第八十九話:妖玉の間
二学期が終わった。
二学期は三校大会に学園祭と、イベント盛りの学期だったが、無事終わらせることができた。
冬休みに入ってからは、特に問題なく過ごせた。
…いや、冬休みに入ってすぐに、正式な護衛任務があったが、特に問題なく終わった。
内容は、フィリップが外交で国境付近の、ある公爵家─ミディアムの実家─に急遽行くとことになり、急遽ミリアとモナカが正式な護衛任務を行うことになったのだ。
まぁ邪竜が出たり、その影響で右腕に長引く怪我をしたりなどアクシデントはあったが、護衛任務は無事に終わらせることができた。
確かモナカも左手を怪我していたが、大丈夫なのだろうか。
* * *
護衛任務で冬休みの日数が減り、1日休んだところで、レティーラ王国は新たなる信念を迎えた。
レティーラ王国では、新年を迎えてからの1週間は王城で新年の儀が行われる。
新年の儀は、初日に宮廷貴族と大臣を招いての式典が行われ、その後1週間をかけて国王主催の貴族達による宴会が開かれる、というのが通例だが、今年は国王の様態が芳しくないそうだから、大幅に短縮されることだろう。
ちなみに今年は国王陛下は表には出れないそうなので、式典の方は第一王子、宴会の方は第二王子が取り仕切ることになったようだ。第一王女と第二王女はこういった式典の開催や主導は手慣れているので、そういう経験のない男子の方にやらせたのだろう。
そういうわけで、王城内では第一王子派と第二王子派が睨みをきかせ合っているので、貴族達は常にピリついている。
七賢者であるミリアは式典から宴会まで出席する必要がある。
面倒くさい。早く終われ。
そして是非権力争いに巻き込まないでほしい。
ミリアは誰が王になってもいい派だから、どうか平穏に終わらせてほしい。
* * *
ミリアは王城のとある一室の前に来た。
この、美しくいかにも重厚そうで、明らかな税の無駄遣いを体現したような部屋の名前は『妖玉の間』。
この妖玉の間は毎年七賢者が、毎年の式典が始まるまで待機する場所だ。
ミリアが扉を開けると─
火球が飛んてきた。
「うぉっ!危なっ!」
ミリアは火球に対して蹴りを放つと、火球は見事に相殺された。
「やるねぇ、ミリア君。腕が落ちてないようで何よりだよ」
「『弾劾』、まさかわざと私に撃ったの?バカじゃない?」
「いやー、ごめんね?だけど君が腕落ちてたら俺達はケアしないといけなくなるからさ、ないとは思ってたけど確認しとかなきゃいけなかったのよ。 ほれ、手を出しなさい」
そう言い、ミリアを立たせたのは『弾劾の魔術師』ユーベル・ガサック。
七賢者の中で最も高い火力を魔術師と言ったら彼だろう。
「ちょっと、ミリアちゃんが怪我でもしたらどうするの?」
『黄昏の預言者』マリン・フォルゼマートがそう文句を垂れ流すと、ユーベルは顔をしかめながら答えた。
「ミリア君なら怪我なんてしないだろう。
さっきの霧が間に合わなくたって、きっと彼の指輪が作動して防御結界で守られてただろう。
それに、もし怪我したとしても、それほどダメージはいかないし、それにミリア君なら魔術で治せるから、新年の儀の宴会が終わる前にはもう直ってるだろうしさぁ」
「まあ防御が間に合わなければ避ければいいだけなんで」
「はぁ、まったく。2人ともそういう問題じゃないのよねぇ」
ミリアが補足した通り、防御が間に合わなくても避ければいいのだ。
幸い、妖玉の間の壁や床は特別な材質でできているので、この場にいる誰の魔術でも、被害は起きないと言っても過言ではない。
まあ回避が間に合わなくても指輪が守ってくれるからいいが。
ミリアはそこら辺のソファに座った。
多分ここからはうるさい。自分だけでも避難しておきたいという思いだ。
「もし師匠でなく、陛下が来られた場合はどうされるのですか?ということです。
それに、落ち続けている七賢者の株をこれ以上落とさないでください」
そう『結界の魔術師』ローラン・ヴァイスが言うとユーベルは蛇のような笑みを浮かべ、さも当然のように答えた。
「その時はアンタが守ればいいんだよヴァイス君。
それすらできないようじゃ『結界の魔術師』の名が泣くよ」
「できないわけではありません。
ただ、気が抜けている時に陛下が来られればさすがに対応できません」
「それこそないよ。
だって君が気を抜くことは、少なくともここではないだろうから…ねぇ?」
ローランとユーベルとの間に火花が飛び散る。
いつも通りの光景だ。しかし、止める人物がいない。
ミリアは年功序列が基本の考えなので、就任歴の長いユーベルを止めるのは気が引ける。
かといってマリンはそこまで仲裁に積極的ではない。
さっきから部屋の端っこで二人を邪魔しないように喋っているモナカとニナは、精神的・実力的に止めることができない。
いつもはもう一人の七賢者が場を収めるのだが、今日はいない。
しかし珍しい。
(いつもあの人は最初らへんの早めの時間にいるのにな)
ミリアは不思議に思ったので、ちょうど近くの席に座っていたマリンに耳打ちした。
「そういえば、『黎明』は?見ていませんが」
「確かに、珍しくデリックちゃん見てないわねぇ。
いったい何してるんでしょうねぇ」
マリンは少しの沈黙の後、ミリアにこう伝えた。
「それじゃあ、モナカちゃんと一緒にデリックちゃんを探してきてくれないかしら?」
「えっ?」
「ほら、モナカちゃんってあんまり昼間に出て運動してるイメージがないから…散歩ぐらいはしてほしいのよ」
(そうだ、『黄昏』はモナカがセレスティナに在学してるの知らないんだ)
現在のモナカは、生徒会の仕事の影響で、どうしても走ったりすることが多くなっているから、太r─心配はないのだが、マリンは知らない。
しょうがない。
さっさと探してくるしかないのだ。
「モナカ、ちょっと付いてきて」
「えっ、わたし?!」
「私は?」
「留守番」
「えぇえぇええぇ!」
悲鳴を上げるニナを無視して、ミリアはモナカの腕を引っ張った。
「ち、ちょっと待って…」
「待たない」
モナカが抵抗しているので、ミリアは仕方なく、モナカを男二人の方に向かせた。
「しかし、師匠に色々言っておいて、まさか自分は腕を落としていたりなんか、しませんよねぇ?」
「当たり前だ。なんなら今、試してやろうか?」
2人は詠唱を始めた。
「巻き込まれたくないでしょ?」
「…うん」
2人は妖玉の間を出てすぐに扉を閉めた。
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