第二十六話:謝罪
(言い過ぎたかな)
ミリアはチェスの見学授業を終え教室に戻るとそう思った。
チェスの授業での、終わりのころの発言に関してだ。
「…いつ謝ろうか」
ミリアは、モナカが全力でやってないことは疑いもしない。
それほどまでに、あの沈黙は計算能力も、予測能力も恐ろしく高いのだ。
ただ、ミリアが言ったことに、モナカが傷ついた顔をしたことが忘れられない。
「どうしたの?」
ミリアがモナカの顔を思い返していると、ニナが声をかけてきた。
「選択授業のとき、チェスでさ。 モナカとやったんだ」
「…へ~」
チェスの話を切り出すと、ニナは口角を下げてジト目になった。
「不機嫌、なってない?」
「なってない!」
ミリアには不機嫌になっているとしか思えなかったが、そこを追及すると話が進まなくなるので頭の片隅に置いた。
「全力でやったんだけど、モナカが、自分が不利になる手を、打って…全力でやってない、思ったんだ。
それを問いただしたんだけど、その時の、モナカの顔が、忘れられなくて」
「後悔してるなら謝ったら?」
それはミリアだって思ってる。
「いつ、どこで、謝ろうか迷ってる。 呼び出して、二人きりになったら、はどうかな?」
「ダメ! …生徒会室で謝ればいいんじゃないの?」
ミリアは生徒会室で謝る様子を想像した。
生徒会室で、モナカがうろたえている様子しか見えない。
「うまくいくかな」
「いかなかったら、その時考えればいいの! 大丈夫よ私がいるんだから。 サポートしてあげる」
「ありがとう」
* * *
そうしてニナの助言の下、ミリアは謝りに向かった。
ちょうど生徒会室にも用事があるので、そこで謝ればいいだろう。
ミリアが考えながら生徒会室に入ると、そこにはもうモナカがいた。
ミリアはモナカに近づいた。
「モナカ」
「な、なに?」
ミリアは頭を下げて、言葉を詰まらせながら、おどおどしたモナカに言った。
「…チェスの時、言葉使い間違えて、傷つけた。 ごめんなさい」
「え? あ、うん。 ぜ、全然大丈夫。 だ、だから、頭、上げて?」
ミリアは躊躇しながら顔を上げた。
「わ、わたし、別に傷ついてないから、だ、大丈夫だよ。 あ、でも、わたし、あのポーン、ミスしただけで、わざとじゃない、から」
「うん…ごめん」
お互いに気まずい雰囲気になったところで、モナカが口を開いた。
「そういえば、ミリアはどうしてここに? 監査の仕事のはまだでしょ?」
「うん、それは急な仕事が、入って…。 資料室で、フィリップ殿下と、セフィル殿下が…話し合うらしいから…その監視で、呼び出され、たんだ」
そこまでしゃべったところで、後ろから扉が開く音が聞こえた。
「二人とも、お取込み中だったかな?」
「お邪魔いたしますわ」
「えっと…お二人ともすみません…」
気を使ったフィリップと、堂々としたセフィルと、困ったようなニーアが入ってきた。
「えっと…それじゃあ、すぐに話し合いを始めるので、担当の人は資料室に移動願います」
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