第四十二話:大切な人
モナカは安堵していた。
第二王子の護衛を達成し、ミリアから託されたことで生まれた使命感も消え、捕縛された友達もミリアの手によってまた話すことができるようになった。
そしてそのせいか涙も流していた。
だからだろうか…
─基盤側のさらに奥の、これまで検知していなかった魔力反応に気が付かなかったのは。
「ッ!うあぁ!」
モナカの指が切断された。
ネロが咄嗟にモナカの襟を咥えて回避していなければ、右腕も切られていらだろう。
「う…あ…」
「シャー!」
ネロは負傷したモナカの前に出ながら、コツコツとこちらに歩いてくる人物に威嚇した。
ネロはもう悟っている。
ネロでは…猫の姿のネロではこの男には勝てない。例えネロが人の姿をしていても、時間稼ぎしかできないだろう。
「やれやれ、できれば今ので仕留めたかったのだが、な。私の腕も落ちたものよ」
基板の奥から、初老の男性が姿を現した。
手には剣を握っているが、おそらく純粋な剣でなく魔法剣だろう。
魔法剣とは、特殊な効果を付与した剣のことだ。
先ほどこの男がいた位置からモナカに傷を負わせる間合いの広さなど、魔法剣による物以外にはないだろう。
「始めまして、計画を邪魔してくれたネズミ君。
私の名はモーディ・リューレ。短い間だがよろしく頼もうか」
モーディはネロを無視しモナカに告げた。
モーディの眼にはモナカしか映っていない。
「遅いな」
ネロは、モーディの意識がモナカに向いたことを理解し、奇襲を仕掛けた。
だが、その一撃は音も容易く受け止められてしまった。
当然だ。ネロの攻撃には速度も威力もないのだから。
ただ、モナカが魔術を使えるようになるまでの隙づくりとしては、それで十分だった。
「ッ!…危なかったな。警戒はしていたが…流石は『沈黙の魔女』といったところか」
モナカの魔術も受け流された…いや、霧散されたと言ったほうが正しい。
モーディの魔法剣は魔力を操る。
魔力を操ると言っても、一度性質を決めたら1分は使えなくなるが、それでも十分である。
魔力を完全に意のままに操ることなど、広い世界でもミリアしかいないのだから。
(相手は手負いのわたしを対処できるくらいには強くて、後ろにはアーネもいるし、わたしの正体にも気づいてる…)
どうすればいいの…と悩んでいるところに、セリアーネが呟いた。
「…嘘でしょ?
モナカが、七賢者だって言うの?」
「よもや、友にまで教えていないとはな…やはり貴様は人の心を持たん化け物だ」
モナカは次にモーディがすることを予測し、行動を起こされる前に体を動かした。
そして─
「やはり、情を持ちすぎた七賢者は脆いものよ」
モナカは胸を切られ、仰向けで地に伏せていた。
決して深くはない傷だが、幼児体型のモナカにとっては浅くても失血死の可能性は高い。
モナカはミリアに謝り、言葉だけ許された時間を思い出した。
(死にたくないなぁ…でも、このまま死んでも…わたし、結局ミリアに謝りきれてないけど、このまま死んじゃうんだ。
でも、これで…ミリアが悲しむことはなくなるから…
でも、最後に、ミリアとアーネと、ちゃんと話しておきたかったな)
モナカがそこまで考えたところで、モナカの前が虹色に光った。
* * *
「…ふ〜」
虹の光からため息をしながらミリアは現れた。
彼はモーディに目もくれずモナカに近寄り、膝をついた。
「モナカ、勝手に死なれたら困るね。
君は大切な、僕の…幼馴染の一人なんだから」
ミリアの『幼馴染』と言う声は震えていた。
恐怖も、後悔も、安堵も、怒りも、悲しみも、それらすべてが込められた言葉だった。
ミリアは体を起こすにあたり最も影響の少ない、抱き起こしを行い、少し体を起こした。
「み、ミリア…?!」
「うっさい。
黙って僕に任せてて」
お互いに赤面しつつ、ミリアはモナカの背中の心臓部分に触れた。
これまで沈黙を貫いていたモーディは何かを感じ、剣をミリアの首めがけて振るった。それは長年の勘によるものだ。
(このままでは負けるっ!─)
「黙って見ていてくれ」
ミリアは指一つすら動かさず、剣を防いだ。
座標指定した魔力変質の斬撃で、剣を防いだのだ。
ミリアは相殺程度を想定していたが、実際はモーディに反動を食らわせる結果になった。
「君、老いたね。剣士でその弱さじゃ、私相手には何人で挑もうが君の全敗だよ」
本来、剣士というのは魔術師より弱いことが多いが、対人戦においての上位陣同士の戦いでは剣士が勝つことが多い。
それは、魔術師は距離さえ保っていればある程度の剣士には勝てるが、剣士の上位陣はこちらが詠唱を終える前に斬るためだ。
「貴様っ!何をしたっ!」
「これかい?
心臓から流れ出る治癒成分を、魔力で活性化させている」
そういうことじゃない─モーディはそう考えつつ、終わるまで見守ることに決めた。
* * *
ここまで僕が怒るのは久しぶりだ。
妹が死んでからは、それ以上に怒ることなんて、なかった。
命が危ない危険なことをニナがやる時は一緒に対処したから、これ程の激情を持つまでは行かなかったのだ。
だが今、久しぶりに怒りが湧いている。
モナカが、僕の知らぬまで傷つき、死にかけていた。今まで目を逸らし続けてきたことの罰だろうか。
いや、罰なのだろう。
目を逸らし続けてきたから大切な人を守りきれないのだ。今も昔も。
そうだ、モナカは僕の人生において、いい意味でも悪い意味でも『大切な人』の一人なのだ。
それを理解するなら、もう私はこの剣士を許すことはないだろう。
* * *
「…待ってくれたことには礼を言う。死ね」
「舐めるなよクソガキがぁ!」
ミリアの治療を終えたミリアは立ち上がり、向かってくるモーディに対して指を鳴らした。
魔力変質による凍結を行い、モーディは完全に動かなくなった。凍結が完了した証しだ。
「発動」
ミリアは凍結したモーディに風の刃を放ち、モーディは粉々に砕け散った。
「ミリア…」
「2人で話したいことがあるだろう?休むついでに話しておけ」
「う、うん。あ、あ、ありがとう」
ミリアはとある場所に跳躍した。
ミリアの八つ当たりはまだまだこれからだ。
※ちなみにモナカを切ったのはモーディの魔術です。
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