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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第三章:生活編
26/33

第二十二話:見学用紙に惑わう

17:30に次話投稿予定

 ミリアは机に並べられた数々の紙を見て悩んでいた。

 なぜこんな状態になっているかというと、昨日にさかのぼる。


 * * *


「なぁ、マイル監査にオルフェ会計。 君たちは編入生だから、特別に選択授業の見学会を行うだろう?それは決まったのか?」

「せ、選択、じゅ、授業?」


 エリックが話を振ると、モナカは困ったように震えた。何も知らないのだろう。

 セレスティナには、必修科目では普通の学校と変わらない基礎学習・応用学習と、セレスティナ特有の社交礼法、社交ダンス、茶会、鑑賞がある。

 また、これらの必修科目以外にも最大2個、選択授業を受講することができる。


「ああ、忘れてましたけど、確かに編入生でしたもんね。大体どれを見に行きたいとかって決まりました?」

「ぜ、ぜんぜん」

「決められ、ません」


 ニーアの問いに考えなしだった答えを返せば、話を聞いていたエリックは鼻で笑った。


「おいおい、見学会はもう明日だぜ? そんなんじゃ見て回ってもどれに入るか決めらんないぜ?」

「資料は、どこですか?」


 エリックの嫌味が聞こえないふりをしてミリアは仕事を進めた。


「マージェ会計、嫌味を言うのは程々に程々にしてくれ」

「はぁ? おいラーク、俺はコイツらが心配なだけだぜ?」

「ならばお勧めでも何でも紹介してやればいいではないか。 これだから思いやりの足りない男は」

「おいおいおい、前半は十分いいお助けなのに、最後の一言だけ余計なんだよ。 俺はこの2人が去年のお前みたいになるのが嫌なんだよ」


「何だと?」

「やるか?」


 ラークがエリックを止めようとしたが、変にエリックの火に油を注いでしまい、生徒会室では一発触発の空気が漂っている。


「2人とも、落ち着いてくれないかい?」

「申し訳ありません殿下! お見苦しい姿をお見せしました!」

「すまないね殿下」


 フィリップが注意すると、ラークは興奮したようにすぐに謝罪し、エリックは肩を勧めながら謝罪した。


「あの2人、犬猿の仲だけど殿下にだけはとても懐いてるから、結果的に殿下が苦労していらしてるのよね」


 アーリアがそう説明しているうちに、ラークとエリックは先程の喧嘩がなかったかのように仕事に戻っていた。


「オルフェ嬢、マイルさん、選択授業を決めるときにこれを参考にしてください」

「ありがとう、ございます」

「あ、ありっが、がとうご、ござ、います」


 ニーアがミリア達に選択授業の一覧が記載されてある資料を渡した。

 何と気の利く少年であろうか。

 ミリアは心の内で大変感謝した。


「選択授業って…皆様、何をされて、いるん…ですか?」


 ミリアが聞くと、生徒会メンバーは次々に答えた。


「私は馬術と語学だね」

「俺はチェスと演奏鑑賞だ」

「私は高度実践魔術のみだ」

「わたくしは演奏と語学を」

「僕は基礎魔術学と実践魔術です」

「わたしは公民と科学です」


 フィリップ、エリック、ラーク、メアリー、ニーア、アーリアの順だ。

 全員選択に個性が出ている。

 改めてミリアは資料を見た。

 載っている選択授業は30をゆうに超える。

 この中から2つに絞るなど、ミリアには出来なかった。


 ー天啓が下りた。

 今日は生徒会室にも居座っているが、運営会室にもこれから出向く。

 運営会の人にも聞き、それから大体の見学したい所を選べばいいのでは?


 考えがまとまってからのミリアの行動は速かった。

 すぐに生徒会室での仕事を終わらせ、運営会室に駆け込んだ。


 * * *


 ミリアは運営会室に入った。

 一部の人はたまに喋りながら仕事を進めている。

 最近は生徒会も運営会も同じくらいとても忙しくなっているので、少しでも会話があることでリラックスできるのはいいことだ。


 ミリアは仕事を進め頃合いを見極め、口を開いた。


「みなさんは、選択授業は、もう決めました、か?」

「ん? ああ、ミリアは編入生だから、これから見学会だったのか」


 ミリアが聞くと、運営会でも比較的中のいいオベールが答えた。


「ンなるほど。 大体、選択授業多すぎて何受講すればいいかわからないから、素晴らしく見事な仕事ぶりの運営会の皆様に聞こう! ということだね?」


 ミリアが「ハイ」と頷くと、オベールは誇らしげに腕を組んだ。

 なぜ断片的な情報から一気にあの結論にたどり着くのかわからなないが、そこはせっかくなら活かしてやろうと考えるミリアだ、気にしてはいない。


「皆さんは、何を受講、されるんですか?」

「私は…基礎魔術学とチェスだったね」

「私もチェスと、高度実践魔術だったかな~」

「自分は剣術と演奏を」

「ボクは基礎魔術学と実践魔術です」

「俺は絵画と数学」


 セフィル、オベール、ディバード、ホルン、クラリスの順だ。

 30以上もの種類があるのに、生徒会と運営会のたった11人でかぶっているものがある。

 わざわざ選択授業を受けるなら、自分の興味のあるものにしたいが、あいにく興味がそそられるものはない。


(…人気のあるものにしておくか)


「すみません。 人気のある…授業はどれ、ですか?」

「うーんと、そうね~。 男子には馬術と剣術、女子には刺繍、演奏が人気ね。 基礎魔術学に実践魔術、チェス、社会科関連・芸術関連、語学は男女問わず人気ね」


 ミリアは適当に「ありがとう、ございます」と返しながら、見に行くものを決めた。


(人気者を見に行こう)


 * * *


 そうして今に至る。

 今ミリアは起きてすぐに教室に向かう準備を済ませ、紙と向き合っている。

 そう、絞れきれなかった。


 見学会で回れるのは五回が限度なのだが、ミリアは五つに絞れてなかった。


「さすがにまずいな」


 そうしてミリアが考えもなく神と向き合っていると、後ろで扉が開いた音が聞こえた。

 二人部屋でも、プライバシー確保のために小さい個室が用意されている。

 こんなにも贅沢な部屋の使い方と予算を使いまわしているのはセレスティナだからこそと言える。


「わっ、早いねミリア。 どうかしたの?」


 ニナだ。

 起きたばかりのようで、寝間着ままだ。

 多分物音を立てたからだろうとミリアは反省した。


「ごめん、起こした」

「いや、全然大丈夫だよ。なにそれ…選択授業?」


 ニナはミリアに近づいて紙を覗き見た。

 ミリアは思い出した。 ニナが何を受講するのか聞いていないことを。


「うん、そう。 実はまだ絞り切れてなくて。 ニナは何にしたの?」

「私は、一応演奏と地理に数学見に行こうかな~って思ってるよ。 でもほぼ基礎魔術学と実践魔術で決まりかな」

「どうして?」


 ミリアは軽く驚いた。

 七賢者であるニナが魔術関連を受けようと思っているとは思わなかったからだ。


「そりゃ、私って得意魔術以外成績よくないし、ゴードンでも全然できなかったから。 セレスティナっていう新しい環境だし、せっかくなら受けてみようかな~って」

「…そうか、ありがとう」


 ミリアは思い違いをしていた。

 別になんでもいいのだ。

 別に仲のいい人目当てで受けたっていいのだ。


(それなら…)


 ミリアは口角を上げ、見学用紙の、基礎魔術学・実践魔術・チェス・剣術・公民の五つに丸をした。

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