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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第八章:王城編
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第九十話:画期的な研究

 馬車に揺られ、王城についたラーク・ヴェルトンは、馬車から降りると、眼前に映る王城の荘厳さを感じ取り、感動と緊張の入り交じった気持ちで道を歩く。

 そんなラークをチラチラと見て、彼の前を歩く養父ヴァルトン侯爵は言った。


「少し、緊張しているだろう?」

「そ、そんなことは…」

「動きが硬いよ」


 ラークは立ち止まり、自分の動きを確かめた。

 今年の新年の儀は、ラークのヴァルトン侯爵家の跡継ぎとしてのお披露目になる重要な日だ。

 そんな重要な日に失敗は許されない。そう意識しすぎたせいで、ラークの身体はガチガチに固まっていた。

 侯爵家の跡継ぎとして社交界に出ることもあったラークだが、ここまで荘厳で、なにより歴を感じられる重厚感を感じたことはこれが始めてで、それ故に王城にラークは気圧されていた。


「申し訳ありません…!」

「構わないさ。

 初めて来るのだから仕方ないことだ。私も昔はそうだった」


 養父もそうだったのか─と思うラークを見ながら、ヴァルトン侯爵は髭を撫でながら「ふむ」と呟いた。

 機嫌を損ねてしまっただろうか─不安を感じるラークに、ヴァルトン侯爵はこう告げた。


「せっかくだ。この城の庭でも見に行くといい。

 ここの庭はとても美しいし、もしかしたら面白い人物とも会えるかもしれない」


 気を遣わせてしまった。

 ラークはそれに反省しながら、ラークはその言葉に甘えることにした。

 緊張を解さないとこの身がどうにかなってしまいそうだったからだ。


「ありがとうございます、養父上」

 「なに、君は若いのだから、少しばかり浮かれてもいいだろう」


 ラークは養父に一礼してから、静かに庭に向かっていった。


 * * *


 ラークは目の前に広がる庭園を見て、感動の感嘆を出した。

 今の季節は冬、この季節で咲く花の種類は少ない。

 だというのに、冬薔薇は勿論のこと、それ以外の冬に見ないような花たちも美しく咲いていた。

 歩きながら鑑賞していくと、1つ記憶にない花があることに気づいた。

 その花はまるで花火のように散り散りに花を咲かせていた。色は最も濃く明るい、絵画で使われそうな色相だった。

 初めて見る花に魅了されていたところ、後ろから声がした。


「やあやあこんにちは!その花綺麗だろう?

 実はその花、最近レティーラ王国と国交を結んだ国からお近づきの印として贈られた品種なのさ。

 名前は確か…そうだ、菊さ」


 振り向くと、籠を持った男性が現れた。

 庭師だろうか?

 ラークがそんなことを思っていると、庭師は笑顔を浮かべながらラークに話しかけた。


「新年の儀の参加者だろう?

 すまないが、どこの家の人なのかな。今回は色々短縮されたおかげであまり参加者を覚えられていないものでね」

「ヴァルトン侯爵家の、ラーク・ヴェルトンだ」


 「おぉ」と吐息をつくと、庭師は持っていた籠を下ろし、礼をした。


「いつもヴァルトン侯爵にはお世話になっている。

 君はそのご子息…跡継ぎなのだろう?」

「えぇ、まあ」


 ラークが歯切れ悪く答えたことも気にせず、庭師は言い続ける。


「彼には多く出資してもらっているのでね」

「出資?養父が?」


 「見てご覧」、彼はそう言い目線を庭園に向けた。


「君は若いから、この庭を見て少し疑問に思ったことだろう。温室でもないのに、どうしてここまで成長できているのか、とね。

 その秘密は肥料にある」

「肥料?」

「そうだ。肥料に魔力を付与しているのさ。

 知っての通り、ここレティーラ王国では魔力を動植物に付与することは禁止とされているが、それは人体に害を及ぼさない範囲内なら禁止とみなされない」


 ラークは庭師の話を整理しながら頭の中で、どうつながっていくのかを考えた。


「つまり、その範囲内であればたいていのことは許されるわけか」

「その通り。

 俺達は魔力という摩訶不思議なエネルギーで、今日もまたさらなる安全と利便さの発展のために働くのさ」


 そこまで喋ると、庭師は肥料の仕組みを説明しだした。

 どうやら、人間や竜が生まれた頃から魔力を持っているのと同じように、この世界の、動植物含めたあらゆる物は魔力を持っている。その魔力の総量を変えず、中の比率を調整することで、動植物にどんな変化が起きるのかを研究している、らしい。


「動植物ってのは不思議なもので、魔力の総量をちょびっとでも変えたら、調整のしようがない大きな変化ができてしまう。

 だが魔力の比率は違う。ほんのちょびっとだけ変えても出るのは僅かな変化だけだ。けど僅かな変化と言っても、それは総量を変えた場合と比べての話。

 魔力の比率を少しずつ調整していけば、この花たちのように、冬の厳しい寒さにも耐え抜く品種の完成ってわけさ」


 ラークはその話を聞いて、彼の養父がこの研究に出資したことに納得した。

 この研究が進めば、植物が咲かない場所にも咲かせることができるだろうし、そうなれば食料問題も一気に前進する。

 長期的な視野を持っていく必要はあるが、未来に託すには十分なことだった。


「…素晴らしいものだな」

「だろう?ただ問題もある。

 意図的に植える以上、その土地土地の生態系を乱すこともあるだろうし、失敗すれば豊かになるどころか、土の魔力を吸い取って逆に汚してしまう。

 魔力を意図的に変化させた場合の安全性や副作用、そして責任についても研究、討議する必要があるのさ。

 こらは、人体改造を許可してる帝国(あっち)と比べりゃ劣るところだな」


 魔力は一定量を超えて保有してしまうと身体に害をなす。それは魔力過剰吸収症状を患うラークも大変理解しているところだ。

 食用のものとなれば、その安全性は厳しく研究そして審査されることだろう。決して楽な道のりではなく茨の道だ。


「私は、この、貴方の研究を素晴らしいと思う。

 いつかは分からないが、順調に研究が進めば、飢饉などの食糧難の際に多くの命を救うだろう」

「それはうれしいものだ。次期ヴァルトン侯爵にそう言ってもらえるなんてな」


 庭師は人が良さそうな笑顔を見せながら笑った。


「さて、これから時間があるようなら、一緒に庭園を見て回らないかい?今ならこの俺の解説付きさ!」

「それでは、お願いしよう」


 こうして、庭師と侯爵令息というふしぎなペアが誕生した。

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