第八十三話:歴代最高の演出の裏で
ミディアムには二つ誤算があった。
一つは、魔術の初心者であるミディアムは、調整を間違え、火薬を落とすだけに留まらず、炸裂した火に酸素を送り込み炎にしてしまったこと。
二つは、この場に3人の七賢者がいたことである。
* * *
ミディアムが舞台上で風の魔術を詠唱したことに気づいた人物は3人いた。
その内の1人、モナカは咄嗟の判断に悩んだ。
モナカはミディアムが何を狙っているのかについては見当がつかなかった。それに加えモナカは舞台裏に火薬があることも知らない。
そして気づいたのは、ミディアムの目線が下を向いていたこと。あの崖の位置から下となれば、狙う人物はメランしかいない。いや、もしかするとメランではないのかもしれないが、モナカ速度で間に合うにはメランだけだ。
モナカはメランの周りに円状に防御結界を張った。
同時期、ローランも異変に気づいていた。
ローランは、暗黒龍が炎を吐くという演出をするために火薬が使われることを推察。そしてミディアムが風の魔術で狙っているのが火薬だと推測。
万が一、火薬が舞台から観客席に出ないよう、炎が舞台の外に出ないように調整した対炎用内結界を張る。
結果として、それは観客達とメランを救った。
ミディアムの風の魔術により、演出用の火薬の火は炎に膨れ上がり、メランを襲った。しかし、モナカの張った防御結界によりメランが大怪我をすることは免れた。
観客達の目には、シーナの張った防御結界がバルスを暗黒龍の炎から守ったという演出に見えているだろう。
「いやぁ、今年の演出は魔術を使うのですか」
「かなり凝っていますなぁ」
呑気な観客達を尻目に、モナカは残る仕事を行った。炎の鎮火だ。
魔術の炎は基本短時間で消えるように設定されているが、今回の炎は火薬による火が元だ。
自然の炎は長く燃え続けるため、放置しておくと、近くの燃えやすいもの─木で作られた床や、紙と布の暗黒龍に燃え移る可能性がある。
モナカは必死の鎮火作業を開始した。
鎮火の方法は簡単だ。炎を結界で包み、結界内の酸素を排除だけ。単純な作業だが、手が足りない。
モナカの魔術の同時発動可能数は2つ。
炎は舞台のほとんどに広がっているし、その舞台には何人かいる。
当然酸素を排除する結界内に、酸素を必要とする人間を入れるわけにはいかないので、そこに注意しつつ行う必要もある。そのせいで小分けして鎮火する必要がある。
そしてそれと並行してメランの防御も続けているため、鎮火に回せる魔術は1つだけだ。
モナカは急いで鎮火しつつ、舞台に異変がないかをずっと探している。
同時期、ローランは炎を舞台内だけにとどめる結界内を張り続けていた。
様々な条件を加えた結界を張ることにはそれなりの集中力と結界を継続させる魔力量が必要になる。
ローランは問題なく長時間張り続けられているが、それも時間の問題だ。
その時、舞台の右端で「きゃあっ!」という甲高い悲鳴が聞こえた。ミディアムが立っていた崖のセットが傾いていた。セットの支柱が火で焦げ崩れたのだろう。
ローラン観客達を守るように防御結界を張った。
崖のセットが崩れることでここにいるメンバー誰か一人でも怪我をすることはあってはならない。
崖のセットが崩れることだけは阻止しなくてはならない。
モナカは鎮火を急いだ。セットが崩壊する前に鎮火を完了させなければいけない。
(数が多すぎて…後いくつ─)
モナカの賢明な鎮火も虚しく、風向きが変わった。
風向きが変わったことで、正確な発火部分とメラン、ミディアムの正確な居場所が分からなくなった。
この状態で鎮火を進めれば、間違えて2人を巻き込んでしまう可能性がある。
モナカが判断に悩んだ一秒に満たない一瞬で、状況が悪化した。
崖のセットが、崩壊した。
─早すぎる。
崩壊が始まった。モナカとローランの予想ではもう少しは長生きするはずだったのに。
─間に合わない。
誰かが意図的に暴落させたとしか考えられない。
だが、誰が?そして、何のために?
─まさか…
炎によって崖のセットが呑み込まれた。
周囲が騒ぎ始める中、炎に呑まれたセットの中から何かが飛び出してきた。
それはミディアムを横抱きにしたメランだ。
観客達の目は珍しい飛行魔術を扱っているメランに集中している。
─今しかない。
モナカは舞台にある炎を結界の範囲内に変更し、鎮火した。
必死の活動は終了した。
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