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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第七章:学園祭編
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第七十八話:人肉はダメ!絶対!

 ミリアがようやく落ち着きを取り戻してからほどなくして舞台の幕が上がった。

 学園祭の劇は毎年2種類の演目しかしないらしい。

 1つ目はレティーラ王国だけでなく全世界に広まり語り継がれている『三神伝説』だ。

 『始まりの人類』と『営みの人類』と『終わりの人類』の三つの人類がいたとされる遠いはるか昔。それぞれの人類は、どの人類が最も優れているかを示すために争った。

 最終的に、それぞれの加護を宿す3人の英雄が拮抗し和平を結び、全ての人類が合併することで、現在の三つの加護を持った人類が生まれるという話だ。


 その演劇の後に2つ目の、レティーラ王国内で知らぬ者のいない、最も有名な建国物語だ。

 レティーラ王国がまだ国という体形ではなく、部族として各地に跋扈(ばっこ)していた時代。

 後に初代国王となるバルスは大地の聖霊に、八の部族を統合するように命じられ、長い冒険の果てに成し遂げる。その後、八の聖霊と契約したバルスが暗黒龍を倒し、その地にレティーラ王国を建国するのだ。

 ちなみにこの建国物語はかなり長いので、部族の統合編と暗黒龍の討伐編の二部に分かれている。

 そのせいで三神伝説が建国物語の前菜扱いになっているのは、世界で有名な物語としてどうなのだと思う話だ。


 三神伝説は中々良い出来で早々に終わり、建国物語が始まった。


 建国物語の物語はだんだんと進んでいく。

 今は水の部族を訪れたところだ。


「あぁ、バルス様。どうか私もお連れしてください。

 例え我が水の部族を裏切ることになってしまったとしても、私は暗黒龍を倒せるのは貴方様だけでございます」


 ちなみにだが、ヒロインであり水の部族の一員でありバルスの後の妻であるシーナは、本当は水の部族ではなく氷の部族だった。しかし何をトチ狂ったのか、最近の貴族たちはシーナをこぞって出身地を水の部族に改変した。ミリアも理由は知らないが、歴史家たちは改変した貴族達に◯ね◯ねと盛大に叫びながら酒のつまみにしているらしい。


(そんなことはどうでもいいが)


 さてそんなシーナ役を演じるのはどこか儚げで可愛らしい令嬢だった。

 ちなみに、生徒会書記のメアリーとニーアの婚約者アーディア、そしてミディアムで学園三大美女と担がれてるらしいがミリアにとっては知ったこっちゃないどうでもいい話だ。それならさっきの話のほうがよほど面白い。


(しかしまぁ…)


 演劇が進んでいくごとに、観客が飽きてきた空気をミリアは感じ取った。席を離れる者や、小声で談笑し始める人物たち出始める。

 ミリアですら感じ取れるのだから舞台にいる人物たちも感じ取っているだろう。

 建国物語は長い話ではあるが、この演劇は決して悪いものではなく、逆に良い方ではあるのだ。

 舞台装置に問題ないし、背景や衣装はよく凝って作られている。舞台で演じる者達の演技も決して悪くはない。演技はこれまでミスなしにできている。ただキャラが合っていないのだ。

 英雄王バルス役の男子生徒は声の張りがない。英雄王バルスのイメージとして『勇敢で威厳のある英雄王』とは合わなかったのだ。

 シーナ役のミディアムも同じだ。シーナは覚悟を持ち英雄王バルスとと共に戦場に立つ『気高い姫』と描かれる事が多い中、ミディアムは可愛らしい印象のためか守る対象としての意識が強くなっていた。

 本人達も真面目にやっているから棒読みだったりではないのだが、キャラが合っていないから観客たちからすると解釈違いに感じられてしまうのだ。


(可哀想…)


 ミリアは彼女達に憐れみの視線を向ける中、統合編は閉幕した。拍手の数も少ない。


─やっぱりバルス役は殿下でなくちゃ!

─どうせならシーナ役もメアリー様が良かったよな!

─やっぱりあのお二人じゃないと華が足りないわ


 閉幕してから小声だが不満の声もちらほら出ていた。

 フィリップとメアリーは確かに合う。

 堂々とした態度のフィリップは英雄王バルスと、凛とした態度で物怖じしない様はシーナの印象と合う。


(やっぱり可哀想だな…

 それにしてもミディアム嬢ねぇ…お腹減ってきた)


 * * *


「お嬢様、とても素晴らしい演劇でした」

「そう」


 演劇が終わると次々と使用人たちが声をかける。

 そんな使用人たちにミディアムは素っ気なく返事を返しつつ、先の演劇を振り返っていた。

 当然演劇の中身についてではない。失敗などつまらないことはせずに完璧に終わらせた。

 それよりもだ。舞台からは観客席がよく見えた。途中から飽きられていったのも分かっていた。

 彼女が最も執心している人物、フィリップ・アルト・レティーラの姿も当然に。

 ミディアムは演技の最中も常にフィリップを目で追いかけていた。バルスに告白するシーンでは、演技指導の指示を無視して、フィリップの方を向いて演技をしたぐらいだ。

 フィリップは確かに観客席からミディアムを見ていた。だが、その目は舞台の役者としてしかミディアムを見ていなかった。

 それは、バルス役や他の端役を見るのと同じ目だ。ミディアムだけを見ていたわけじゃない。


(ダメよ…殿下は私を見てくださらないと…私は殿下の妻となる女なのに…!)


 ミディアムはフィリップ遠縁の親戚だ。それゆえに、ミディアムの家はフィリップの祖父であるアズノール公爵からの信頼も高い家であり、結婚候補としても高い可能性を持っている。

 だからこそ、もっとフィリップには自分に執着してもらわなければならないというのに…


 ミディアムは使用人達を適当にあしらい、一人、舞台の端に向かった。舞台の端にはバルコニーを模したセットがある。観客席からは見えない舞台端の梯子を上るとそこに移動することができるのだ。

 ミディアムは梯子に手を添えると、短く詠唱した。そんなに大したものではない。ほんの少し、木の板に亀裂を入れるだけの簡単で安全な風の魔術だ。

 二箇所行った後、ミディアムは梯子から手を離すと、髪に挿していた髪飾りを抜き取り、舞台上のバルコニーに放り投げた。

 そして、バルス役の男子生徒が近くを通ったところで、悲鳴を上げてみせる。


「きゃっ!」

「どうしたのですか!」


 適当に悲鳴を上げるだけで、男子生徒は簡単に反応してくれる。


「いえ…少し鳥が髪飾りをとってしまったようで、バルコニーに…」

「なるほど。きっと、その鳥もミディアム嬢にかまってほしかったのでしょうね」


 男子生徒はミディアムにカッコつけようとしたのだろう。スルスルと上っていった。梯子の上下に小さな亀裂が入っていることに気づかずに。

 梯子につけた亀裂は、そのまま放置しても壊れることはないが、体重が一定以上ある人物が乗ればその自重で壊れる。

 男子生徒がバルコニーまで後少しというところで、先に梯子の方が限界を迎えた。


「うわああああ!!」


 床からバルコニーまではまあまあの高さがある。その高さから、未防備なまま投げ出されたらどうなるだろう。

 ミディアムは両頬に手を添え、都合のいい悲鳴を上げた。


「きゃあぁぁぁぁ!!」

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