第八十八話:お兄ちゃん
ミリアは星空を満足するまで見た後、両部屋に戻ってきた。寝るためだ。
今日は色々やったから疲れているのだ。
早く休まなければ。
ミリアは簡単な寝る前の準備と着替えだけすると、すぐにベッドに横たわった。
ミリアはこれまでの思い出を思い出すことにしてみた。そうすれば、少しずつ眠くなっていって、自然と寝れるだろう。
* * *
ミリアには大切な#がいた。
###はミリアの最愛の人物だ。
#はミリアよりも魔術の才能も腕も知識も下で、ミリアに勝てるところなんて何もないような人物だった。
でも、1つだけだ、ミリアにはないものをその人は持っていた。
ミリアはその人との会話を思い出した。
「ねぇ、なんでそんなに頑張れるの?」
「###のためだよ」
「なんで?あたしのほうがつよいじゃん」
「強くてもどうしようもならない時だってあるんだ」
「ふーん。そんなもんなんだ」
「うん、そんなもの」
その人との思い出は数え切れないほど多く、濃い。
グレイシーとフラムやネロとメロ、ニナにモナカ…そんな、親しい人物たちよりとは比べ物にならないほどの記憶。
###はミリアより弱かった。そのくせ優しくて、見栄をはっていた。
だから、あんな結末になった。
* * *
「ん…」
ミリアは頬に弱い感触を感じて起きた。
「どうした?うなされてたぞ〜」
肩の上を見ると、そこにネロが乗っていた。
眉を下げ、心配そうな鳴き声を出す。
「…なに言ってるの、ネロ。
ぐっすり快眠だったよ」
「…嘘は良くないわよ」
ミリアのお腹のうえに乗ったメロが「ミャ〜オ」と小さく鳴いてから言った。
ミリアは2匹の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「む〜、茶化さないでよ」
「そうだぜ、本当に大丈夫だったのか?」
「…うん、大丈夫大丈夫。
だから2人は安心して寝てて」
メロとネロは、しぶしぶ引き下がっていった。
メロが寝、ミリアがその様子を見ていると、ネロが振り返った。
「本当にどうしようもない時は言えよ。ほぼ家族みたいなもんなんだから」
「ありがとう。そうするよ」
ネロがすやすやと寝たのを見た後、ミリアも寝ようとした時、小さな足音が聞こえた。
その足音はだんだんとミリアの方に近づき、止まった。
そして、ミリアのプライベートゾーンとして区切られていたカーテンがゆっくりと開けられた。
「…ミリア、起きてる?」
「ニナ?どうしたの、何かあった?」
「そ、そうじゃなくて…」
ニナが来た理由に心当たりもないため、首を傾げていると、一つ心当たりが思い浮かんだ。
「舞踏会楽しめた?」
「…楽しめるわけないでしょ」
「?どうしてさ」
ニナはミリアの手を握った。
「今夜の舞踏会、一緒に踊らない?」
「…ニナ、僕以外にも沢山踊る相手くらいいたでしょ?」
「確かに、私を誘った人は居たわ。けど全部断った」
「どうして」
ミリアは純粋な疑問を投げかけた。
ニナは少しばかりの沈黙の後、呟くように語りだした。
「ミリア、ゴードンの時、私を助けてくれた時のこと、覚えてる?」
「…うん。しっかり覚えてるわけじゃないけど」
「そう。
…私はね、学園でイジメられてたときは、毎日地獄みたいな気分だった。毎日物を隠されて、買ったノートは破られて、毎日いわれもないことを言われて…
私の人生は、ミリアに助けられてから大きく変わった。ミリアの後ろをついて行って、ミリアの優しさと強さと弱さを知って、対等に立って、支え合いたいと思ったの」
だから、と前置きして、暗闇のなかでも分かるほど顔を赤く染めて、ニナは告げた。
「私は、ミリアが好き」
ミリアは目を丸くして驚いた。
まさか、告白されるなんて思わなかったから。
ニナもモナカと同じく、自分から離れ成長していくものだと思っていたから。
「だから、私はミリアと踊って?
私を惚れさせた責任を取ってよ」
ミリアはニナの手を握り返した。
特に意味はないはずなのに、何故か強く握ってしまった。
ミリアは力を緩めてから、ニナに言った。
「ニナ、本当に僕でいいの?」
「うん…ミリアじゃないと嫌」
* * *
2人は校舎の外、表庭に出た。
そろそろ終わる時間に近づいてきているようで、人もあまり多くはない。
「もう少し早く来てれば、見せびらかせたのに」
「ははは…でも人がいたら緊張してたかもだしよかったんじゃないかな」
そんな痴話話をしながら、2人は踊り始めた。
ダンスにおいて、男性は女性をエスコートするのが当然だ。
だが、今回ミリアはニナのダンスに合わせる形で踊った。
ニナはダンスが上手いから、ミリアが変にダンスを踊らない方がいい。
「ねぇ…楽しい?私は楽しい」
「僕も楽しいよ」
ミリアが楽しいと感じるものには2種類ある。
1つは一人で楽しむもので、もう1つはみんなで楽しむものだ。
ミリアはダンスは得意ではないが楽しいと感じている。相手が親しい人物ならなおさら楽しい。
ミリアが流れで踊っていると、曲が終わった。
ニナはもの惜しそうに手を離した。
* * *
ミリアとニナが部屋に戻り、寝る準備を始めた。
ミリアは準備を終えると、ニナにこういった。
「今日はありがとう」
「私こそ…ありがとう」
ミリアがプライベートゾーンに入ろうとすると、服の袖が掴まれた。
振り返ると、ニナが恥ずかしそうに顔を半分隠しながら言った。
「もうちょっと、甘やかして」
「いいよ」
「それじゃあ、今夜、一緒に寝させて」
「…分かったよ」
ミリアはニナを自分のベッドに入れた。
ミリアもベッドに入ると、ニナは体を擦り寄せてきた。
ミリアはそれに何かを言おうとしたが、やめた。
(少しぐらい甘やかしてもいいか)
ミリアはそう思いながら、すやすや眠るニナの寝顔を見た。
(…良かった…あなたを見てくれる人は、まだここに居たよ…
…お兄ちゃん)
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