第五十一話:囁く扉
古代魔導具には人間と対話し交渉出来るほどの意思と知能を兼ね備えている。
知能は驚異。相手の行動を学習、対策し、的確な判断を取ることが出来るからだ。
人対人では当たり前のことである故、相手の対策を如何に崩せるか、相手に悟らせないかが重要になってくる。
しかし、古代魔導具はその読み合いを一蹴するほどの力を持っているのだ。
* * *
「『あら、避けるなんて凄いじゃない、褒めてあ、げ、る。たっぷり、いたぶってあげるからねぇ!』」
「…あはははははははは!
出来るもんならやってみなよこのオカマ!」
「『私はオカマじゃあなァい!生粋の女よ!』」
叫んだ瞬間、古代魔導具は両隣に十本の光の矢を作り出し、それを射出した。
ミリアはそれに呼応するように両手を突き出し、詠唱を紡いだ。
「『発動』」
この詠唱は結界魔術の超短縮詠唱。簡単な円状の結界を10枚重ねて張った。それ故それなりの速さを持った光の矢を8枚壊されただけで済んだ。
「…まさか光の矢なんていう高難度魔術を複数扱えるとはね」
「『んっ、ん〜。と〜うぜんでしょ?私は古代魔導具が一つ『星の動脈』ファンファーレ様よ?人間のあなたなんかと同じにしないでほしいわね』」
光属性は聖霊も存在する属性だが、人間が簡単に扱えるものではない。少なくとも、3つの魔術を同時維持できなければ再現すら不可能だろう。
ちなみに上級魔術師やミリアを除く七賢者ですら2つの魔術の同時維持が限界だ。ミリアは3つ同時維持が可能だ。しかし、それでも光の矢─光魔術は扱えない。
(光の矢は防ぎ切れている。あれが全力はないとしても、それはこちらも同じ。
こっちは破壊不可+殺害不可でも、あっちは乗っ取った体を傷つけられないこと以外は制約なしなことを考えれば不利。
飛行魔術+結界魔術×2のおかげで脳のキャパは限界。結界魔術は片手で5枚が限界な以上、結界の限界強度を上回る威力なら無理)
ミリアは光の矢を結界で守りながら考える。
古代魔導具『星の動脈』は星から力を受け、周囲の空間、大地から魔力を吸い上げるため、ほぼ魔力切れはない。
持久戦に持ち込むことは、この特性を考えれば不可能。であるならば、短期で決めるしかない。
「『もう飽きたわ。だから捨てなきゃね!』」
『星の動脈』が言うと同時に、ミリアの上半円に無数の光の矢が作られた。
「やはり古代魔導具。やはり化け物か」
「『アハハハハ!お褒めいただいてありがとう!』」
光の矢はざっと100。下には結界があるが、10何発ならともかく、100にものぼる光の矢はローランの結界ですら耐えきれない。
そんな状況においての最善策は─
「『あら、飛行魔術を解除して落ち始めるなんて…でも降参しないなら私の好きにさせてもらうわよ!』」
ミリアは落下し、振り注ぐ光の矢を受け切っていた。
(強度は最大、数は3枚必要最低限)
─最善策は、落ちるスピードを調整しながら、ミリアがローランが張った結界に到達する前に光の矢を凌ぎ切ること。
(98…99…100…)
「さて、光の矢は全て尽きたようだが、どうするのかな?」
「『あら、舐めてていいの?私はまだたっぷり動けるのに』」
「必要ない。断言しよう。私はこれから、ここから一歩も歩むことは無いと」
「『ふん!私に対して舐めた態度を取ったことを後悔させてあげる!全ては私の手の上だと知りなさい!』」
ミリアが全ての光の矢を対処したと判断した瞬間、下から魔力反応を感じ取った。そして、完全に感じ取る前に、下から10本の光の矢がミリアに向かってとんで行った。
「『なっ、嘘でしょ!』」
光の矢は確かにミリアの意識外から放たれた─はずだった。
しかし、それはミリアに届くわずか10cmで防がれた。
「この指輪があれば、わざわざ結界魔術を使わなくとも結界を張れるんだ」
「『まさか…そんな、ウソッ!そんな事が…』」
「気づいたかな?私が君に化け物といったのも、君が痺れを切らして上半円に光の矢を仕掛けるのも、予定調和…私の予測通りだったのさ」
─古代魔導具は人間に匹敵する知能を持っているが、完璧というわけではなく、経験を積んだ玄人に素人が勝てる道理などない。つまり、まともな戦闘経験のない古代魔導具は、その力さえ対処できれば脅威となりえないのだ。
ミリアが立ったままでいると、後ろから光の矢が飛び出た。次は近距離、ミリアも間に合うはずがない。
なのに、風の刃で防がれた。
「ベストタイミング『沈黙』」
「ご、ごめんなさい…酔いが覚めきってなくて…」
ミリアが、モナカが来ると思った時間ぴったりに来た。風の斬撃ともなれば、指定の座標、速度を即席で組み上げる魔術式の難易度は鬼のように跳ね上がるが、そこは卓越した計算能力を持つ彼女だ。
無理なわけがない。
「後は私に任せて寝てなよ」
ミリアがそう言うとモナカはまた寝始めた。
睡眠欲に圧倒されつつ、彼女を結界魔術で保護し、跳躍魔術でマリンの元へ飛ばした。
「さて…準備は…いいかな?」
「『クソっクソクソクソ!いつでも来いィッ!』」
「『発動』」
ミリアは蒼炎を手に宿した。
そして、形を弓矢に変え、『星の動脈』に向けた。
「『何だ…なんなんだそれハァ!私の記憶に一切ない魔術?!そんなの、あるはずが無い!』」
「あるんだな、これが」
「『ま、待ちなさい!あなた達は私を、そしてこの体を傷つけてしまうわよ!それでいいの!?』」
「関係ない」
ミリアは矢を放った。
矢…蒼炎は『星の動脈』だけを外れて広がっていく。
蒼炎は『星の動脈』が言っていた通り、対象を傷つけてしまう。だからあくまで目眩まし。
本題はここからだ。
この魔術は七賢者のうちの数人、国内で全属性をカバーできて居ないほど使い手の少ない魔術。魔術師としての高いレベルと聖霊との相性一致、聖霊と共に信用していなければ扱えないのでそれも当然だ。
ミリアは無属性に最も秀でており、今回使用するのは無属性の『死』『終わり』を司りし聖霊。
「死を囁く扉、冷酷な意思と共にその姿を顕せ」
囁くように紡がれる詠唱とともに、『星の動脈』の頭上に開かれた扉が顕現した。
その瞬間、空気が変わった。何人たりとも許可なく生きることを許さないような。
「青碧、ミリア・アルトの名において告げよう、
すべてを狩り尽くし朽ち果てよ、
死を司りし聖霊●●」
扉は閉じ、朽ち、『星の動脈』に振り注いだ。
そして、古代魔導具は意識を失ったように装着された手が体とともにぶら下がった。
「これで終わりかな」
ミリアは古代魔導具を身に着けた─恐らく盗み装着した瞬間に体を乗っ取られた─犯人を掴み、跳躍魔術でマリンのもとへ跳躍した。
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