第五十三話:祭り
(護衛も付けずに)
護衛も侍女もいない。
服装も変装のためか趣味かは知らないが、絶妙というよりハッキリダサい。
どちらにしろお忍びで待ちに来ているのは確定だろう。
ミリアは人波を縫うように進み、自然にセフィルの三歩後ろに位置取った。
距離は近すぎず、遠すぎず。尾行というよりではなく、あくまで同じ店を見ている通行人の距離感。
串焼き、飴細工、魔導仕掛けのロウソク。
セフィルは一つ一つに目を輝かせながらも、どこか落ち着かない様子だった。
(言動の節々から王族の癖が抜けきれてない)
その時だった。ミリアの視界の端、セフィルの左側。
袖が触れ、次の瞬間──
(盗られたな)
セフィルの表情は変わった。
「あ……」
小さな声。
セフィルは慌てて腰元を探り、次に青ざめる。
「……ない……?」
その瞬間、ミリアはすでに犯人を捉えていた。
十代後半ほどの少年。人混みに紛れるための軽装。動きは単調だが無駄がなく、人混みに紛れるのが上手い。
(常習犯か…)
ミリアは歩調を変えず、腕を掴んだ。力は込めず、だが逃げられない角度と位置。
「落とし物、だよね?」
「な、何のことだよ!」
少年は暴れようとしたが、それは許さない。
ミリアは掴んだ腕に力を入れた。
「…ポケット」
顔を歪めた少年に冷静に告げると、観念したように財布を落とした。
「…チッ」
「」
ミリアはそれを拾い上げ、何事もなかったかのようにセフィルのもとへ戻った。
「これ、落としましたよ」
「え……?」
セフィルは財布を見て、目を見開いた。
「それ……わ、私の……!」
「良かったですね。人が多いから気をつけた方がいいですよ」
ミリアはあくまで人のいい通行人として接した。
だが、セフィルはじっとミリアの顔を見つめた。
「……ありがとうございます。あの……」
一瞬、言葉を選ぶように視線を彷徨わせてから、セフィルは小さく微笑んだ。
「よかったら、一緒に回りませんか?一人だとちょっと心細くて…」
断る理由はいくらでもあるが、せっかくだ。本当は一人で見て回るつもりだったが、二人で回ったほうが楽しいだろう。それに護衛も付けないこの少女の護衛も出来て一石二鳥だ。
「いいですよ。一緒に回りましょうか」
「本当ですか!」
「はい」
ミリアはセフィルと一緒に店を回り始めた。
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