第八十二話:悪意
※ミディアムはミリアを女子生徒と勘違いしています(笑)
ミディアムは現在、暗黒龍と戦うバルスを心配そうに眺める演技を続けながら、常にフィリップに意識を向けていた。
フィリップの隣にいるのは確か─そう、監査のミリア・マイル。見た目がマシなだけで、それ以外には何も持たない女子生徒だ。
(何故、あの程度の女が私のフィリップ殿下のお側にいるのでしょう?)
ミディアムはこんなにも切なくフェリクスのことを見つめているのに。愛しているのに。彼に愛されるべきは自分なのに。
それなのにどうして、彼はそんな小娘を見ているのか?自分を見てくれないのか?
(ああ…その思い上がりを正さなければ)
暗黒龍とバルスの戦いはいよいよ決着を迎えようとしていた。
暗黒龍の吐く炎からバルスを守るため、シーナが防御結界を張る、というのが、この後の展開だ。勿論シーナを演じるミディアムは結界魔術など使えないので、使うフリだけである。
その際には、この劇で最後の火薬を使う演出として、派手に火薬が使われる。爆ぜるのは舞台奥。
暗黒龍とバルスが戦っているのが丁度その火薬が使われる舞台の前だ。
ミディアムは防御魔術の詠唱をする演技をしながら、実際は風の魔術で火薬に向かって放った。
ミディアムが使った魔術は低威力の風の塊を飛ばすだけの正に基本の魔術。
風の魔術は他の魔術と違って不可視だ。それに加え、塊の形をしていたものであれば斬撃のように気づかれる心配もない。
風の塊が火薬に当たったことで、火薬は炸裂直前で本来の位置である舞台奥からバルスの近くまで落ちてきた。
その位置は観客達からは見えず、たとえ見えていたとしても誰もミディアムによって行われたことだと知られることはない。我ながら完璧だ、とミディアムは内心嗤っていた。
(ええ、そうして無様に恥をかくといいわ)
炸裂した火薬はグレン目掛けて火花と煙を撒き散らした。
あくまで演出用の火薬だから大怪我をすることはないだろう。しかし、あの程度の男だ。驚いて尻もちをつくぐらいはするだろう。
そうしなくても当然、メランが火薬に驚いて動きを止めれば、舞台は止まってしまうだろう。
そこで、ミディアムは高らかにこう告げるのだ。
─ああ、やはり貴方はバルス様のお姿を扮した偽物でしたのね。
そしてミディアムはフィリップに手を伸ばしてこう言うのだ。
─ほら、本物のバルス様はそこにいらっしゃる!
こうすれば、フィリップは舞台に上がるだろう。
彼は劇が無茶苦茶になることを好まないから。
火薬については使用人の不手際ということにしておけばいいだろう。そうしておけば、無茶苦茶になった劇を機転で立て直したと、ミディアムの功績にすることができる。
これならあの男と調子に乗っているあの女を見返すことが出来る。
更に、婚約者候補になっているメアリーを更に出し抜き、フィリップとの婚約の王手にも繋がることだろう。
(ええ、完璧な作戦ですわ)
ミディアムはほくそ笑み、それを隠すように火薬が炸裂した。
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