第四十一話:しょっぱい水
残り、5分。
モナカは基盤に近づいた。
(これが…基盤)
基盤を見つけたなら、後は書き換えるだけ。そう時間はかからないだろう。
本来、『結界の魔術師』が張った結界の書き換えとなると、彼と同等とされる七賢者でも容易いことではないが、ミリアやモナカといった魔術式への理解がズバ抜けた七賢者であれば対処は容易だ。
いや、結界の書き換えは難しい上に確かに時間は要する難易度ではあるが、到底リミットまでに終わらない時間ではない。
「よし、やるぞ…!」
モナカは気合を入れつつ、一緒にここまで来たネロのことも忘るほど、買い替えに集中する。
ミリアから、結界の書き換えを行う際の注意点がいくつか伝えられた。
・結界に接触した直後か、書き換えを設定した直後に、なんらかの手段で対抗される可能性がある
・結界自体が想定よりも複雑で、想定より書き換えに時間がかかる可能性がある
最後にもう一つあるのだが、それはもう一方に任せてあるので、少なくとも始末は出来るだろう。
モナカは考えた。
1つ目のパターンは、ミリアがネロを送っているため、モナカを助けてくれるだろう。
モナカは、ネロがたにだの使い魔でなく、戦闘能力が高いとミリアに伝えられているため、その点において心配はしていない。
問題は2つ目のパターンだ。
七賢者内屈指の演算能力を有するモナカなら、多少複雑であれどある程度までは問題ない。
ただ、問題外─『結界の魔術師』が作った最難関結界の一つであり、モナカは結界魔術が『結界の魔術師』の次ぐほど秀でていない、となれば、話は変わる。
そもそも、『結界の魔術師』に次ぐ結界魔術の腕を持つのはミリアであり、ミリアとそれ以下とでは、結界魔術の腕には巨大な壁が広がっている。
本当ならミリアが結界の書き換えを担当するべきだったが、その当人は暗殺者の確保と、彼しか行えない、魔道具の解除を行っている以上、そしてミリアに直接任された以上、モナカのちっぽけなプライドと承認欲求がモナカを奮い立たせた。
「わたしが、やらなきゃ、いけないんだ…!」
モナカは使命感の下、結界を書き換える。
場所は第一倉庫の、中心に吸収されていっているような魔力の流れ─盗み出された魔道具『晩鐘』が設置された場所だ。
時間は魔道具が発動するまでに設定した。
対内結界において、場所と時間を設定すれば、後は詰めの作業と言っても過言ではない。
「つぎっ」
結界の属性条件は高出力の無属性の魔力に限定。
強度はモナカの魔力量で上げる。
「後は…」
晩鐘は時間経過で少しづつ魔力を吸い取り、時間が経つごとに吸収する魔力も増える。魔力量の許容値の限界にまで到達するか、使用者が発動時間を指定することで晩鐘は吸収した魔力を放出する。
放出された魔力は非常に高濃度だ。
ゆえに、たった一滴漏れ出ただけでも、人にとってその魔力は毒になる。
それを防ぐにはその魔力を完全に中和するしかない。
「それなら後は、限界まで…」
* * *
唐突にその時は訪れた。
『晩鐘』は発動した。
が、魔力は完璧に中和された。
モナカのとった手段は、いたって単純。
結界の効果範囲を晩鐘のある場所に限界まで絞った。
これにより、効果が上がり、晩鐘から放たれた魔力を中和することに成功した。
「やった…」
モナカは安堵した。
そして気づいた。
セリアーネが縛られた状態で後ろにいたのだ。
「アーネ?」
「…えぇ。ご機嫌用、モナカ」
モナカは何故セリアーネがここにいるのか分からなかった。
「ミリアさんがここにとばしたのよ。 どういう手品なのか気になるわね」
モナカはミリアの気遣いに感謝した。
セリアーネに聞きたいことがたくさんあった。
セリアーネが連行される前に、少しでも話していたい。
そう思うのに、知らぬままモナカは涙を流していた。
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