第二十三話:見学会
選択授業は三学年合同で行われる。
選択授業は新学年になってからすぐに始まる3年生以外は、1,2年生は新学年になってから一か月ほどたってから開始される。
ミリアはその一か月に加え、編入した時期も含めると、現在合計三か月、入学から経っている。
今日の編入生のための見学会では、すでに選択授業を始めている生徒たちの授業風景を見、時に体験することで、最終的に最大二つの選択授業まで絞る。
ミリアはすでに剣術と公民の見学を終えた。
剣術は、貧弱な設定のミリア・マイルでは、素のミリア・アルトの身体能力でやることができないので、授業風景を見ただけだったが、やはり見ているだけではやはり面白くなかった。
途中試合があったが、てっきり多少駆け引きや技術の応酬などが見れると思ってたミリアにとっては、あまりそのようなものがなかった剣術は退屈にもほどがあった。
公民は剣術と比べればましだったが、ミリアの知っていることが多かった。
ミリアは一応七賢者の一人であるし、レティーラ王国の社会情勢などには興味があったためよく調べたおかげでたくさん知っていたからだ。
そうして、結局残りの見学授業は基礎魔術学・実践魔術・チェスにまで減ってしまった。
「メラン、気になるのは、ありましたか?」
「う~ん、馬術の見学に行ったときは楽しかったんですけど、な~んか馬が暴れだしちゃって、そこの先生に怒られちゃったんすよ~」
ミリアの隣で歩いているのは、ミリアと同じく編入生のメラン・バグオールだ。
彼は元ゴードンの生徒で、ゴードンを半壊させたことがある。
彼がローランの弟子なことはミリアは知っていたが、メランは知らない様子だったし気づく様子もないのでほっておくことにした。
メランみたいな人間はかってに場を動かしてくれるし、変なことを言うのは逆効果だと知っていたからだ。
ちなみに、ミリアはメランが在学中にも七賢者の仕事としてゴードンに訪れたことがあるため、メランのひどさは知っている。
どうやらメランはミリアと会ったことは覚えていないようだ。
「次は基礎魔術学と実践魔術っすよね~。 あそこにはニーアがいるから楽しみなんすよ」
どうやらメランはニーアに懐いたようだ。
ニーアは親切だし面倒見もいいので、ミリアはメランが懐いても驚きはしなかった。
「あ! メランにマイル監査じゃないですか! 来てくれたんですね!」
メランが噂をしていると、なぜか本人が来てしまった。
「さぁさぁどうぞご覧ください!」
「や~楽しみっすね!」
ミリアとメランはニーアの案内の下、教室の中に入った。
「あっ! ミリアー! こっちこっち!」
「呼ばれてるっすよ、ミリア」
ミリアはニナに呼ばれた直後にメランに急かされてので、ミリアはニナの隣に座った。
左隣にはニナ、右隣にはメラン、頼りのニーアはメランの隣なので、メランの声にかき消され助けを求めることができない。
ミリアは、席に気づいて初めて気づいたことがある。
黒板に書かれた右下がりで、文字の終わりで少しだけ伸ばした特徴的な文字の書き方。
「は~い、それじゃあ授業を始めるよ~」
ミリアがゴードンの在校中にお世話になった、名誉教授ライクネット教諭だ。
当然、護衛潜入中の三人の七賢者の正体も知っている。
ミリアは一瞬固まった。 それに対して、ニナは笑顔で彼を見ている。
さすがの度胸だ。 これほどの度胸がないと七賢者にはなれないのだろうか。
「チッ…」
ミリアは誰に聞こえないほどの小さな舌打ちをした。
ライクネット教諭と目が合ったからだ。
ライクネット教諭は、初老だが、これと言って目が悪いわけではない。
(バレてない? …いや違うか。 隠してくれている)
どんな理由かはわからないが、隠してくれている以上、こちらが何かをしても、ある程度は見逃してくれるだろう。
ミリアはライクネット教諭を信じる方向に舵をきった。
「今日は編入生の見学会でもあるし、基礎からやろうか。
魔術を扱ううえでの大前提だけど、『魔力量』だね。
これがなくちゃ魔術は使えないからね。
魔力量は人によってムラが大きいんだ。
魔術師になるなら魔力量は50は欲しいね。 100らへんで魔術師だと一人前。
150越えなら七賢者の候補生になれるかもね~。 200越えはめったに見れないね」
ライクネット教諭はそう言いながら大きく一番上に書かれた『魔力量』に赤丸をつけた。
「そのうえで、魔術師には三つの才能があるね。
一つ目、魔力操作技術。魔術式をくみ上げた・詠唱した後に、魔力を編む技術だね。
これがうまい人は多少魔術式が抜けてても魔術が完成するね。
逆にうまくない人は魔術式が完璧でも魔術が不完全になることがある」
そう言い、ライクネット教諭は『魔力量』の下に書かれた三つのうち、『魔力操作技術』に青丸を付けた。
「次、二つ目、魔術式の理解度。
これは良ければいいほど魔術の完成度が上がるね。 魔力量の次に必要なものだね。
魔術式の書き上げ方、どれが完璧に近いかなんかは後でやるけど、参考にするなら、基本魔術式なら『無情の魔術師』、補助魔術式なら『沈黙の魔女』を参考にするといいよ。 あとは各分野の七賢者とか上級魔術師を参考にしてもいいかもね。
魔術式を作り上げる速度が速い人は、短縮詠唱なんてものも使えるね。 まあ少ないけど」
ライクネット教諭は三つのうち、『魔術式の理解度』に赤丸をつけた。
「最後、魔法への想像力。
一応言っておくけど、魔法はあらゆる事象を引き起こすもの、魔術は、魔法を扱えない人間が、魔術式を書き上げたことで魔法を再現したものね。
で、魔術を書き上げる途中、おおざっぱに考えたものと、具体的に考えたのだと、後者のほうができやすい。
これが想像力だね。
自分が書き上げる魔術式によって起こされる魔法が具体的であればあるほど、魔術はより完璧に近づく」
ライクネット教諭は『魔法への想像力』に黄丸をつけた。
「それじゃぁ、ここから授業、魔術式に入るからね」
そう言い、ミリアはライクネット教諭に自分の出した論文の一部を授業で使われたことで照れたのだった。
ニナはそんなミリアをからかいながら授業を受けた。
評価、ブクマなど、投稿の励みになりますので、どうぞよろしくお願いします!




