第八十六話:夕食
ミリアは小腹がすいてきたので、せっかくなら屋台で食べようと思った。どうせなら夕食にしようとも考えている。
今の時刻では、回転している屋台は数えるほどしかないため、ミリアは一番食べてみたいと感じた、中華系の屋台を食べてみることにした。
中華系はレティーラ王国内ではほとんど目にかかることがない。
そもそも中華はかなり東の国の発祥なので、レシピも料理人も少ないのだ。
レティーラ王国内でも数件は専門店はあるが、いつも行列なことが多いし、ミリアが休めるような日には大抵もっと行列が長いので、ミリアも人生で食べたことがなかったのだ。
「らっしゃっせー」
屋台にはいると、ミリアはとんでもなく多いテーブルと席の数に軽く驚いた。
この屋台は教室全体が貸し出されているらしかったが、ただ席はほとんど満席に近い状態だったため、唯一空いていた席に座ることにした。
座ると即座に店員が爆速で動いて自分の席の前まで来た。反応速度とスピードが速すぎると思う。
「何をご注文になりますか?」
ミリアはメニュー表を見ながら考えていると、横から指が飛び出してきた。
「炒飯と全部乗せラーメンのセットがおすすめやで〜」
突如飛び出してきた指の主は、レティーラ王国では珍しい、真っ黒な髪と瞳をした生徒─運営会の広報担当の、クラリス・ヴァイオリフトだった。
ミリアは鬱陶しそうにしつつ、何を頼むかメニューで困っていたため、ちょうどいいと感じクラリスの勧め通りに頼もうと考えた。
「…それじゃあ、そのセットで─」
「ちょい待ち!」
ミリアが頼もうとしたところでクラリスの声がミリアの声を遮り、更にクラリスの手がミリアの目の前に出された。『待て』を表すジェスチャーなのだろう。
「餃子も、忘れたらあかんで」
「…じゃ、餃子も一緒に、お願いします」
「─確認となりますが、炒飯とラーメンのセットと、餃子10個でお間違いないでしょうか?」
「大丈夫です」
「かしこまりました、しばらくお待ちください」
注文が終わるやいなや、また爆速でキッチンに戻る店員。速い。
ミリアは店員からクラリスに目を移し、ジト目を向けた。
「なんや、俺が勝手にメニュー勧めたの不満だったん?それならすまへんな。
だけど一度食べてみてくれへんか?きっと美味しいと思うで。そんでもし、あんま気に入らんってなったら俺が代金奢るから」
「…分かりました。美味しいことを、期待しておきます」
「おう!期待しとき!」
* * *
しばらくすると、店員がミリアの席に移動し、皿を置いた。
「炒飯と全部乗せラーメンのセットと、餃子10個です」
「ありがとうございます」
店員がまた爆速で離れていくのを見た後、ミリアは箸を手に取り、そしてクラリスに視線を向けた。
クラリスはミリアの視線に気づくと、すぐに注文した皿に視線を移し、目をキラキラと輝かせた。
「おお、来たなぁ!中華は温かいうちに食べるのが一番やから、今すぐ食べよか!!」
「いただきます」
元気な声を無視してラーメンから食べ始めると、ミリアは驚愕した。
「…美味しい…」
麺は太くしっかりしているが食べやすく、スラスラとお腹に入っていく。一口汁を吸えば、出汁の旨味と香りが噴き出してくる。
「そうだろう?具は少し汁に浸してから食べたら美味しいで」
アドバイス通りにチャーシューを食べた。
(肉は柔らかく、汁と肉の旨味のバランスのちょうど良さが美味さを加速させる)
ミリアはチャーシューを頬張ってから、他の具も食べすすめていく。
のり、卵、メンマ…色々食べていると、少しラーメンに飽きてきた。
そこでミリアは隣にある炒飯に目をつけた。
─そうだ、一方に飽きたならもう片方を食べればいいじゃないか
ミリアは炒飯を一口食べた。
美味しい。
パラパラの米とシャキシャキ感を味わえるネギ、そして少し小さめの肉。バランスがいい。
(またラーメン食べよ)
(炒飯)
(ラーメン!)
そんな感じでラーメンと炒飯を食べていると、食べ始めてから数分で、炒飯と全部乗せラーメンのセットを食べ終えてしまった。
「しまった…餃子を残してしまった…」
「ん?どしたん…ああ、そういうこと。
別に餃子は単品で食べても目茶苦茶美味しいんやで。
やから食べてみ?」
いつ注文したのか分からない特盛ラーメンを食べているクラリスから補足を頂いてから、ミリアは先ずは一個食べ始めた。
「…うん、美味しい」
「そやろ、そやろ…!」
美味しさに頬を緩めるミリアにクラリスは笑顔を返した。
「いや〜、気に入ってくれたみたいでよかったで、ホンマに」
「ありがとう。…勧められてなかったら、別のメニュー頼んでたかもしれない」
「いいって、いいって。俺が勝手にしたことやからな」
クラリスに、美味しい中華を食べさせてくれたことに感謝していると、クラリスが「おっ」と声を発した。
「俺の友達が来てくれたみたいやね」
「…おい、クラ先輩。何?新しい友達っすか?毎回気まずい思いしてる俺の思いも考えてくださいって」
「すまへんな。けんど、やっぱり談笑はみんなでした方が楽しいと思たからな」
「その人、どこかで見た気が…思い出した。茶会の時の魔力中毒の人。あの後の処理面倒臭かったんだから、今日も同じことしでかさないでよね」
「気をつけます」
来たのは、これまた運営会所属の事務係ディバード・フルートと、実務係ホルン・ギタートスの2人だった。
* * *
「…そんな感じなら仕方ないっすかね〜」
「私は一緒に食べに来ただけだからどっちでもいい」
ディバードとホルンが注文の待ち時間で待っている間に、ミリアとお互いにどんな状況なのかを話し合うことにしていた。
これまでの事情をミリアが説明すると、2人は納得してくれたようだった。
ちなみに2人は、本来クラリス、ディバード、ホルンの3人で一緒に食べる予定で、学園祭の後片付けのせいで少し遅れてきたらしい。大変そうだ。
「食べながら話すって感じだし、監査君とは面識もあるから…せっかくだし話しますか。
あ、来た」
注文した皿が2人のもとに届くと、2人は食べ始めた。
「…これ話しかけてもいいやつ?」
「大丈夫や、大丈夫。ディバードにはどんどん話しかけてき。
けどホルンは食べてる時に話しかけると嫌がるから止めときや」
クラリスに聞くと、意外に参考になる返答を返してくれた。
「ディバード、君は、ホルン嬢が婚約者なの?」
「ブフー!」
「バックション!」
ミリアが聞くと、ディバードは軽く吹き出し、ホルンはむせた。
デリカシーな質問だったのだろうか?
