10.圧倒
「フェリちゃん行っちまったな」
「そうだな。さっきの続きでもするかエン?」
「俺は構わないぜ?ミヤビ達がどうするかにもよるけど」
「どうする?」
できたら消化不良のまま終わってほしくないんだけど・・・
「ク~君が続きを戦りたいみたいだから今回は受けてあげるよ。二人ともいいよね?」
ミヤビは振り返り二人に視線を送ると揃って頷いた
「よし!加減せずに殺るか!」
「ちょっとは加減してよ!」
「嫌だ!4対1何だから加減する必要ねぇだろ?」
ミヤビの発言に呆れつつも正論を述べる
「で、でも!」
尚もミヤビは食い下がる
「分かった。お前の最大級の技アーツでも魔法でも一発だけ無抵抗で受けてやる」
「死ぬよ?」
「死なねぇからさっさと来い!」
ミヤビは念を押すようにもう一度言うと魔法を唱え始めた
「大気よ、我が呼び声に応え、収束し彼方の敵に刃を与えよ!」
詠唱をし始めると同時に足元に薄緑色の幾何学な魔法陣が形成されて辺りに風が起こる
「やる気満々じゃねぇか」
「風魔法“風刃”!」
詠唱が終わると同時に扇を振るい風刃を飛ばした
「たぶん、PSがなければ即死だろうな」
迫る刃を目の前に呟き、壁に叩きつけられた
「本当に抵抗してない!大丈夫かな?」
「アイツが受けるって言ったんだから死なねぇよ。これで死んだらただのバカ野郎ってだけだせ?」
風刃の影響で舞う土煙にエンは目を向け笑い飛ばす
「そこの槍バカとどう意見なのが癪にさわるけどありえないわ。あの化け物が死んだところ対人戦闘じゃ一度も見たことないもの!」
昔を知ってるだけにエミルの言葉は確かな信頼感があった
「生きてても死んでいてもとりあえずこちらから仕掛ければいいんです」
ミズキはクロノがいると思う辺りに引き金を引く
弾丸は真っ直ぐに煙の中に吸い込まれ、弾かれた音だけが耳に響いた
「ギャ、生きてる!ホントに生きてる!」
ミヤビが煙の方向を指すとそこには黒いコートを靡かせ、肩に刀を置き、紅い眼だけが爛々と輝きを放ち、口許は子供の様に無邪気に嗤っている。まるで斬ることを快楽としている人間のそれだった
「ちゃんと一撃喰らってやったんだ。本気で相手してやる!」
体力は予想通り即死領域つまり1だ。次に喰らえば死ぬ。まさに生きるか死ぬか
クロノは嗤いながらミヤビ目掛けて駆け出した
「あああぁぁぁ!!」
ミヤビは叫ぶだけで蛇に睨まれた蛙ように身体は全く動かせていない。その間もグングン二人の距離が縮まっていく
「驚いてる間があるなら構えろ!」
駆け出したまま刀を構え、一気に振り下ろすがその瞬間、槍が横合いに入り斬ることはできなかった
「オイオイ、お前にしては攻撃が杜撰だぜ?クロノ」
エンはミヤビを守る様に前に立ち塞がり、クロノの一撃を受け止める
「アタシまだ生きてる・・・エン何でいるのさ?」
「お前が弱虫になってるから助けたんだぜ?確かにあんな獰猛な目で見られると動けなくなる気持ちもわかるけど当てるか逃げろ」
「・・・とりあえず下がるよ」
ミヤビは頷くとその場から直ぐ様離れた
「続き始めてもいいか?」
「いいぜ!」
仕切り直しとばかりに互いに距離を取り向かい合う。
こっちは一発貰えば負けにアイツはさっき蹴り飛ばしたダメージ込みで残り6割弱。できるだけダメージ稼げるとこ狙って斬るか
クロノは抜き放っていた刀を鞘に収めて腰から外すと半身のまま向き合い、左手で鞘を持ち、右手を柄に添えて腰を左に捻る
一方、エンは切っ先を向けたまま構えを変えながら距離を詰めていく
「何だ、警戒してるのか?」
「・・・してる。その構え、抜刀術だろ?現実でやってねぇと絶対、使えねぇ技術だせ!」
「お前は槍術だろ?そういう色が視える」
・・・槍は間合いが広く相手を捉えるにはうってつけ、近付く前に刺し殺せば勝てる。近接戦闘において鉄砲が出るまで長柄武器によって武功を上げてきた武将は多く、歴史上それは間違いない。ただそれだけで一気に懐まで踏み込めば刀の方が有利!できる人間はごく少数だろう
「してる奴にはバレちまうのか!なら、剣術と槍術どっちが上か勝負しようぜ」
