第八十五話:嫌いなモノ
演劇後、ミリアは適当に散歩していた。
舞台の近くにいれば関係者と思われる可能性もあったし、リラックスという考えもあった。
先ほどの演劇の解決をミリアも行っており、少し疲れたからだ。
先の演劇で、ミリアはミディアムが風の魔術で、おそらく火薬を狙ったのだと判断、そのうえ火薬による引き起こされる事態の対応はローランとモナカが何とかしてくれると判断し、ミリアは周囲に飛び火しないように火の粉を消す魔術を複数使用した。その後事前にミディアムに防御結界を張ってから、崖のセットを破壊し延焼させ、メランがミディアムを助ける必要のある状況にした。
楽な作業ではあったが、時間的猶予がなかった故に精神的疲労を抱えることになったのだ。
ミリアが散歩していると、モナカ、エリックとオベールを見つけた。
何やら話しているようだし、盗み聞いてみることにした。
「お久しぶりね、オルフェウス嬢。突然で悪いのだけれど、生徒副会長がどこにいるか知らないかしら?」
「ラーク様ですか?…えっと…すみません、劇の終わりに会いましたけど、その後は…」
「そう、無理言ってすみませんでした」
そういえば確かに、今日はラークを見ていない。
普段、ラークは生徒会室に行くかフィリップに会いに行けば会えると言われている人物なのだが、今日は事前準備で生徒会室を立ち寄った時にもいなかったし、フィリップの側にもいなかった。
エリックは困ったような顔を一瞬浮かべた。
「実はだな、急ぎじゃないんだが舞踏会前に確認しておきたいことがあってな…いつもの場所にもいなかったし、てっきりオルフェ嬢と一緒にいると思ってたんだが」
「え?どうしてわたしが?」
「生徒副会長ってオルフェウス嬢は仲が良さそうじゃない?」
「えっと…わたしには、エリック様の方がラーク様と仲がいいように見えますけど…」
モナカがそう言うと、エリックは手を額に付けながら首を横に振った。
「アイツと俺が仲が良い?全く…冗談はよしてくれ」
「彼が階級至上主義ということは知っているでしょう?」
「はい」
ミリアはセフィルに、いつぞやに行ったチェスの見学会で、モナカとエリックの対局をセフィルと観戦していた際に教えられた気がする。
「彼は、自分自身が貴族であることに誇りを持っていますし、階級の違う相手と馴れ馴れしく話すのは好みません。それは階級が上か下か関係なくです。
最近ではその考えも見直す時代になっているのですから、せめて周りの意見を聞くだけでもしてほしいと、私は思っていますがね」
エリックは基本、階級の違う者達が馴れ合うことは好まない。
それは、互いの領域に入ると、領域を汚し、その者達の役割を果たすことが出来なくなるから、という考えが基なのだ。
「それが、ラーク様にどんな関係が…」
「生徒副会長はヴァルドン侯爵家の養子なのです。
この学園には、そういった…ようは成り上がりの生徒も何人かいます。運営会のクラリスも、演技力を買われ、養子になった一人です」
「え、それじゃあアーディア様とは血縁関係は…」
「無いな。ヴァルドン侯爵家の実子はアーディアだけ…つまり家を継げないわけだから、侯爵は跡継ぎにするためにアイツは養子になったんだ」
そこまではミリアの知っていること通りだ。
そもそも情報を持っていなかったとしてもあの義兄妹は性格も反対だし心体的特徴も合致しないしで、血縁関係を疑っていただろう。
「知ってるかしら?1年の頃のエリックと生徒副会長はとてつもなく仲が悪かったのよ。
生徒達にとって一つの風物詩みたいになってたの」
「やめてくれって…」
エリックは恥ずかしそうに片手で顔を覆い、くぐもった声で喋る。
「実際には、互いに仲が悪かったわけじゃなくて、エリックが気に食わない生徒副会長に突っかかってたってだけよ。
私が一番面白かったと思うのは、生徒副会長を煽って逃げさせなくしてから、自信満々に挑んだ筆記試験の勝負で負けていたことね。しかも30?20くらいの点数差だったことね」
「あー、あー、あー」
階級至上主義のエリックに、能力は高いが成り上がり者のラーク…確かにエリックは突っかかりそうだ。
しかし、流石にエリックはダサすぎると思う。
「その後にチェスの試合を持ちかけていたのはさすがに割ってしまったわね。
相手が自分より下だと見ておきながら試合に負け、そしたら自分の得意でやろうってなったのはさすがというべきなのかしらねぇ」
「やめてくれ、あれは大人気なかったんだよ。
自重が足りていなかったと今でも反省しているよ…」
エリックが気まずそうに言い訳をしている。
一応恥じているのだろう。多分。
「そ、その後はどうなったんですか?」
「生徒副会長は負けん気が強いから、チェスを猛勉強してから再戦を申し込んだの。
かなりいい勝負だったのだけれど、猛勉強の代わりに寝てなかったみたいで、途中で寝てしまい、結果は引き分け。
まだ闘いが続くのかと思ったら、生徒会長に仲裁されたのよ」
ふむ、エリックもラークもプライドが高いから、ムキになりヒートアップしていくのは容易に想像できる。
それにラークはフィリップを慕っているし、エリックも階級が上だから、フィリップは仲裁にも向いているだろう。
それにしても、ここまで後輩に理解(特に悪い部分)されているのは大丈夫だろうか?
