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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第一章:学園入学編
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第十二話:任命

 レティーラ王国には、三人の王位継承権保持者がいるが、現国王は次期国王を誰にするかは明言していない。

 国内貴族では4分し、その内3つが拮抗、1つが圧倒している。

 第一王子派は、第一王子のその高い国内外の政治手腕から、侯爵の4割と、4つある公爵家のうち、三番目に権力の高いダッグソート公爵家が存在する。

 第二王子派は、国内で最も権力を持つアズノール公爵家の後ろ盾を持ち、侯爵の3割を味方につけている。

 第二王女派は、第二王女の貴族達への対応の厚さから、2番目の権力を持つファイヤーム公爵家と、伯爵の8割から支持されている。

 最後に、継承権を破棄した第一王女は、第4位、最下位の権力となるナーガリプス公爵家を味方につけている。

 第一王女は3人の継承権保持者の独走を防ぐため、一つの勢力を作り、他の候補者は、如何に第一王女を味方に付けるか、と考え動いている。


 このようにかなり拮抗している勢力図だが、貴族達は自分の子を第二王子にけしかけ、味方に付けるよう行動している家が多い。

 それは第二王子派が優勢だからである。

 そして、親から派遣された少女達は第二王子の虜となる。

 第一王子も顔は良いがどこか近寄りがたいオーラを放っているものの、第二王子は更に美しく、更に優しいのだ。


 そんな第二王子─フィリップを一目見ようと生徒会室付近では女子生徒がチラホラ見え、フィリップを待ち構えている。

 そして、そんな少女達を押しのけるように進む一人の女子生徒もいた。


「通行の邪魔、端に寄ってくださる?」


 彼女の名はサーナイト侯爵令嬢、メアリー・ラージェント。

 彼女は冷ややかな目線でそう言った。

 言われた当人達は恥ずかしそうに頭を下げ、そそくさと去っていった。


 メアリーは成績優秀、常に学年10位以内に入り、特に医術面ではフィリップを抜き第1位の成績を残した才女。

 家柄、容姿、成績、どれも一級品であり、それに加えフィリップの幼馴染というステータスも持つ彼女。

 そして、生徒会に選ばれたフィリップからの信頼から、メアリーはフィリップの婚約者候補の中で最有力候補となっていた。


 メアリーが生徒会室のドアノブに手を触れると、開けられていることが分かった。

 メアリーはいつも一番乗りで生徒会室に入るため、一抹の不満を抱えながら扉を開けた。

 彼女が生徒会室の扉を開けると誰もいなかった。

 しかし、隣の資料室から音がしたので覗き見ると、メアリーは心底驚いた。

 見えたのは資料が散乱し、少女が黙々と資料を書き直し、少年が資料を片付けている様子だった。


「お前たちは一体何をしているのです? 誰の許しを得て、生徒会の資料に手を加えているのです?」


 * * *


 ミリアはモナカが見直しを終えた資料を片付け、持って来る作業を繰り返していた。

 モナカが不正をする訳ないと思っていたものの、一応、おそらくいるだろうフィリップの見張りに怪しまれないために、見張り続けてはいた。


 そのため、七賢者としての激務を耐え抜いたミリアですら、幾分かの精神的疲労を感じ始めた。

 そんな途中に、ミリアは─ミリアとモナカは声をかけられた。


「お前たちは一体何をしているのです? 誰の許しを得て、生徒会の資料に手を加えているのです?」


 全く予想してなかった声の乱入に少し驚いたミリアだったが、直ぐに気を取り戻した。

 チラッとモナカを見ても変わらず見直しを続けていた。


「答えなさい」


 メアリーが強めに声をかけてきたので、ミリアが言葉を返そうとしたのと同時に、新たな乱入者が加わった。


「ぼ─「おや、今日もメアリー嬢が一番乗りか。 一体いつになったら一番乗りになれるかね〜…て、なんじゃこりゃ!」

「うわっ! 資料が…ひどい有様…。 …そちらの方は、メアリー嬢のお知り合いですか?」


 入ってきたのはどちらも生徒会の人間。

 メアリーと同じく書記のエリックと庶務のニーア。


「申し、遅れ…申し訳ありま…せん。 僕、はミリア、こっちは…モナカ。 文句、なら、第二王子に…どうぞ」

「おいおい、殿下に命じられたとでも言うつもりか?」

「はい」

「断言かよ…」

「嘘、ではない、ので」


 ミリアは自然に返せたと思った。

 これならば、不審に思われることはないだろう。

 最も、元から怪しさ満点だったのだが…。


「何の騒ぎかな?」


 フィリップは爽やかな顔で資料室に入った。


 * * *


「…殿下、この者達は?」


 フィリップは綺麗に並べられた資料から一つを抜き取ってペラリとめくった。

 訂正されたのは、過去16年前の不正部分。

 その資料をまたペラリとめくりながら、フィリップは答えた。


「彼女には生徒会資料の見直しを、彼にはその彼女の監視を頼んだんだ」


 フィリップは簡単に経緯等の説明をした。


「ありがとう、もう十分だよ」

「分かり、ました」


 ミリアはフィリップの言葉を聞いてから、モナカの頬を指でぷにっとつついた。


「…ミリ、ア…?」

「もう、終わり」


 先ほどの軽い騒動があっても動かし続けていたモナカの手が止まり、ミリアに上目遣いを向けた。

 ミリアの終わりという言葉を聞いてから、モナカは脱力した様に机に腕を置いた。


「ところで、君達はこの会計記録を見てどう思ったかな? 文句は言わないから、君達の感じた率直な意見を聞かせておくれ」


 ミリアは黙り込んだモナカの肩を叩いて、目線をモナカからフィリップに向けた。

 先に言えという合図だ。


「私は…目が飛び出るほどお金が動いてるのに、倒れちゃうほど管理がずさんで…えぇと、びっくりしました」

「同じく」

「貴様ら…」


 モナカは多少言い淀んだが、ミリアは楽だった。

 やはり後出しは強いのだろう。

 あまりに正直すぎるモナカとミリアにラークは青筋が浮き出ていたが、そこは語らなくていいだろう。


「と、いうことだ。 生徒会役員は裕福で自由な生活が許された、貴族の中でも特に地位と能力の高い者達が就く。 それ故に、金額に物を言わせ、管理は甘い。 前会計の不正の件の反省も生かし、私はここで…」


 フィリップは少し言葉をためてからこう言った。


「モナカ・オルフェ嬢を生徒会会計に任命、ミリア・マイル君を運営会に連絡し許可を得た後、監査に任命する」


 モナカは白目をむいて机に倒れた。

 そしてその様子を外から見て笑うネロの声を確かに聞いたミリアにより、メロと共に処されるのだった。

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