第六十一話:2人
生徒会室の空気が、一瞬だけ止まった。
「アルト…?」
モナカが生徒会全員の気持ちを代弁するように呟く。
ミリアはそれも耳に入らないまま、嫌な予感が静かに、少しづつ膨らんでいく。
動悸はない。表情も変わっていない。
それでも、指先だけが、わずかに冷えていった。
「すみません。アルト、というと?」
ニーアが確認するように視線を向ける。
「私たちは孤児院出身です」
グレイシーがはっきりと答えた。
「では、後見人は?」
「ミリアさんです」
生徒会室が、ざわめいた。
「は?」
「え?」
「ん?」
エエリック達が素っ頓狂な声を上げる。
普段無口でミリアと話したことのないメアリーや、驚く様子など見せることのないフィリップも眉を寄せ、ミリアのほうを見た。
「…マイル監査、説明を」
ラークがミリアに聞くと、
グレイシーとフラムは顔を見合わせ、少しだけ躊躇ってから口を開く。
「私たち、10歳の頃にミリアさんに拾われたんです」
「それから、住む場所を貰って、勉強も教えてくれて、生き方も教えてくれました」
その言葉に、ミリアの脳裏に過去がよぎる。
寒い路地裏。
痩せ細った子供たち。
そして、かつての自分自身。
(……面倒臭い)
「セレスティナに編入するって言い出したのは?」
「私です」
グレイシーが一歩前に出た。
「ずっと、背中を追いかけてました。
ミリアさんがどんな場所で、何をしているのか。
ちゃんと、見てみたくて」
その言葉に、ミリアは一瞬だけ目を伏せる。
「この学園が、どんな場所か分かっている?」
「はい」
グレイシーの真っ直ぐな瞳に、ミリアは沈黙した。
生徒会役員たちは、誰も口を挟まなかった。
数秒後、ミリアは小さく息を吐く。
「……はぁ」
それは、諦めにも似た溜息だった。
「キャンベル庶務…2人が編入するにあたって…何か問題は、ありますか?」
「ありません。学力試験も実技試験も問題なし。
例外措置ではありません」
ミリアは生徒会役員に振り返った。
「皆さん…お騒がせして、すみませんでした。
そして、手間をかけて、いただいたことに…感謝を」
「ミリア、別に感謝も謝罪も要らないよ。私たちは生徒会の仕事をしただけだからね」
「フェリル会計の言う通りだ。アルト監査が私達の仕事に配慮する必要はない」
ミリアはそう言われながらも、礼をした。
「…失礼しました」
ミリアはそう言いながら、グレイシーとフラムの襟を掴みながら生徒会室を退室した。
* * *
その後、ミリアは裏庭で2人を問いただしていた。
「さて、2人とも…なんで勝手に編入したのかな?」
「ミリアさんに追いつきたかったから」
「どうやって編入したのかな?」
「ミリアから毎月渡されるお小遣いを貯めて入った」
ミリアはこれ以上問いただすことを早々に諦め、違う話題を出した。
「2人とも、送った本はちゃんと取ったかな?」
「本?」
「1ヶ月前に少し書店に寄って買ったんだ」
「…実はそのときから準備し始めたせいで、郵便届見てない…」
「え?家に置きっぱってこと?」
「うん…」
ミリアはほんのわずかに目を細める。
絶句していた。
「ま、まあいいや…2人とも、明日から頑張ってね」
「明日?もう始まってるけど」
「そうだよ、今日も昼休みに魔法戦したんだ」
ミリアは昼休みに起きた魔法戦を思い出した。
…
「…お前ら、帰ったら覚悟しとけよ?」
ミリアはそう言い残してから足早で生徒会室に戻った。
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