第七十九話:代役という名の身代わり
ミリアは劇が終わってから、小腹がすいたため校舎へ戻ることにした。
教室ではまあまあの数の貴族たちが食べ物を食べたりしながら談笑していた。
貴族たちにとって重要な時期というのは夏。年度始まりにして準備の期間となる春を越した夏は貴族たちにとっては大きな意味を持つ。そしてそんな夏を越した秋は当然社交会も減っていく。
だからこそ、そんな秋の季節においてのセレスティナの学園祭は、招かれた貴族たちにとっては重要な交流の場となる。
学園祭の間は食堂が一般公開されているが、客達だけで席が埋まる。
午後では使われない教室も大量にあるので、店を出す貴族たちにとっての宣伝、関係ない貴族たちや生徒達が軽食や茶会が行える場所として、ほとんどの教室を学園側が提供している。
ミリアは適当に歩き、軽食を探していた。
「あ、ミリアじゃないっすか!」
「ん?…あぁ、メランじゃん」
ミリアが声をかけられた方に振り返ると、屋台を前にして串を大量に持ったメランがいた。
「…何してんの?」
「見てのとおりっすよ!
実家が肉屋っすから、せっかくなんで宣伝も兼ねて串を売ってるんす。出来立てっすよ!」
「なるほど」
「せっかくなら1つどうっすか?」と気軽に聞いてきたメランを尻目に、ミリアは自身のポケットに手を突っ込んでいた。
「2本買おうか」
ミリアの返答にメランは嬉しそうな顔をして、手に持っていた串2本をミリアに渡した。
「美味いね」
へへーん!と嬉しそうな顔をするメランを見ながらミリアは串を頬張った。
肉の量は多く味はジューシー。一番驚くのはその味に見合わない安さだ。
(もうちょっと高くしてもいいと思うけどなぁ)
ミリアは表庭に戻りながら、頬を緩めながら食べていると、フィリップが数人に囲まれながら話し合っているのが見えた。
ミリアはその数人に見覚えがあった。劇の監督や演出陣の責任者だ。
監査の仕事でもよく演劇は目にしていたので勝手に見知っている相手だ。
「おや、ミリアさんじゃないですか!あなたからも殿下を説得していただけませんか?」
「何が、あったんですか?」
「実はバルス役の生徒が怪我をしてしまい、急遽代役が必要になってしまったのです。
それでフィリップ殿下に代役をお願いしているのですが…」
「拒否されていると」
頷く彼女から目を離し、フィリップの方を向いた。
困っていそうな表情でいるのを見るに、確かに乗り気ではないのだろう。
かといって、彼が、バルス役がいなくなることで劇が目茶苦茶になったり中止になることは不本意なはずだ。
フィリップは今、顎に手を添え少々考える素振りを始めた。
恐らくは自分の身代わりにできる生徒を頭の中で探しているのだろう。
ミリア的に、フィリップを除いて一番バルス役に合いそうなのは生徒会副会長のラークだ。
彼は女子人気も高いし身長も高く声の張りもいい。唯一の問題点は彼はアドリブに弱いということだ。事前練習をしておらず、台詞も覚え切ることができなければ結局身代わりにした意味がなくなるのだからしないだろう。
「本当に代役ができる人物はいないのかい?」
「ええ、勿論ですわ!英雄王バルスを演じられる人物など誰でも出来るわけないですもの!
まず衣装に見合う身長、つまり長身の方が好ましいですわ!次に身体能力の高さ。討伐編は当然アクロバティックな戦闘が見せ場となりますから、それはもう大切ですわ!そして最後に、これが一番重要です。声の張り!表庭という屋外は屋内ほど音が反響しないため、やはりよく声の張ったお方でないといけないのです!」
フィリップは数秒、目を閉じた。
そうしていると、奥から馬鹿デカい声が近づいてきた。
「あ、会長!俺の屋台を認めてくれてありがとうございますっす!それに、うちの実家の肉を学園で使ってくれてありがとうございますっす!俺、一生分の親孝行できたっす!」
満面の笑みを浮かべているメランにフィリップは上品に微笑む。
それと同時に、フィリップはメランを鋭く吟味した。
「そう思ってくれているなら嬉しいな」
「いやぁ、会長には感謝しすぎで頭が上がらないくらいっす!」
「そう?それじゃあ、一つ私のお願いを聞いてくれないかな?」
「勿論っす!」
(うっわ…まさかメランにやらせんの?)
ミリアは見るからに怪しいフィリップを見ていた。はてさて彼は一体どうするのだろうか。
「代役の条件は、背が高くて身体能力が高くて声の張りがある人だったよね?」
「は、はい」
「それじゃあ、彼がぴったりじゃないか」
おそらくメランを除くこの場にいる全員が思ったことだろう。
(((え?…何言ってんの?)))
なるほど確かにメランは同学年より一回り背が高く、意外に身体能力も高く、声の方は言わずもがな。
確かにそうだ。確かにそうだが、それを差し引いたとしても、だ。
「代役?何の代役っすか?あ、もしかして生徒会長の代役!?うれしいっすけど、俺生徒会長より頭良くないからできないかもっす…」
「大丈夫、そこまではしないから。君は竜討伐をして、ヒロインを守るだけさ」
「なにそれ、カッケーっす!」
「うんうん、そうだね格好いいね。けど、劇に出るからその下町訛りはできるだけ抑えておくれ」
「ハイッ!分かったっす!…じゃなくて、分かったぜ!」
不安が消えないが、どうやらフィリップはこのままメランを代役にする方面で行くらしい。
おそらくフィリップは劇のためだけにメランを抜擢したわけではないだろう。
あの場にはローランがいた。
第一王子派のローランに弟子が取り入られているのを示すためでもあるのだろう。
(かと言ってそんな面倒なことするのか…)
政治の世界は面倒臭い。
やはり関わりたくないものであることをよく再確認できた。
ふとメランに目をやると、「それで、どんな竜をやるんすか?」と言っている…
(まさか実際に竜討伐をすると考えているのか?)
不安と心配しかない劇が始まろうとしていた。
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