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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第三章:生活編
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第二十四話:疑い

 基礎魔術学の授業を終えたミリアは、次の実践魔術の見学授業を受けるために表庭へと出た。


「実践魔術なんていっぱい受講者多そうっすけど、表庭いっぱいいっぱいにならないんすかね?」

「表庭って結構広いので、実践魔術の授業で使っててもそうそう埋まることはないんですよ」


 ふと出たメランの疑問にニーアが答えた。

 どうやらメランも実践魔術の見学をするようだ。


「ハイハイ、それじゃあ実践魔術の授業、始めるよ」


 ライクネット教諭はそう言って手を挙げた。

 基礎魔術学だけでなく実践魔術の授業も担当するようだ。


(疲労を感じさせないな、あの爺さん)


 ミリアはそんな恩師に対し失礼なことを考えながら、ライクネット教諭の話を聞いた。


「この授業では魔法戦がメインになるよ。

 魔法戦っていうのは、特殊な結界内でやる決闘のことだね。 結界内でお互いに魔術で攻撃しあうんだけど、結界内では体力や傷の代わりに自分の魔力が減るようになっている。 先に相手の魔力を全損させたほうの勝ちってルールだ」


 説明した後、ライクネット教諭は魔法戦の二人組のペアを発表した。

 ミリアのペアはメランだ。


(見学会に来た二人のペアは普通は受講生だろ)


 なぜ勝った時に言い訳のしづらい、結界の魔術師の弟子のメランなのか。

 せめてニーアにペアになってほしかった、そう思うしかないミリアだった。


「ミリア、よろしくっす! もしかしたら、圧勝しちゃうかもですけど、恨まないでくださいっすね!」


 メランは意気揚々と言い放った。

 自分の十八番である魔法戦をできるのが、よほどうれしいようだ。

 ライクネット教諭は魔法戦で使う結界を張り終わったことを全体で伝えたのち、宣言した。


「それでは、魔法戦…始め!」


 その宣言とともに、他の生徒たちは一斉に詠唱を始めた。

 一番速く詠唱を終えたのは、ゴードン時代に短縮詠唱を扱えるニナだった。

 ニナは楽しそうな表情で魔術を放っている。

 ミリアはそんなニナを見ながら、目の前で浮遊するメランに視線を戻した。


「飛行魔術か」

「そうっすよ! ただ、オレまだ一つしか魔術使えないから、もっと練習しなきゃいけないんすよねー」


 自分から情報を吐け出すメランに呆れつつ、ミリアは静かに言葉を綴った。

 それはミリアがラークやオベールに使った、魔力変質や、超短縮魔術による魔術ではなく、初歩的な初級の雷魔術の詠唱だ。

 ただし、威力は通常の魔術師が放つものとは桁違いだ。


「穿て穿て(シェパード)


 最後の詠唱を終えたことで放たれた雷の矢は見事にメランの腹を射抜いた。


「あいだダダダダっ!」


 メランは飛行魔術の操作ができなくなり、落ちてから悶絶し始めた。

 常人ならあの一撃だけで魔力を全損させる程の威力なのだが、おそらくメランはかなり魔力量が多いのだろう。


 ミリアは威力を上げた雷矢を三本放ち、ようやくメランを気絶させた。


(魔力量がそれだけ多いなんて、羨ましい限りだよ)


 ミリアはそんなことを思いながら、周りを見渡した。


「いい魔法戦だったね、ミリア君」


 突如として、後ろから聞き覚えのある、清らかでよく通る声が聞こえた。


「でっ、で、殿下…」

「うん、生徒会長のフィリップだよ」


 ミリアは久しぶりに動揺した。

 ここまで動揺したことなど、近年は全くなかった。


「で、殿下…どっ、どうして、ここに?」

「馬術の授業で、自由に動いていいことになったからね。 少し様子を見に来たんだ」


 一見納得しそうな理由だが、それはフィリップと彼が跨っている馬を見れば分かるのだ。

 ミリアが気になったのは、魔法戦という危険な状況なのに、そこに馬と一緒に入り込む精神だ。


「殿下、魔法戦があるので…馬も殿下も、危ないのーでは?」

「危ないから、魔法戦が終わったところで近づいてきたんだよ」


 そういう問題ではない。

 そもそも馬を連れてくるのはおかしいということなのだ。


(この王子はそれを分かっているのか? …いや、待て…)


 ミリアは違和感に気づいた。

 第二王子は、他の王候補者よりも、完璧と言われている。

 成績は優秀、巧みな話術と語学で外交を成功させ、非の打ち所がなく、そして後ろ盾であるアズノール公爵に逆らえない犬として有名だ。

 それと同時に、完璧な第二王子でも、魔術の才能がからっきしであることもまた有名であった。


(さっきの魔法戦をいいと言っていたけど、どういうことだ? 魔術を使えるのか?)


「…どうしたんだい?」

「いえ、少々、考え事を」

「そこ~まで!」


 ミリアが返したところでライクネット教諭のやめがかかった。

 周りを見渡すと、全員の魔法戦が終わったようだった。


「今から反省会をするよ~」


 集まって、というライクネット教諭の言葉を聞いたミリアはフィリップに頭を下げた。


「それでは殿下、失礼します」

「うん、またね」


 ミリアは走ってライクネット教諭に向かいながら、流し目でフィリップを見た。

 フィリップは走り去るミリアを見続けた。


「あの銀髪…まさかね。 家にこもって研究してる『無情の魔術師』が、こんなところに来るわけないか」

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