だとしても質問を訂正する気はない。ミリアは、この質問に関しては自分が悪いと思っていないのだから。自分が悪うないのに反省するつもりは一切ないのがミリアという人間だ…
「…あ、ああ。そうだな。ホルンとは許嫁で、この学園を卒業したら丁度結婚することになっているが…」
「…ちょっと、何よその目。私が不満なの?」
「いえいえ、そんな訳ありませんとも。
ホルン嬢は俺にとって大切な許嫁ですから」
「…ありがとう。…でも、私以外の女と、私以上に仲良くなるなんてことはないようにしてよね?」
「ああ、勿論さ。
許嫁に疑われるようなことは作りたくないからね」
重い女性だなぁ…
もしかしたらミリアとクラリスは、見ちゃいけない側面を見たのかもしらない。
ミリアはちょっと反省した。ちょっと。
「めちゃくちゃ甘酸っぱくて、もはや酸っぱすぎですね…」
「そうやな…言い出したのはこっちやけど、聞いてたらこっちが2人の愛に耐えきれなくなってきたわ…」
「何が、恥ずかしいのでしょうか、ミリアさんに、クラリス先輩?」
ミリアとクラリスが小声で話し合っていると、ホルンが圧をかけてきた。2人は震えた。地獄耳ではないか地獄耳。
そしてミリアはこの先のディバードの未来を予見した。嫁に敷かれている様子が目に浮かんでくる。
嗚呼、普段は静かだから大人しそうと思っていたのに、実際は鬼だったなんて…
やはり世の中には、知らないほうがいいこともあるのだ。
「って、私たちばっかの話じゃ私たちがつまらないのよ」
「そうだ、そうだ!ほらクラ先輩、気になる人とかいないんですか!」
「ふーむ、いないなぁ」
「え!?」一同は驚愕した。
嘘だ。嘘に決まっている。
オベールがあんなにも思いを寄せているというのに、どうしてコイツは気づいていないのだ!
コイツさては、ハーレム主人公にありがちな鈍感(一人ヒロインver)だな!?
「本当ですか?」
「ホントやで。まあしょうがないと思っとるし、もう諦めてる部分やけどなぁ恋愛は。
ほら、俺は普段普通に喋るけど、今みたいに親しい人とかにはこの口調で喋るやん?やから、昔とか気になる人がいた頃に、この口調のせいで嫌われたり避けられることが多かったからなぁ」
重い感じにしてしまった。
ダメだ。どうにかして明るい話題に変えなければ!
「み、ミリアさん!君はどうなんですか?!」
ナイス、ホルン!ベストタイミングだ。
「…僕もいないかな」
ダメじゃないか!
空気を改善させようとして、成功にはしたけど話題にならなかったら意味ないじゃないか!
「ほら、監査君はニナ嬢とかは仲いいだろ?そこはどえなんだ?」
「ニナは家族だから…恋愛対象としては…
それに、ニナにはこの学園で色んな人と会って、ちゃんと好きな人といてほしいし、僕もそれを見たいんですよ」
「そんなもんなのか?」
「そんなもんです。
ほら、サッカーをプレイすることが好きな人もいるし、観戦するのが好きな人もいるでしょ?」
「その理論ならそうか」
「そ、それじゃ、モナカはどうなんですか?!
あの娘は…」
モナカ?!
ここでモナカを出すのは意外に感じたミリア。
「モナカはラークさんに惹かれてますから」
「え?取られて嫉妬とか、うらやましかったりしないんですか?!」
ある程度空気ももとに戻ってきた。
これからが楽しみの始まりだ。
そんなところだというのに、席を立った人物がいた。
「クラ先輩?どうしたんすか?」
「ああ、実は、この後の舞踏会、オベールに誘われとるからそろそろ行かないといかんのよ」
「!?」3人はまたもや驚愕に包まれた。
「それって…もしかして…」
「ああ、遂に…遂に、クラ先輩に、できるんだ…!」
「できる?何が?」
「クラリスさん、知らなくていいんだ。
君は時間に遅れないよう、早く向かっていってください。
…後片付けは僕たちがしますから」
「お?すまへんな。それじゃお前たちにこの場は任せたで!ほな!」
クラリスは笑顔を浮かべながら手を振り屋台を後にした。
「絶対に付き合え」
「是非付き合ってほしいです」
「これは付き合う流れ」
3人は同意見を出し、仲間になった。
今はオベールの成功を祈るしかない…!
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