会合
「しっかし…可愛いなぁ~」
食事中なのに、宵さんに抱きしめられ、頬ずりをされる。
「…まだたべてる」
「つれないなぁ。でもそこがまた…」
「ろりこんはだまって」
しかし離れない。これ以上言うのも面倒だから、食べ続ける。
そのうち、後ろから抱きしめられて頭に顎を乗せられる。
「美味しいか?」
「…うん」
宵さんは毎回ごはんのたびに新鮮なお魚を買ってきてくれる。前はあんまり好きじゃなかったけど、今は好き。
「今日は会合だからな…初めてだったか?」
「うん…わたしのしょうたいがわかるんだよね」
わたしたち化け物の正体は妖怪…らしい。西洋か東洋かは分からないけど。
「ああ、決まったらそれっぽい名前をつけてやるな」
「うん」
わたしには名前が無い。忘れちゃった。
だから宵さんがつけてくれるって言った。分かりやすいようにわたしの元の妖怪にちなんで。
「わたしがどんなばけものでも…宵さんはそばにいてくれる?」
「もちろんだ」
頭を撫でられ、頬にキスされる。…やりすぎ。
「…イタリアがえりのろりこんどへんたいめ」
「え!?どこでそんな言葉覚え…!!」
「ものしりなおねえちゃんがおしえてくれた」
宵さんはスキンシップが激しい。少なくともわたしには激しすぎる。
「あいつか…」
「ごちそうさま」
手を合わせると、また宵さんに撫でられ、口を拭かれる。
「…じぶんでできる」
「俺がこうしたいんだ」
そして大量のワンピースが運ばれ、また宵さんが選ぶ。(じぶんでもえらべるのに…)
「よし!今日はこれだな」
今日のワンピースは水色のワンピースになったらしい。なぜだかここにあるワンピースはみんな、お人形が着るようなフリフリのワンピースなのだ。
「いいか、嬢ちゃん。どんな結果でも大丈夫だからな。ずっと一緒にいてやるからな」
「うん、だいじょうぶ」
何か色々トラウマを思い出すかもしれないらしい。
「いやそれよりも…」
首を傾げると、宵さんがいかにも心配そうに叫ぶ。
「こんな可愛い俺の嬢ちゃんに男共が群がらないだろうか!?群がるに決まってる!!」
「わたしは宵さんのものじゃない」
「ああどうしよう!スタンガンでも持たさないと…」
もういいや。全く聞かないし。
あ、でも宵さんを黙らす方法があった。…気は進まないけど。
「宵さんだいしゅき」
宵さんが固まる。そしてその頬にすかさずキスをすると…
ブシュッ!
噴水のように鼻血を放出させながらぶっ倒れた。
「…たんじゅん」
「ねー、男ってみんな単純よね♪」
いつの間にか、部屋に人が二人増えてる。
「おねーちゃん…と、あかいひと」
「やっほ、おチビちゃん」
「…………………………」
物知りなお姉ちゃんはお隣さんで、赤い人は髪も目も赤い男の人。
お姉ちゃんたちも化け物で、しょっちゅう遊びに来る。暇人(暇化け物)なのかな。
「今日の会合、楽しみよね~」
「そう?」
「おチビちゃんの素性が分かるんでしょ?どうせなら可愛いのがいいわよね~」
化け物に可愛いも可愛くないもないと思うけど。
「…おねえちゃんはなんだっけ?」
「私はあれ、火蜥蜴よ」
そう言って、スカートの下から尻尾を覗かせた。
「ふーん…あかいひとは?」
「…………………………」
答えてくれない。そういえば赤い人が喋ったのを見たことがない。
「そんなことより着替えだっ!みんな部屋を出てっ!!」
宵さんが皆を追い出したので、もぞもぞと着替える。被るだけのワンピースだから一人でも着替えられる。
『嬢ちゃん、終わったか?』
「うん」
答えた瞬間扉が開いて、宵さんに抱きしめられた。
「なんて可愛いんだっ!俺の嬢ちゃんっ!!」
そしてまた頬ずり。だからわたしは宵さんのものじゃないって。
「大好きだよ嬢ちゃんっ!もうすっごい可愛いっ!!さっすが俺の嬢ちゃんだっ!!」
もう恥ずかしいよ…
「全く、宵さんったらおチビちゃんが困ってるわよ?」
そしてそれからたっぷり時間が経ってから宵さんが離れる。
「じゃ、髪をとかしてやるからな」
長めの前髪を真ん中で分けて、後ろの髪を梳いてもらう。
「綺麗な色だな…すごい綺麗なスカイブルーだ」
「…きれいじゃないよ」
化け物になった一年前から、髪の色は水色に変色してしまった。…真っ黒だった昔の自分の方が好きだったのに。
「そうかい?」
「…そうだよ」
宵さんはそれ以上何も言わない。このやり取りは何回もしたのに、宵さんはすぐ忘れちゃう。
「それよりもうすぐ車に乗らないと間に合わないわよ?」
どうやら会合は車で結構掛かるみたい。あと二人も一緒に行くみたい。
わたしたちみたいな存在は無所属(?)の妖怪たちから狙われやすいからだって。
ちなみにわたしたちが所属している(らしい)ところは穏健派で、目標は人間との共存らしい(無理だと思うけど…)。
…私の姿を見たとたん、刺す人間だっているんだもの。
