第十一話:地獄の作業の始まりだぜぇ!
「ここだ」
ラークに連行されたミリアの歩きは、最上階である5階のとある一室の前で止まった。
壁に貼られた看板に書かれた文字は『生徒会室』。
「今から君が会うお方は、君のような何の功績もなく、こちらを不快にしてくるオーラを放つ君のような人物では人生を何十何百周しても会うどころか見ることすら出来ない、高貴な、お方だ。
それ故に、君の喋り方も事情を察して気にしないでくれるだろう。 しかし、それは無礼を許すということではない。 くれぐれも、失礼の無いように」
ラークはきちんと釘を差してから、扉の前で再び姿勢を正した。
「ミリア・マイル、ただいまお連れしました」
「どうぞ」
ラークはいちいち無駄に丁寧な動作(ミリア談)で扉を開けると、ミリアに入るよう促した。
「しつれ、いします」
ミリアが入室するとラークはすでに扉を閉じ、部屋から出ていた。
ふと前を見ると、2人の人間がいた。
1人は、レモン色に近い髪で、快晴のような空を彷彿とさせる青い瞳の男子生徒─フィリップ第二王子。
もう1人は、黄土色の髪の、ミリアと同じぐらいの身長の小柄な女子生徒─モナカ・オルフェもとい『沈黙の魔女』モナカ・エルノート。
「ミ、リア…?」
モナカはミリアを見て狼狽え始めたが、ミリアはモナカからすぐに視線を外し、フィリップの方を見た。
「突然呼び出してすまなかった、ミリア・アルト君、モナカ・オルフェ嬢。 ところで、2人は友達なのかな?」
「え、ええと…」
「知り合い、な、だけです」
モナカが言い淀んだのでミリアがそう答えると、フィリップは面白そうに笑った。
「僕も自己紹介しておこうか。 生徒会長のフィリップ・アルト・リーゼだ。 第二王子でもある。
今回、君たちにしてほしいことがあってね」
「してほしい、こと…?」
ミリアは眉をひそめた。
第二王子が生徒会長という権力を持つのにできないことなど、自分達にできる気がしなかったからだ。
「そう。 まず、モナカ・オルフェ嬢。 僕が確認した不正の数は、昨日の君の言う通り、少し少なかった。 だから、それを直してほしいんだ。 そしてミリア・アルト君には、それを監視してほしい」
どうやらモナカは既に第二王子と接触していたようだった。
ミリアを監視に置くということは、恐らく、第二王子の使い魔がミリアとモナカが不審なことをしないか見張り、正体を予想する為の行動だ。
なら、それを利用する事をミリアは選んだ。
「わ、分か、分かり、ま、ました」
「分かり、ました」
「それじゃあよろしく頼むよ。 ちなみに、昼休みには終わらせてくれ」
期限だけには文句を言いたいミリアであった。
* * *
─モナカ視点─
わたしは、なんでか会計記録の見直しをすることになってしまった。
昨日、裏庭でご飯を食べようとしたら、ちょうど第二王子と出会った。
そこから色々あって、第二王子が持ってて、ばら撒かれた紙を見て記録の間違えを言うと、こんなことになってしまった。
(わたしってドジなのかな?)
そんなことを思いながら、わたしとミリアは生徒会室から資料室まで移動した。
その後、生徒会室で見直し作業に必要な、資料の範囲、場所を教えてもらった。
「1の棚はこれまでの生徒会役員の名簿、2の棚は会計記録、3の棚は初期記録、4の棚は教師用で、5〜7の棚は歴代生徒から現生徒までの情報が載ってる。だから2の棚の5年前からの分の見直しを頼むよ」
「わ、わ、分かり、ま、まし、た」
私は人と話すのが苦手で、今みたいに喋ろうとすると噛んでしまう。
昔はそんなことなかったけど…
「それじゃあ、私は授業があるからここで失礼するよ。 君たちも頑張ってくれ」
そう言って第二王子が資料室から出たと同時に、私は見直し作業を始めた。
制限時間は昼休みまで。
時間換算するとおよそ2時間半。
急がないと間に合わない。
* * *
わたしはミリア2見られながら見直し作業を始めた。
ミリアが隣にいるなんて何年ぶりだろう。
昔、わたしとミリアは一緒に日々を過ごしていた幼馴染だった。
けど、あの日、わたしのせいでミリアは私から離れ、それからミリアは12歳で七賢者になった。
対してわたしは、ミリアが卒業した翌年にゴードンにようやく入学した。
授業でミリアの超短縮詠唱の論文を見たときは凄いと思った。
同時に、わたしも同じくらいできるようにならなければ、と思った。
それからわたしは、思いついた『無詠唱魔術』を完成させるために頑張った。
わたしは極限まで詠唱を短縮した超短縮詠唱を、更に短縮することで無詠唱を達成した。
無詠唱意外にも論文を出すことで、わたしは15歳で七賢者になった。
新しい七賢者が就任したら全員が集まるようになっていて、ミリアとそこで8年ぶりの再会をした。
…ミリアは変わっていた。
顔の上半分を隠す黒い仮面をつけていた。
どうやら私と別れる直前に両親を亡くし、七賢者に就任してから直に妹さんが亡くなったようだ。
私はどう声をかければいいか分からず、ミリアにも避けられ、あの日のことを謝りもしなかった。
だけど今、今日は、二人きり─
* * *
ミリアが見直しをしているモナカを見ていると、モナカが喋り始めた。
「み、ミリア…」
「…何?」
「あ、あの時、の、こと、ご、ご、ごめ、ごめんなさい…」
「…もう、いいよ」
モナカが絞り出した言葉に、ミリアはそう返した。
「…え?」
「私はもういい、気にしてない。 君があんなことを言い出さないように動くこともできた。 配慮不足だった。 …それだけだ」
「う、ううん。 わ、わたしが、わたしがいけなかったの。 だから、ミリアは、な、何も悪くなんて…」
「このペースじゃ昼休みまでに終わらないよ」
ミリアはそう言い会話を切り上げた。
ミリアはそう言いあの日のことは確かに傷ついたが、モナカにそれは言いたくなかった。
対してモナカは、ミリアへの罪悪感が消えないままだった。
「…あ、あのね、ミリア…」
「何?」
「わたし、今日で、17歳に、なったんだ」
「そうか、おめでとう。 もう…同い年か」
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