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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第六章:大会編
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第七十話:斬新なプロポーズ

 その後のゴードン対カロライナも無事終了し、全試合が終了したことにより、交流会が始まった。


 交流会は毎年大会が終わるごとにやるものらしく、三校同士が話をしあったり、次にやることについて語り合ったりする。


 モナカ・オルフェは会場の端、壁際にいた。

 手には小さなカップを持っているが、ほとんど口をつけていない。

 そこに、大柄の男子生徒と細身で茶髪の男子生徒が近づいてきた。


「oh,good job 君、よく頑張ってくれたね」

「今日はオルフェ嬢の大金星だな。

 俺なんか一敗一分で勝てもしなかったんだぜ?」

「あ、ありがとう、ごっございまひゅ…す」

「相変わらず噛むこと多いな」


 モナカが恥ずかしそうにうつむいていると、誰かが近づいてくることに気づいた。

 さっきチェスをしたダーウィン・ベイビルだ。


「オルフェ嬢」


 名を呼ばれたビクリと肩を震わせ、すぐ近くにいたエリックとがーノルドの背中に隠れた。

 試合中と同じ、まっすぐで飾り気のない目をしている。


「始めの試合のチェス、実に素晴らしいものでした。

 自分は感服いたしました」

「は、はあ……こちらこそ、ありがとう、ございました……」

「つきましては」


 ダーウィンがモナカの声に間髪入れずに声をかけると、モナカは更に体を震わせ始めた。


「オルフェ嬢にチェスを前提に婚約を申し込みます」


 交流会の空気が、わずかに凍った。

 エリックは「嘘だろ…」と嘆き、遠くにいたオベールは2人を二度見した。

 フィリップはいつもと変わらない笑顔で、セフィルは作り笑いを浮かべながらも面倒臭そうな雰囲気を醸し出し、いつも明るい表情しか浮かべていないニーアは珍しく驚きの顔をしていた。


 黙った空気を読んで、エリックが口を出した。


「あー、すまんが、今のはどういうプロポーズなんだ?悪いがチェスが前提の婚約なんて聞いたことがなかったものでな…」

「失礼。では自分の考えを説明させていただきますので、是非オルフェ嬢には前向きな返答をお願いします!」


 そうしてダーウィンは真面目な顔で馬鹿みたいなことを言い始めた。


「同年代で自分をここまで圧倒した人物は彼女が始めてです。自分はオルフェ嬢ともっとチェスをしたいのですが、他校の生徒である以上、関わりは何もない。ですが、婚約者になれば機会ができます!そして思う存分にチェスが出来る!なので、是非オルフェ嬢に婚約をお願いしたい!」


 全員が絶句していた。


「自分はノイマン王国の子爵家の三男です。爵位を継ぐことは無いですが、卒業後は騎士団に所属する予定です。将来はある程度安泰と考えています。家に借金はなく、子爵家ですが地位は高く、侯爵家との繋がりも持っています。どうぞ、安心して嫁いでいただきたく思います!」


(あ、ああ…とにかく断らないと…!)


 モナカはあくまで仕事でセレスティナに潜入しているのだ。

 そんな状態で婚約など出来るはずがないし、するつもりも毛頭ない。


「出来、ません…ごっ、ごめんなさい…」

「何故ですかっ。もしかして、既に婚約者がいるのですか?」

「い、いません、けど…」


 モナカはチラッとミリアを見た。

 ミリアはそんなモナカに冷たい視線を返し、モナカはすぐに視線を戻した。

 エリックはそんなモナカとミリアを見て、青春だな、と穏やかな目を向けた。

 そしてダーウィンはまだ諦めていないようで、更に言葉を重ねた。


「他国に嫁ぐことが不安でしたら、自分が言語、生活、社交界、ノイマンにおける全てをサポートします。なのでチェスだけに専念してもらって結構です」 

「いえ、あの、その、お伝えした通り、ですっ………ご、ごめん、なさいっ!」


 モナカはガーノルドとエリックの背中から抜け出し、逃げるように駆け出した。


「待ってください!まだ話は─」

「終わりです」


 モナカを追おうとしたダーウィンの肩に手が置かれた。

 置いた人物はミリアだ。

 ミリアは小柄だが、大柄なダーウィンをなんなく抑えている。


「…失礼ですが、これ以上、彼女に干渉されては、両校の関係が悪化する。

 …僕は生徒会運営会でないから、あまり強いことを言えない。…なので、あとは任せました」


 ミリアは後ろに来た、フィリップとセフィルを振り向いた。


「ああ、勿論。オルフェ嬢は我が生徒会の一員でね。

 悪いけど生徒会の一員として、彼女が望まないことをさせるつもりはないんだ」

「私は私情ではないですが…両校の関係が悪化する可能性のある事態は見過ごせませんので」


 ダーウィンは2人にドナドナされていき、会場はしばらく静かなままだった。


「oh…俺は何のためにいたんだ?」


 ガーノルドは寂しそうに呟いた。

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