「さ、行きましょう」
宵さんにお姫さま抱っこをされて車に運ばれる。
「…くるまいすは?」
「今日はずっと俺が抱っこしてる。そっちのが安全だからな」
そういえば宵さんが何の妖怪か知らないや。
「大丈夫、嬢ちゃんはちゃんと守るから」
また頬ずり。
「さ、嬢ちゃんは寝てな」
その言葉に甘えて、宵さんの腕の中で眠った。
しばらくしたら着いたみたい。寝てて分かんなかったけど、七時間は経ったみたい。宵さんに訊くと、今は午後六時だって。
「乱暴な奴もいるから気をつけろよ」
「うん…」
それよりお腹減った。お昼ごはん食べてないし…
やたらめったらおっきな建物に入ると、人がたくさんで食べ物もたくさんあった。くーくーお腹が鳴って空腹を主張する。
宵さんの裾を引いて、耳元に囁く。
「おなかへったよぅ…なにかたべたいよぅ……」
すると、宵さんがロブスターを取ってくれる。自由に食べていいみたい。
「ほら、あーん」
「あーん。…おいしい」
食べ物は何でもあるらしい。高そうなお魚とかのお刺身も食べた。フグがおいしかった。
「ほら、伊勢海老もあるぞ?」
「むぐむぐ…おいしい」
当初の目的そっちのけで食事を楽しむ。空腹が収まって良い気分になっていたところ…いきなり邪魔が入った。
「よう琥珀…なんだそのチビ、喰うのか?」
宵さんの知り合いらしいそれは…鬼だった。
二メートルはある大男で、牙と角が生えている。いかにも乱暴そう。
「…誰?」
「オレだよ!鬼童蒐悟だよ!」
宵さんは首を傾げたままだ。
「女以外の大半の名は覚えていない」
「んだと!へんてこなスカーフなんて頭に巻きやがって!なんだその緑は…痛っ」
スカーフにけちをつけたから伊勢海老の殻を投げてやった。
「何すんだガキっ!!」
「ナイスだ嬢ちゃん!!」
とりあえず大男にあっかんべーしてやった。
「嬢ちゃん可愛いーっ!」
なんか宵さんがトリップしてるけど、いつものことだからまあいいや。
「こんのクソガキ…!!」
「宵さんをわるくいった。宵さんをいじめていいのはわたしだけ」
大男が若干引いたような顔をしてる。
「嬢ちゃん…俺は一生嬢ちゃんのものだっ!!」
あれ…なんか相思相愛みたいに…?
「これって相思相愛だよな!愛してるよ嬢ちゃん結婚しよう!!」
「ちがう!そういういみじゃない!」
(大体年齢的に無理だよ!?)
とりあえずそばにあった水を宵さんの顔にぶちまけることにした。
「うわっ!…全く、嬢ちゃんったらツンデレなんだから」
ちょっとイラッときた。
「はなしをきいてくれないひとなんて…きらい」
宵さんの黙らせ方その二。これなら鼻血が出ることは無い。
…でも少しやりすぎたかも。宵さんが硬直している。
「おい琥珀、そのチビ喰わないのか?」
宵さんはその言葉にハッとして、抱きしめられた。
「食べるわけ無いだろこのデカ物!…大体共食いは禁止されている。そしてこの子に手ぇ出したら…殺す」
案外早く立ち直った。
「けっ、このロリコンが」
「ロリコンじゃないフェミニストだ。行こう、嬢ちゃん」
宵さんが大男から離れてく。わたしも最後にまたあっかんべーした。
「…宵さん」
「どうしたんだい、嬢ちゃん?」
「わたし…宵さんのこときらいじゃ…」
「あらぁ~琥珀くぅ~ん?おひさぁ~」
…また邪魔された。しかもさっきの男より嫌だ。
「ん?…ああヴァネッサさん、久し振り」
金髪の女の人が宵さんに抱きついてる。美人でしかも胸が何食べたらこんな風になるんだってくらいおっきかった。
この人はサキュバスに違いない。絶対絶対サキュバスだ。
宵さんはだらしなくでれ~っとしてる。
「あらぁ~、可愛いわぁ~。妹さんなのぉ?」
「ちがう。宵さんなんかのいもうとじゃない」
宵さんが軽くショックを受けてるけどいい。
「そぉなのぉ~?よろしくねぇ~」
やたら語尾が伸びる。…目障り。
そう思ったら勝手にいなくなった。
「そういや嬢ちゃん、さっきなんて言い掛け…」
「やっぱり宵さんなんてだいっきらい」
宵さんは数秒間固まり、わたしを近くにいた赤い人に渡し…
「うわぁぁぁぁぁああああんっ!!!!!嬢ちゃんに嫌われたぁぁぁぁぁぁぁああああああっっ!!!!!!!!!」
…何か叫んでどこかに行っちゃった。
「嬢ちゃあんっ!!」
と思ったら戻ってきた。
「やっぱり嬢ちゃんは俺が抱っこするっ!!」
そう言って宵さんが赤い人からわたしを奪い返す。
「はぁ…やっぱり嬢ちゃん可愛いよもうめっちゃ可愛いよもうマジ天使」
何かダメージ消えてるし。宵さんはよくわかんない。
「…うしぢちにだきつかれてへらへらしてたへんたいめ」
「うしぢち…もしかして嬢ちゃん、ヴァネッサさんに嫉妬…」
「宵さんはほんとうにしねばいいとおもう」
ついでに一発ぶん殴っておく。
「嬢ちゃぁぁぁぁぁああああああん!!!!」
あれ?…そういえば当初の目的なんだったっけ?