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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第七章:学園祭編
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第八十七話:貴方を思い出しました

 ミリアは屋台で食べ終わり、最後まで残っていたディバードとホルンに挨拶をした後、少し裏庭に出てみることにした。

 

「誰もいない…」


 ミリアは静寂で包まれた誰もいない裏庭でポツリと呟いた。

 校舎を挟んでいるというのに見えてくる表庭の光。

 今頃、ちょうど表庭では舞踏会が行われているのだろう。

 ニナは誰と踊っているのだろうか。

 モナカはラークとうまくやれているのか。

 オベールの作戦は成功しているのか。

 グレイシーとフラムは今何をしているのか。今日はめったに連れていけられなかったお祭りの日だというのに、姿を見なかった。


 …もしかして、恋人でもできたのか?

 だったら自分は避けられているのではないか?!

 ミリアは考え始めた。


(ちょうど思春期ぐらいの年だし、全然ありえる…

 そうか…恋人ができる…感慨(かんがい)深いな)


 ミリアはまだ恋人ができたことはない。

 だからちょっとだけ羨む気持ちはあった。

 ミリアは遠い目をしながら思った。


(私は好きな人とかできないのかな…)

「いや、こんなこと考えても仕方ないか…」


 ミリアは諦めて夜空を見ることにした。

 裏庭から見る星空は最高だ。

 最近は冬になってきたから夜空がもっと見えるから、とても綺麗なのだ。

 今日は舞踏会が始まっているからいつもよりはよく見えないが、それでも心をリラックスできる最高の場所だ。


 ミリアが夜空を見てぼーっとしていると、型に乗っかかれた感触があった。

 振り返ると─


「お兄ちゃん!久しぶり!」

「兄さん久しぶり。元気してた?」


 そこにはグレイシーとフラムがいた。


「今日見なかったけど、何かあったの?」

「ん、私は午前の部の後片付けとかが忙しかったからじゃない?お兄ちゃんはどうだったの?」

「片付けは割と早く終わったよ。

 フラムは何してたの?」


 ミリアが聞くと、フラムは目をキラキラと輝かせて言った。


「俺は、午後からは友達と一緒に屋台巡りしてたんだ!」

「そうなんだ。しっかり楽しんできた?」

「勿論!」

「それはよかった」


 ミリアはグレイシーとフラムの頭を撫でながら、優しい口調で言った。


「もうこんな時間だから、舞踏会に行くか寝るかしなさい」

「え〜、やだよ〜」

「グレイシー、文句言わない」


 ミリアは手で2人を反転させ、そして背中を押した。


「ほら、さっさと行く行く」

「「は〜い」」 


 ミリアは寮に向かっていく2人を見ながら、右の木を見た。


「…早く出てきてください」

「…あら、バレていましたか」


 木の陰には、金色の髪と赤い瞳を持つ少女─セフィル・ベータ・レティーラがいた。


 * * *


「…で、どうされましたか?

 てっきり貴方は舞踏会に参加しているのかと思ってました」

「さっきまではちゃんと舞踏会に参加していましたよ。

 疲れたので、少し裏庭で休もうとしていたところです」

「そうですか」


 ミリアはできるだけセフィルのほうを見ないようにしながらも目を細め、星空を見つめていた。


「しかし、今日のような日に一人で踊りもしないというのは、少し勿体ないのでは?」

「…踊るのは得意ではないので」

「あら。では、私がワンツーマンで教えてあげましょうか?」

「ご冗談を」


 沈黙の時間が流れた。

 セフィルも星空をみているのか?それなら嬉しい。


「私は、あまり自分が好きではないのですよ」


 セフィルは呟くように言った。


「意外ですね」

「私の上には優秀な人たちしかいませんから、私は兄姉たちの次点ばかりです。どうしても劣等感を感じてしまうのです」


 ふむ、確かにフィリップは学業以外の政治面も優秀だ。アリエル第一王女は並外れた知力だけでなく、竜を単独討伐したと言われる武力もある。ラオウ第一王子は人望があり、貴族だけでなく平民からの支持も厚い(優秀とは少し違うが)。

 確かに、その三人と比べれば、一番は無い。ただ次点でもいい気がする。次点しかないということは、逆に言えばすべてを器用にこなせるオールラウンダーなわけなのだから。


「…一番にこだわらなくてもいいかと」

「…どうすればいいと思いますか?」


 セフィルの目が細められた。なるほど次点では満足できないようだ。何故そんなに一番がほしいのかミリアにはあまり理解ができない。


 セフィルの圧が増した。


 答えないぞ。ミリアには、絶対に答えないという意志があった。

 セフィルとミリアの視線が交差する。


………

……


(アドバイスぐらいはするか…)


 ミリアは圧に負けた。


「どうもこうもないです。

 …強いていえば、自分に嘘をつけばいい」

「嘘、ですか?」

「はい。

 …自分の苦しさ辛さを、楽しいことで上書きするんです。…僕もやってます」


 一応真面目に返答しておいたのだが、セフィルからの反応がない。少し酷いのではないか?

 セフィルの方をチラッと見ると、彼女は口を少し開け、目を丸くさせていた。


「?どうしました?」

「………い、いえっ!何でもありません…」


 セフィルはそう言い俯いた。

 何か気に障ることでも言っただろうか?


「あの…」

「…!…す、すみません…。さっきの言葉、実は昔に言われたことがあったんです。

 大丈夫なので、気にしないでください」


 セフィルは肩を震わせながら、ゆっくり顔を上げた。

 泣き笑いの顔をしていた。


「…本当に大丈夫ですか?」

「ええ、勿論。私が大丈夫と言ったからには大丈夫なんですよ!」


 「えっへん」と声を出すセフィルを見ると少し不安になってきたが、大丈夫と信じることにした。


「ありがとうごいました、ミリアさん」


 セフィルは涙の跡を拭いながら、ミリアに手を振り表庭に戻っていった。


 セフィルの姿が完全に見えなくなってから、ミリアはふと思い出した。


(そういえば、泣き笑い(さっきの顔)どこかで見た気がしたけど…ま、いいか)


 ミリアは星空を見上げ、もう少し、この美しさを目に焼き付けようとした。

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