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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第十章:黎明の魔術師編
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第百十七話:彗星の魔女

 レーブンの森の上空で、強い風が渦巻いていた。

 魔力を帯びた風は、夜に吹く陸風も巻き込んで、ゴウゴウと音を立てて木々の枝を揺らす。

 陽動を行なっていたモナカはその風に、不意に上を見上げた。

 揺れている木々の中、唯一揺れていない木があった。

 モナカの眼前にそびえ立つ木のてっぺんには、美しいメイドが手を重ね、両足を揃えて無機質にモナカを見下ろしていた。

 風の上位精霊アルファードは、いつもならモナカ達にとっての心強い味方だ。

 だがアルファードは、今はただ作業のように淡々とモナカに風の刃を振り下ろす。


「フィーちゃんさん!」


 防御結界で防御し、見上げるモナカの返事に、アルファードは言葉を返さない。

 言葉の代わりに風の刃が振り下ろされる。ただそれは防御結界に阻まれモナカには届かない。

 だが、巨大な斧を振り下ろされたような衝撃に、防御結界が壊された。

 モナカは間髪入れずに次の防御結界を展開する。

 そして同時に風の刃に破壊される。

 展開、破壊、展開…その繰り返しだ。


(さすが上位精霊の攻撃…魔力密度が人間とは大違い!)


 魔術の威力および強度とは、魔力出力と魔力密度の三つによって決まる。

 精霊は人間よりも圧倒的に魔力が多く、しかも魔術を自然に感覚で使用している。つまり人間より力の扱いに長けている。

 魔力量が多くなれば当然、魔力密度も高くなる。

 詠唱を必要としないアルファードと無詠唱魔術を扱うモナカの攻防は、息を吸う隙もないほどの間隔で行われている。

 息をする間もなく繰り出される幾つもの風の刃。途切れることなく展開し、防ぐ防御結界。

 この拮抗した状況において、長引くほど不利になるのは、精霊より魔力の少ない人間のモナカだ。


 また結界が砕けた。モナカは展開しつつ思案する。

 アルファードを操っているのは、装置や魔導具などではなく人間、『黎明の魔術師』デリックだ。

 デリックを倒して、支配契約を誰かが解除してくれるまで待つ?

 いやダメだ。デリックは支配契約をした精霊以外にも、自前の契約精霊が何体もいる。その上位精霊達に阻まれる時間を考えれば、デリックを倒すのを待てば、間違いなくモナカは魔力切れを起こす。


(フィーちゃんさんを消滅させるか…封印術式で封印するか…)


 モナカ的には、お世話になっているアルファードを消滅させることには抵抗がある。

 だが、精霊は力の扱いに長けている故、魔力に対する抵抗力も強い。モナカが単に封印術式を施しても効かない可能性が高い。


(でも、今のフィーちゃんさんは動きが単調になってる。複雑に施せばしばらく封印できるかも……けど)


 一般的に、魔術師が同時に発動・意地できる魔術の個数は2個。

 モナカは現在防御結界を展開している。あと使えるのは1つだ。

 その上、モナカはアルファードの攻撃に対して全方位対応するため、半球形の防御結界を張っている。

 つまり、移動ができないのだ。


 アルファードに逃げる暇も与えないほどの範囲と、封印術式の抵抗力を下げるためにギリギリのダメージを与える高威力。そして動かないままで行う1つの魔術。


(あるにはある…けど)


 ただ、威力が高すぎれば消滅してしまうかもしれないし、低ければ倒せるまでダメージを与えられないかもしれない。

 モナカには苦渋の決断が迫られていた。


 * * *


 レーブンの森のすぐ近くにある崖で、2人の女性が森を俯瞰していた。

 1人の女性─ローランにイリスと呼ばれた人物は、遠視の魔術と感知術式を同時維持しながら、森内の状況を把握していた。


「『繁茂の魔女』とミリアはセレスティナの生徒達と接触、救助中。

 モナカちゃんはローランのアルファードと交戦中さね。押され気味だけど、対抗手段はあるだろうから特に増援は要らないね」

「『結界の魔術師(ローランちゃん)』と『弾劾の魔術師(ユーベルちゃん)』は?」

「結構な下位精霊と交戦してるけど、大丈夫そうさね。ローランも魔力無いけど、斧で温存してるからすぐに回復しそう」

「ローランちゃん頑張ってたもんねぇ」


 ローランはこの騒動が起きてから、各地を飛び回っていた。アルファードがいなかったせいで、飛行魔術をバンバン行使することになったため、今の魔力量はかなり少ないことだろう。

 イリスが同時維持を続けていると、後ろに魔力反応があった。それは人間のものではない。中位相当の精霊だ。

 精霊が彼女達に飛びかかる前に、イリスは更に短縮詠唱を行い、雷の槍と風の刃を精霊に浴びせた。

 致命傷となる威力の魔術をくらった精霊は、淡い光の粒、魔力を大量に流し、そのまま消滅するかと思われた。だが、精霊は消滅寸前で札に縛られ、地面に倒れた。

 『黄昏の預言者』マリンは、イリスの行った離れ技に息を漏らした。


「封印術式と攻撃魔術を合わせるなんてねぇ…そのやり方、論文に出したの?」

「ちょっと時間がなかったもんで、まだ出してない」

「その様子じゃ、まだまだ公表してない論文が多そうねぇ」


 軽口を叩きながら、マリンは横目にイリスを見た。

 一般的な魔術師は、通常2つまでしか魔術を同時発動できない。

 だが彼女─イリスは、遠視の魔術、感知術式、風の刃、雷の槍+封印術式という5つの魔術を同時に発動した。

 正に、神業。


「可愛い可愛いうちの妹弟弟子達のためさ。できることはやってみますよ」

「そう?それなら遠慮なくお願いするわぁ」


 そうしてマリンは彼女の名を口にする。

 彼女こそ、元七賢者、7つの魔術を同時維持する神の如き大天才。


「『彗星の魔女』イリス・アストレアちゃん」

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