第二十五話:ステルメイト…ざまぁ!
ミリアは実践魔術の授業を終えると、最後の見学授業の教室に向かった。
教室の看板に書かれた文字は、チェス授業室。
そう、ミリアの最後の見学授業は、チェスだ。
ミリアがチェスを選んだのには理由がある。
知り合いが多いからだ。
生徒会書記のエリックに仲のいいオベールもいる。
そしてなにより護衛対象のセフィルがいる。
選択授業片手間に護衛もできるのは一石二鳥だろう。
「こんにちは、ミリアさん」
振り向くとそこにはセフィルがいた。
「こんにちは」
「ミリアさんはチェスを見学なさるのかしら?」
「はい」
返事を返すと、セフィルは微笑みながら言った。
「それでは、紹介をしましょう」
ミリアはセフィルに強引に案内をはじめられた。
「チェスの講師はロベルト教諭です。 チェス初心者でも経験者でも、ここにいる生徒は皆、ロベルト教諭に教えてもらっているのですよ」
そう言い、セフィルが指さした。
そこには体格のいい大人がいた。 あれがロベルト教諭だろう。
「今チェスを受講している生徒の中では、オベール、エリック様、私の順で強いですね。 今エリック様とオルフェ嬢が対局をしていますね。 少し見ていきましょう」
エリック対モナカを見ている観客は、教室にいる生徒の二分の一はいたため、少々見るのに手間取った。 ミリアの低身長もあるだろう。
「…おや、エリック様にはもう勝てる手がありませんね。 …キャスリングを使わなければ」
ミリアはチェスは全然知らず、名前とルールしか知らない。
社交界で最初の開会式に出てからひたすら自室にこもって研究をしていたからである。 人はこれを自業自得という。
「キャスリング、とは?」
「真ん中のキングと、恥にあるルークのそちらも動いておらず、かつその間に駒がないときのみ行える特殊ルールです」
「なんで、エリック様はキャスリングを…しないのですか? 僕は、悩んでいるように、見えます」
ミリアには、そんな逆転の意手があるならどうして手打たないのだろうと感じた。
同時に、エリックがキャスリングをすることに躊躇しているようにも感じた。
「…『チェスのチの字も知らないオルフェ嬢に、自分ははルールを教えたが、キャスリングは教えていなかった。 だから、教えていないのに使うのは、貴族の矜持に反する卑怯なものだ』 大方、このように考えていたのでしょうね。 階級至上主義のあの方らしい」
確かにそれならば納得もできるが、貴族が矜持を気にするのはミリアにとって意外だった。
考えていると、エリックがキャスリングを使った。
キャスリングのルールを知らないモナカはうろたえた。
「い、今のはキャスリングという、ルークとキングが言っても動かされていないときにー」
「ま、負けました」
ミリアは観客から離れた。
そして、同じく観客の中から出てきたセフィルに言った。
「僕に、チェスを教えてください」
「わかりました」
ルール、駒の動かし方、戦略…セフィルから簡単な説明を受けた。
その後、ミリアはモナカに近づいた。
「…モナカ・オルフェ嬢」
「は、はい!」
「一局、お願いします」
ーセフィル視点ー
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
今、モナカ・オルフェとミリア・マイルの一戦が始まった。
それを見るのは、私と先ほどモナカに実質負けたエリックの二人。
「先ほど惨敗した感想をお聞きしても?」
「俺は負けてないがね」
「教えていない手を初心者に使った時点で、己惚れていたあなたにとっては惨敗としか言えないと思いますが?」
「ぐ…オルフェ嬢は強かったな。 こっちの手を先読みして、的確に正確に打ってくる。 最初の数手で緊張を感じ始めたよ」
どうやら彼も私と同じことを感じたらしい。
オルフェ嬢とは運営会の仕事でかかわることはあったが、その時のおろおろした感じとは違い、チェスをするときは自分の空間に入っていた。
その空間に入れるということは、とてつもない集中力があるという証。
「ミリアさんも編入生の一人。 実力は未知数です。 もしかしたら、オルフェ嬢と同格の可能性も私は捨てていませんよ」
「へぇ、自信満々だな、王女様。 それじゃあどっちが勝てるか予想しようぜ。 俺はオルフェ嬢」
「ならば私は自信をもってミリアさんと」
二十分近くたった時、勝負がついた。
「………チェック、メイト」
「参りました」
勝者はミリア・アルトだった。
「かなり白熱した試合でしたね、エリック様。 やはりあなた相手には手加減されていたようで」
「…あぁ、お互いに最善手しか刺さなかったな。 ミリアはそこを逆手についたときは驚いたよ」
「そうですね」
どちらも無慈悲な戦いだった。
二人の戦い方を見て分かったことは、オルフェ嬢が逃げ道をなくしただ王を討つようなチェス、ミリアが駒を取って追い詰めるチェス、ということだ。
二人とも最善手を取る瞬間が多かったが、勝敗を分けたところはやはりあの場面。
ミリアさんがわざと隙を見せたところだ。
あそこでオルフェ嬢は取らなければいけないほど苦しかった。 そのうえ、相手に取らせることで自陣に誘いこむという作戦だったのだろう。
「これで二人とも始めたばかりとは…私たちを簡単に超すでしょうね」
「ああ、末恐ろしいね」
私たちが談笑をしているときだ、信じられない言葉が聞こえた。
「…モナカ、手を、抜いたな?」
ーモナカ視点ー
わたしは今、とても久しぶりに疲れている。
ミリアとチェスをした。
わたしもローランさんに鍛えられたからミリアに勝てるかもと思ったけど、ミリアはやっぱり強かったから、負けた。
全力でやったけど負けて、爽快感と疲労感と、ミリアへの尊敬もあった。
(負けちゃったけど、でもこれで、ミリアともっと仲良くなれる!)
「…モナカ、手を、抜いたな?」
「え?」
私は手なんか抜いてない。
全力でミリアに挑んで負けたんだ。
「最初の、4手目、あれで確信した。 あそこでポーンを、出せば…モナカが圧倒的、不利になる。 だから、出さないと考えていた」
(あそこのポーンは単純に間違えちゃって…)
「モナカの計算能力で…あそこでミスを、するわけがない。 違うか?」
(違うんですぅぅぅ…! ミスなんですぅぅぅ…)
「…『僕』は、君と、全力で…戦いたかったよ」
(全力でしたぁぁぁ…!)
ミリアは少し悲しそうな表情で第二王女のところに戻った。
「案内、ありがとう、ございました」
見学授業の終了時間になり、私は何も言えず、ミリアは教室から出て行った。
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モナカはミスしてなければ引き分けでした。