話ながらも互いの距離は少しずつ詰まり、勝負はどちらかの間合いに入れば一気にケリが着く
「御託はいい。斬ってやるからさっさと来い!」
俺は有利になるように煽り、誘った
「舐めやがって!その減らず口、叩けなくしてやるぜ!」
エンはジリジリと距離を詰めるのをやめ、身体からスキル特有のオーラを立ち昇らせてその足を一気に加速させる
さっき突っ込んできた時よりも速い。スピード系のスキル発動してやがる!目測にしてあと一歩分でアイツは絶対突きを繰り出す
「喰らえぇぇぇぇ!!これが本当の突きだぁぁぁ」
猛る獣のような声とともさらにスピードを上げてエンの渾身の一撃が迫る
「また“突き”かよ。どれだけ刺し殺す気だ」
眼前に迫る突きを半身のまま避け、踏み込み深く斬りつける。しかしそこで槍は耐え、止まることなくすぐに戻して突きの連撃、続けざまに薙ぎ払いに襲われる。クロノは読んでいたのか全て当たらず、エンだけが疲弊し、斬りつけられて傷を増やしていく
「・・・どういう回避性能してんだ。牛若丸かお前は!」
「橋があったら飛んで避けるだろうな」
クロノはまた鞘に納めて抜刀術の構えを取り、身体からは黒と赤の靄が立ち昇る
残り2割弱。相手は危機領域、アーツならたぶんスキル抜きで一撃死で殺せる。けど今回はスキルだけ使って殺す!
「嫌味か!」
八つ当たり気味に突きを繰り出すが当たる直前、クロノは身体を地面に倒れるようにして視界から消える
「ど、どこに消えた」
慌てて辺りに視線を向けるがいない
「後ろだ。黙って斬られろ」
――我流抜刀術・霞鳥
静かに鍔鳴りがしたあと遅れたように肩口から脇腹にかけて、鮮血が噴き出す
「これがお前の本気・・・敗けたぜ」
そう言い残して、フィールドから霧散した
≪エンさんがクロノさんに討ち取られました。残り三人です≫
「―――次。って言いたいけどやめていい?」
フィールドから消えたのを見届けると振り返り、立ったままの三人に告げる
「アタシが言うのもなんだけどさいいのかい?」
やや遠慮がちに声色には心なしか安心した感が伝わるのは敢えて指摘しないでおこう
「残念です。肘打ち36号を御見舞いしたかったのですが・・・」
現実の時から少なからず残念だと思ってたけど残念に拍車が掛かってるなぁ
「戦闘狂にしては珍しい。わるいことでもあるのかしら」
口許を手で隠し、紅い眼だけが含み笑いを浮かべている
こいつ、俺がやめた理由に気付いてるな
「エミル、さっきの技の仕組み気付いてるだろ?」
「ええ、全部見えたから説明してあげましょうか?」
首を傾け、小悪魔のような笑みを作る
AGI上げた状態で使ったのに見えるなんてどういう眼してんだよ?
「やめてくださいお願いします」
「やけに素直ね」
「お前と口喧嘩しても負けが見えてるからな」
「浅知恵を付けたわね」
「うるせぇ。アイツには絶対黙ってろよ!」
「素直さに免じて黙ってあげる。けど時間稼ぎにしかならないわよ?」
「ってことはアイツもプレイしてるのかよ」
「プレイスタイルは双剣、双銃。“近いうちに会いに行く”ってメールが送られてきたわ」
「じゃあ、会った時に勧誘してみる」
こっちに引き込んだ方が戦力アップに繋がるし見つけたら声かけてみるか
「よろしく。東か西のフィールドにいると思うわ」
「分かった。ちょっと行ってみる」
さっきのは都市を中心として東西南北の順に強くなっているエネミーのレベル帯のフィールドを示している。
「さっきからアタシ逹抜きで何の話してるさ?」
「新しいギルドメンバーの話だ」
「それをアタシ抜きで進めるなんてひどいじゃないかク~君、エミル」
弱虫でもギルドマスターか
「連絡するから待ってろ」
「ごめんなさい。でも貴女より強くて変にプライドが高いから私達だけで進めようと思ってるの」
「じゃあ二人に任せるよ~」
「新しく加入予定の人は私よりも強いですか?」
「強いわミズキ」
「エンより強くて俺より弱い」
「PvPやめるけどいいよな?」
三人は頷き、PvPは終了した




