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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第五章:導き編
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第五十四話:祭りぱーと2

「……すごい、人がいっぱいですね」


 セフィルはきょろきょろと視線を動かしながら、小さく息を吐いた。

 城下の祭りとはまた違う、雑多で、熱気のある空間だろう。


「こういう祭り、来るの少ないんですか?」

「はい。私の家は貴族なので、親が行かせてくれないんです」


 遠回しな言い方だったが、要するに自由がないのだろう。


 ミリアは屋台が並ぶ通りを指さした。


「まずは定番から行きましょう」


 ミリアは店主に銀貨を渡し、このゲームに必要なものを受け取り、セフィルに振り返り微笑んだ。


「射的です」

「射的、ですか?」

「的を撃って、当たったら景品がもらえるんです」


 セフィルはミリアから銃を受け取り、慎重に構える。


「……こう、ですか?」


「肩の力抜いて。狙いは…あの人形」


 ぱんっ。

 外れた。

 当然だ。素人が簡単に当てられるならこの商売は繁盛していない。


「難しいですね…」

「貸してください」


 ミリアはセフィルから銃を受け取り、店主に追加の銀貨を渡すと、一発で真ん中を撃ち、見事に倒した。


「……!?」

「はい、景品」


 差し出された小さな星型の飾りを、セフィルは目を輝かせながら、大事そうにしまった。


「記念にしますね」

「大したものじゃないですよ」

「いいえ、こういうのが大切なんです」


 即答だった。


「…頑張ればあなた一人で取れるようになりますよ」

「本当ですか?!」

「はい、あなたは筋がいい」

「頑張ります!」


 そう喜ぶ彼女の顔はどこか悲しそうだった。


 * * *


ミリアは飴細工の店に並んだ。


「……大きいですね」


 セフィルは店内に並んだりんご飴を見上げ、素直に感嘆の声を漏らした。


「美味しいし見た目もいいんですけど、少し食べづらいのが難点なんです」

「?」


 ミリアは迷いなく二本買い、一本を差し出す。


「どうぞ」

「え、い、いいんですか?」

「一緒に回るんでしょう?一緒に楽しめなくてどうするんですか」


 セフィルは驚いたような顔をしたままりんご飴を貰い、ひと口かじった。


「…甘い………!」


 飴のパリッという音に、セフィルの表情がぱっと明るくなる。


「顔に出やすいですね」

「そ、そんなこと……」


 否定しながらも、もう一口頬張る。

 ミリアはそれを横目で見ながら自分も少しかじる。


(これほどまでの演技なら心配は不要かな)


「次は『ちょこばなな』というのを食べに行きましょうか。りんご飴はその屋台のところに着くまでゆっくり食べましょう」


 セフィルは行儀よくりんご飴をかじりながら首を傾げた。


「『ちょこばなな』、ですか?」

「はい。温暖な南国で作られた『ばなな』に『チョコレート』をかけたものらしいです。東方にて作られたそうなんですが、斬新なものを作る力はやはり東方の方が秀でていると思い知らされます」

「なるほど…」


 セフィルは相づちを打ちながら、食べ終えたりんご飴の棒をゴミ箱に捨てた。


「買いますね」

「あ、待ってください。これ、値段高いですけど本当にいいんですか?」


 南国が産地のバナナとチョコレート。南国と遠方なこの国では運搬量が相当かかるため、当然値段は高くなる。この店も他の店と比べれば高いが、それでも庶民的な値段に抑え込まれている。


「大丈夫です。今回それなりにお金持ってきてるので2人分は全然買えますよ」

「…私に出させてくれませんか?」

「女性にお金を出させるのは男性の恥ですので」

「…すみません。不躾(ぶしつけ)なことを言いました」

「構いませんよ。さ、それよりも買いましょう。売り切れちゃいますよ」


 チョコバナナの値段は高いが、それでも物珍しさから列ができている。モタモタしていたら売り切れるかもしれない。


「はい!」


 ミリアとセフィルは並び買うと、ちょうど最後の2つだったらしく、後ろに並んだ人たちは残念そうに離れていった。


「食べましょうか」

「はい、いただきます」


 ミリアとセフィルは同時に一口食べた。


「……!」


 セフィルは声も出さずに驚愕し、ミリアも目を見開きながらまた一口食べる。


「……おいしい……です……」


「そうですね。『ばなな』の甘さと『チョコレート』の苦みと甘さの絶妙なバランスが最高です」


 セフィルは人目も気にせずにまた口に入れ頬張る。


「こんなもの、王城では……」

「どうしました?」


 セフィルは言いかけ、はっと口をつぐむ。

 ミリアもまた、何も聞こえなかったふりをした。


 * * *


 少し休憩するために中央通りから外れた外道のベンチに座った。屋台の灯りに照らされながら、セフィルは感慨深そうな笑みを浮かべた。


「……今日は、不思議な日です」

「何がですか?」


「誰にも名前を呼ばれず、役割もなく……ただ、楽しい」


 ミリアは一瞬、言葉に詰まった。


「……貴族というのは大変ですね。庶民の自分は分かりかねますが、一つ言えることがあります。」

「なんでしょうか?」


「貴族にも庶民にも、休みは必要です。どんな身分年齢立場であろうと、人である以上、ずっと完璧に動けるわけではありません。」

「…ありがとうございます」


 セフィルは、星型の飾りを握りしめたまま、微笑んだ。


その背後で微かな魔力が揺れたことに、ミリアは気づいた。


(……今はいいか)


 今夜くらいは。

 祭りの灯が消えるまでは。

 何もかもを忘れて、一人の子供として楽しんでもいいだろう。

評価、ブクマなど、投稿の励みになりますので、どうぞよろしくお願いします!

まだ続くのでゆるゆる展開楽しんでください。

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