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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第五章:導き編
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第五十三話:祭り

(護衛も付けずに)


 護衛も侍女もいない。

 服装も変装のためか趣味かは知らないが、絶妙というよりハッキリダサい。

 どちらにしろお忍びで待ちに来ているのは確定だろう。

 ミリアは人波を縫うように進み、自然にセフィルの三歩後ろに位置取った。

 距離は近すぎず、遠すぎず。尾行というよりではなく、あくまで同じ店を見ている通行人の距離感。


 串焼き、飴細工、魔導仕掛けのロウソク。

 セフィルは一つ一つに目を輝かせながらも、どこか落ち着かない様子だった。


(言動の節々から王族の癖が抜けきれてない)


 その時だった。ミリアの視界の端、セフィルの左側。

 袖が触れ、次の瞬間──


(盗られたな)


 セフィルの表情は変わった。


「あ……」


 小さな声。

 セフィルは慌てて腰元を探り、次に青ざめる。


「……ない……?」


 その瞬間、ミリアはすでに犯人を捉えていた。

 十代後半ほどの少年。人混みに紛れるための軽装。動きは単調だが無駄がなく、人混みに紛れるのが上手い。


(常習犯か…)


 ミリアは歩調を変えず、腕を掴んだ。力は込めず、だが逃げられない角度と位置。


「落とし物、だよね?」

「な、何のことだよ!」


 少年は暴れようとしたが、それは許さない。

 ミリアは掴んだ腕に力を入れた。


「…ポケット」


 顔を歪めた少年に冷静に告げると、観念したように財布を落とした。


「…チッ」

「」


 ミリアはそれを拾い上げ、何事もなかったかのようにセフィルのもとへ戻った。


「これ、落としましたよ」


「え……?」


 セフィルは財布を見て、目を見開いた。


「それ……わ、私の……!」


「良かったですね。人が多いから気をつけた方がいいですよ」


 ミリアはあくまで人のいい通行人として接した。

 だが、セフィルはじっとミリアの顔を見つめた。


「……ありがとうございます。あの……」


 一瞬、言葉を選ぶように視線を彷徨わせてから、セフィルは小さく微笑んだ。


「よかったら、一緒に回りませんか?一人だとちょっと心細くて…」


 断る理由はいくらでもあるが、せっかくだ。本当は一人で見て回るつもりだったが、二人で回ったほうが楽しいだろう。それに護衛も付けないこの少女の護衛も出来て一石二鳥だ。


「いいですよ。一緒に回りましょうか」

「本当ですか!」

「はい」


 ミリアはセフィルと一緒に店を回り始めた。

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