「はぁ…何の話だったか…
あぁ…オルフェ嬢が、俺にはラークと仲がいいと思ったんだけどな。仕事も一緒に回ることが多いし、今日の学園祭も一緒に回ったりしなかったのか?」
「い、いえ…本当にさっき見ただけなので…」
エリックは不思議そうにして顎を撫でた。
「でも、その花飾りはラークから貰ったんだろ?」
「はい。…?どうして分かったんですか?」
「花飾りは贈り主の髪とか目とか、特徴的な部分を示してるもんなんだよ。花弁がアイツの髪色と同じだったからすぐ分かったのさ」
「なるほど…」
花飾りをまじまじと見るモナカに、エリックは思い出したように言った。
「んまぁ、取りあえずラークを見かけたら俺が呼んでたと伝えといてくれ」
「はい、分かりました」
そう言いモナカはミリアとは逆方向の道を進んでいった。
* * *
モナカが見えなくなった。
「いつまで盗み聞きしているのかしら、監査君?」
「…パレてました?」
「いえ、ただなんとなくいそうだな、と思っので」
「…勘がいいですね」
ミリアはオベールの言葉に反応し出てくると、エリックは驚いた顔を見せた。
オベールは気づいていなかったが、エリックは出てくるまで気づかなかったのだろう。
「ミリアがなんでここに─いやそういうことか。
なんだ、オルフェ嬢とラークの仲が良いことに嫉妬してるのか?」
ミリアは呆れ声を出し、面倒臭そうな顔にした。
「…前にも、誰かに言いました。
…僕は僕の知り合いがどうなろうと…割とどうでもいい。
ニナもモナカも、彼女らが幸せなら…僕にとってそれ以上のことは、ないです」
「なるほどな、お前はずいぶんな善人のようだな。
…お前自身はどうなんだよ?」
エリックが好奇心から聞くと、ミリアは目を開き、「ふっ、はは」と乾いた笑いを出した。
「…僕が幸せになることはありません。
…僕はお人好しと呼ばれても、エリックさんの言うような善人では決してない」
「へぇ、言うじゃないか。
なんでそう思うんだ?」
「僕は自分が嫌いなんです。
…今までの過去も、今の行動理念も、これからの未来も、全部不純で、身勝手。
…だから嫌い」
ミリアがそう答えると、オベールは怪訝そうに顔をしかめ、エリックは眉をひそめた。
「誰しも、その行動理念は不純であったり、身勝手なものです。
本当にそんなものがない人物は、それこそ物語の英雄やとんでもなくお人好しの善人だけです」
オベールは諭すように言った。
「…ありがとうございます。…そろそろ、お開きにしましょう」
そう言い、エリックとオベールを抜いてミリアは歩き始めた。
少し進んだところで、ミリアは振り返り、笑顔を向けた。
「…ニナに会ったら、伝えておいてください。
舞踏会の時、僕は寝てるから、好きにダンスしてきて…って」
2人の返事を待たずに、ミリアはまた歩き出していった。
エリックはさっきの会話を思い返していた。
(自分が嫌いねぇ…一概に全部を否定できないのも、俺の悪いところだな。
それより…ミリア、大丈夫か?)
エリックはミリアのさっきの、嬉しそうで悲しそうな笑顔を思い出した。
(変な事を考えてなきゃいいんだけどな…)
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