウ殺るぞ!」
「分かったわ。何か私たちがすることはあるかしら?」
「主に札を潰し。アイツの攻撃パターン上、札は重要な割合を含んでいる。スキルの予想だけど・・・確実に操作系スキル、増殖系スキル、隠蔽系スキルがあると思うからそれを頭の隅に入れて動いてくれ」
「・・・分かったわ。皆、聞いた通り動きなさい。今回、私達はお邪魔らしいわ」
「誰もそんなこと言ってないだろ」
「事実でしょ?」
語気を強めてはっきりしなさいと言われてるみたいだ
「・・・否定する気はない。このスキルを使った時点で速度も力も強化されるし、コウ相手に余所見もろくにできない・・・だからこそ、背中はお前らに頼みたい」
「そう。はっきり言ったからにはきっちり殺りなさい」
「了解」
自らの頬を叩き、気を引き締める
「うわぁ・・・クロやん気合い入って恐い、恐い☆」
「そんなビビらずに俺を愉しませろよ奇策師!」
化物は嗤って、斬りに駆け出す
奇策師もまた、化物を迎撃すべく札をばら撒くように展開し唱える
「その鏃は縛りて貫き、万物を射る“凍葬槍”」
展開された札は次々と蒼い光を放ち、凍りの尖った礫を生成し、放射していく
「趣味が悪い。俺一人に対して多人数レベルの出しやがった!」
接近を阻むように礫は雨のように降り注ぎ、それを避け、砕きながらも足を止めずに突き進む
「あれ?全然、止まらない。俺っち大ピンチ~☆」
その態度だと全然ピンチにみえねぇよ
「ぶった斬る」
「七望の力を紡ぎ、重ねて収束し放て“七砲”」
礫の雨を抜けて迫る刃を前にコウは七枚の札を展開し、赤、青、緑、黄、茶、黒、白と一枚ずつに色が燈り、その中心でエネルギーを収束させて放出させる
「おいおい目の前に来た途端、それ無しだろ!氣術・身体一点強化」
目の前に迫る七色に混ざったレーザーに対して腕を交差させてクロスガードで立ち向かい、衝撃で地面を抉り、数メートル後退されながら耐えきる
「俺っちのスペシャルな一撃に・・・耐えきった!」
「氣術あってよかった。確実に死んでた・・・・ほかにあんな技ねぇよな?あったら次は・・・」
HP残量を確認して身体から嫌な汗が伝うの感じる。凍りの礫の時点で6割、レーザーで残り3割、MPも同じくらい。量で言えばアーツ二回分・・・今回は氣術を使ってHP、MPを使いきり一気に強化でPSを強制的に発動させる!これは賭けだ、勝って官軍、負ければなんとやらだ!
