第九十一話:デリック・ラン・フォーレ
庭園を歩きラークを案内している庭師は、籠を抱えながら明るい声で喋った。
「庭園の庭師は代々ある一族が管理してるんだが、俺は特別に、庭園の庭師になったんだよ。
さて、何故でしょう?」
庭師は振り返って試すような口調で聞き、それにラークは手を顎に当て思案した。
「ふむ…何か特別な功績でも立てたのか?」
「正解」
庭師は詠唱を始めた。
(詠唱だと?!
この庭師、まさか私を狙ってここまで誘導したのか!)
ラークは身構え短縮詠唱を始めたが、その途中で庭師はラークの警戒に気づいたのか、籠を持ったまま振り返った。
「ああごめんね、驚かせたみたいで」
「今のはどういう意図あっての行動だ?
場合によっては、貴様の人生にかかわることだ!」
ラークの語気を強めた言葉など微塵も意に介さず、庭師は片手で頭を掻いた。
庭師は片手を軽く空にかざした。すると、薄い緑の模様が見えてきた。
模様は広がっていき、わずか数秒で女性の人型に変化した。
「さっきの詠唱は、俺の契約精霊を呼び出す魔術さ」
「精霊術か…では何故呼びだしたのだ?」
「ほら、俺が庭師になったのは特別な功績のおかげって話だったろ?
この精霊がそれに関係するんだよ」
どういうことだ─とラークが困惑していると、女性の人型の精霊が喋りだした。
「デリック様、本日はどのようなご要件でしょうか?」
「今日はあまり仕事をしない日だから、俺の後ろを付いてきてくれ」
「承知しました」
庭師と精霊の会話に耳を傾けたラークは驚愕した。
「今、デリックと?」
「はい、そう言わせていただきました」
ラークは再び驚愕し、ある仮説を思いそれを確認すると、青ざめた。
庭師の籠の下の方には、よく見れば黒色で金銀の糸の刺繍が施されたローブが見えた。
自分はもしや、彼にとんでもない非礼を行ったのではないか?─そんな疑問に包まれ、そしてすぐに庭師に頭を下げた。
何故か?
「申し訳ありません、これまでの非礼、お詫びいたします─『黎明の魔術師』様」
そう、庭園でこれからの植物への可能性を見出し、明るく大らかなこの庭師、彼こそが七賢者最後の一人、『黎明の魔術師』デリック・ラン・フォーレであったからだ。
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