第八十一話:驚愕
ミリアは串を食べ終わり、自分の席に戻った。
するといつの間にか、フィリップが隣に座っていた。
「…そこ、モナカの席、なんですが」
「ああ、知っているよ」
は?と言い出しそうになったのを堪えた。相手は仮にも王族だ。失礼なことはできない。してやりたいところではあるが。
「…え?あれ?ど、どうして殿下が…」
モナカは戻ってくると見るからに狼狽えていた。
そりゃそうだろう、自分の席に王子がいるのだから。
「すまないね、モナカ。だけど代わりにミリア君の一個とばして左の席を取ってもらったから、そこに座ってもらえないかい?」
「は、はい、わ、分かりました…」
王族の権力というものを間近で見たと思う。
そんなこんなである程度時間が経ったところでナレーターによるあらすじの説明がされる。
(かなり端折ったな)
本来の建国物語の劇では暗黒龍に向かうまでの道筋もやることが多いので、セレスティナの劇では毎年端折るのか、メランが途中参加してしまったことによる調整か。
どちらがありそうだといえば後者の方だが、別にそんなことはどうでもいい。
ミリアの今の頭にはメランが上手くできるのかの心配しかなかった。
* * *
幕が上がると舞台の上手からハリボテの暗黒龍が姿を現す。木の骨組みに布を張り付けただけの物なにより大きい。中で数人が入って動かしているのだろう。
暗黒龍のけたたましい鳴き声が会場中に響き渡る中、舞台の右手から二人の人物が現れる。
メランが演じる主人公の英雄王バルスと、ミディアムの演じるヒロインのシーナだ。
観客席はざわめき始めた。
当然だ。なにせ前半と役者が、しかも主人公たる英雄王バルスの役者が変わったのだから。
メランは腰の剣をすらりと抜き、その切っ先を暗黒龍に突きつけた。
「『我こそは、七人の聖霊の加護を受けし者! この地を蝕む暗黒竜よ、我が刃を受けるがいい!』」
先程まで戸惑っていた観客達も、その台詞を聞いた瞬間、一気に舞台に飲み込まれた。
メランの演技はお世辞にも良いとは言えないが、彼の声の張りやキレは、観客達を劇に引き込ませるには十二分の効果があるのだ。
「とりゃっ!」
メランは高く飛び上がってから大振りで龍に斬りかかった。
メランの剣は実戦で使えるものではないが、劇のなかでは適した剣だ。
おそらくはメランは剣の扱い方を知らなかっただけだと思うが、逆に余計な知識がなかったからこそできたものでもあるのだろう。
それよりも、その手足を長々と伸ばし斬りかかる様は観客を実に魅了させた。
「『おのれ人間よ。我が炎で焼き尽くしてくれるわ!』」
暗黒龍の翼が大きく開き、体も大きく揺らすと、背景に炎が映し出されながら、メランと暗黒龍の間で大きな音が爆ぜる。火薬による演出だろう。火薬は高いが、やはりセレスティナの見せ場の学園祭ということもあって財布の紐も緩んでいるのだろうか?
「『バルス様、私が防御結界を張っている間に暗黒龍の眉間を撃ち抜いてください!』」
ミディアムはそう叫び、魔術の詠唱を始めた。
(─おいちょっと待て、何をトチ狂っている)
魔術の詠唱を聞いただけで魔術の内容がわかる人物はそう多くはない。だが、一流の魔術師になれば理解できる魔術師は多くなる。
ミリアは聞こえてしまった。
ミディアムが詠唱しているのは演技でも何でもない、本物の詠唱。相手を弱く攻撃するための、風の魔術だ。
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