「クロやん、もうHPろくにないじゃん。俺っちはまだまだあるし、一撃も貰ってないからヨユ~」
コウはHPを確認して余裕の笑みを浮かべる
事実、一撃も与えられてない。当たらないわけじゃない、当てられないくらいコイツが強い。けど、当たれば魔法職ゆえに防御面の脆い欠点がある。
「そうだな、お前の言うとおりだ。でも、殺るからな?今から殺すことだけに集中する・・・」
「すっげぇ物騒な物言い。俺っち怖くてチ・ビ・り・そ・う♪」
わざとらしい言い方をして安っぽい挑発をするが・・・静かな息遣いだけが聞こえるだけだった
「・・・・・・氣術・身体強化」
身体からはさらに白煙が噴出し、耳にはガラスの割れる音だけが聞こえてまた化物は口を三日月に歪ませて嗤う
「特攻だぁ♪賭けに出る気かぁお手並みはい・・・」
何かを感じながらも変わらないコウのふざけた口調や笑みが一瞬で凍る。目の前にいなかった人間が突如、出現して気がつけば蹴り飛ばされ壁に激突寸前で頭を掴まれ、地面に叩き付けられる。まるで漫画の世界だ・・・コウはされるがままそう思った。そして次に化物の取った行動は乾いた音が四回、四肢を銃弾で穿ち、顔面を掴んで地面を削る様にそのまま引きずりその様は地面を耕してるようにも見える
「生きてるか?奇策師」
「なんとかね。俺っちのゴールデンアームとゴールデンレッグが動かしずらい以外は問題ないぜ同志☆」
「よくもまぁこの状況でそんな口が言えるなんて大したやつだよ」
「今回は俺っちの負け。HPもごく僅か、あんまり痛くないように終わらせてくれることがき・ぼ・う♪」
「・・・」
そんな希望は空しく無言で頭を掴み上げられ、ゆっくりと嬲るように刃を突き刺して終わらせた
≪対象が斬られました。一対多のPvPを終了します≫
戦闘終了後、なぜか重苦しい空気が漂う。原因は先の戦闘によるものだろう・・・最初に口を開いたのはその元凶たる張本人
「いやぁアイツ、強いから焦った、焦った。お前ら、大丈夫だったか?」
本人は上機嫌で話さないギルドメンバーに聞いてみるが反応がない
「おーい、シカト?それとも・・・てめぇら邪魔者扱いされたこと気にしてるのか?」
その言葉に全員の身体がピクリと反応を示す
「仲間から言われるようなことじゃないよな?だからって謝る気はない。ただの現状における俺との実力差ってだけ・・・差を埋めたきゃプレイヤースキル磨くなり、良いスキル獲得して戦いまくって強くなりゃあいい。そうすれば嫌でも強くなるだろ?」
「・・・簡単に言うじゃない。私たちはアンタと違って地力がそんなにないって分かってんの?」
アオヒメは皆の代弁するように悔しそうに言う
「そうそう、貴方が狂ってるくらいに一人で突出してるのよそれが理解できるのかしら?」
エミルは面と向かって言われたにも関わらず、アオヒメと違い変化が見られない。
「二人の言うとおり、現実で槍触ってる俺から見てもそう見えるぜクロノ?」
エンは普段通りに笑って二人の意見に賛同する
「三人とも、普通よりも逸脱してんだからあんまり説得力ねぇよ。二人はどう思った?」
三人の主張をあっさりと一蹴し、普通の二人に話を振る
「「恐い、異常、獣、顔掴まれたくない!どうやってそんな強くなれるの?」」
あれ、トラウマ植えつけちゃった?まぁ聞いてくるあたりは大丈夫か
「さっき言ったことやってたら今の強さが手に入っただけだ。二人の場合、今の戦闘スタイル続ければ遠からず、エミルくらいは単機でやれるんじゃねぇの?」
だってエミル生産職だからアオヒメやエンよりは楽に倒せるだろうし・・・
「私、頑張ります!打倒エミルさんです」
「ギルドマスターとして一人くらいは自分より下の子がいたほうが安心・・・じゃないとマスターとしてのあたしの威厳が」
二人は心の声らしきモノを口に出して打倒エミルを誓うのだった
「貴方、二人を煽るの上手ね。でも・・・あんまりふざけたこと言うと怒るわよ?」
エミルから何か般若的なモノが視えたけど気のせいだよな・・・?
≪GMからメールが届きました≫
≪クロノくんへ
全員いることが分かったからこの内容、そのまま送ったよ
“色鬼、全員に告ぐ。このメールを見た後、広場に集まれ!久々に顔合わせしようby 黒鬼”
ボクも直接見に行くから盛り上げてね♪byフェリ≫
「何よコレ!」
「こりゃあ一悶着あるぜ!」
「あら、楽しそうね」
メール内容に三者三様の反応を示し、黒い鬼も嗤う
別のところで・・・
「君はいつも、中心にいる。皆に会うの愉しみだよ」
白エルフは誰に言うでもなく嗤う




