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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第十章:黎明の魔術師編
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第百十四話:人の心とかないんか?

 まだ夜の空は冬ということもあり、雲1つ無い夜空と、そこに浮かぶ星がよく見えた。そして、その夜空を流星のように通り過ぎる大きな影があった。

 飛行魔術で空を飛んだ『結界の魔術師』ローラン・ヴァイスと、彼に背負われた『沈黙の魔女』モナカ・エルノートだ。

 ルイスは地味な革の防寒着を着、モナカも制服、七賢者のローブではなくあくまで私服を見に付け、顔を隠すヴェールをつけただけだった。

 また、2人とも杖は持っていない。今回は七賢者の正式任務ではないのだ。

 森へ向かおうと空を飛びながら、ローランはモナカに状況の説明をしていた。


「先ほども言いましたが、『黎明の魔術師』殿は古代魔導具『鏡割りの鈴』『奈落の波動』を違法ルートで極秘で入手しています。それと同時に、レーブンの森で幾つもの精霊を支配契約しているようです」


 古代魔導具というのは、物によっては、国家間の戦力バランスを崩しかねない危険な代物。そのため、古代魔導具はどれも国と歴代『結界の魔術師』とその補佐で七賢者1名で監視・封印・管理を行い、危険度の高い物は有事のみに使用されるように決まっていた。

 レティーラ王国が保有する古代魔導具は七つ。

 三つを国の宝物殿で保管し、四つは国内の有力者が管理を任されている。『黄昏の預言者』が管理する『星の動脈』もその1つ。

 今回『黎明の魔術師』が入手した古代魔導具2つは、そのどちらでもない。

 1つは戦火にのまれ消えたとされるもので、もう1つは古代の時代の記録に残されていたものだ。勿論、そのような背景があろうと、国に連絡せず極秘で個人入手などあってはならない。

 本来なら『黎明の魔術師』は然るべき機関から然るべき判断を下されるのを待つべきなのだ。


「ただ、我ら七賢者にとって、この件を知られるのは死活問題なのです。なので、今回は手段を問わず、行動し、隠蔽することが多数決で決まりました」


 汚い大人の事情だ。

 汚い世界に足を踏み入れたことのないモナカが、いいのかなぁ─と思っていると、ローランは察しの悪い子供を見る視線を向けた。


「政治に疎い貴方は知らないでしょうが、現在、貴族会議では七賢者を議会の下につけようという動きがあるのです」


 ローランが言うにはまだ小さなものらしいが、七賢者を貴族議会の下につけるなどという利点しかない話は、雫の落ちた水面のごとく広がるだろう、とのことだ。

 七賢者は国王直属の組織で、他の組織の影響や干渉は受けづらい。ただ、貴族議会の管轄下に置かれれば、議会の命令に逆らうことができなくなる。

 思い出すのは新年の儀でのアズノール公爵との面会だ。

 モナカはあの時、国王直属の七賢者であるからアズノール公爵の要求を跳ねることができたのだ。

 議会で強い力を持つアズノール公爵が、七賢者が議会の管轄下になった場合、あれよこれよと命令を飛び出す可能性が非常に高いらしい。


「その状況で七賢者が不祥事を起こしてしまいました。

 そう報道されればどうなりますか?ますます動きが活発化、抑えることは到底不可能でしょう。

 しかもここぞとばかりに、議会は管轄下に置くだけじゃなく、七賢者に許された特権や権限も奪いに来る」


 つまり、ローランがこんな面倒臭いことに手を突っ込んでるのは、やりたくてやっているのではない、ということだ。


「議会からドサドサと面倒な仕事が降りるのは貴方も嫌でしょう?」

「う…はい…」

「ということで、今回の件は、なるべく、七賢者だけで内密に済ますように、『黄昏の預言者』殿から伝えられました」


 今回の件は既に七賢者のまとめ役『黄昏の預言者』が指揮しているらしい。

 七賢者全員が1つの任務に携わるなど、今までに数度としかない。それほど今回の件は大問題ということだろう。

 ただ、モナカはローランの言葉に引っかかりを覚えた。

 やけに「なるべく」の部分だけ強調して、嫌そうに聞こえたのだ。


「あの、なるべくって…」

「…今回の件。多くの上位精霊と契約を結ぶ『黎明の魔術師』殿が、更に大量の精霊と支配契約し、しかも古代魔導具2つを所持しているときたら、我らだけ対処しきれるかは怪しい。

 そして今回の件で七賢者が誰か一人欠けるなど、それこそ本末転倒、愚の骨頂。なので、数名の助っ人を呼んでおきました」

「それって、誰、なんです、か?」

「それはまだ言えません」


 まだ気になりはするが、助っ人の話は本題ではない。モナカは情報のすれ違いを防ぐべく、小さく挙手した。


「あの、内密にって、具体的には…」

「私個人としては、『黎明の魔術師』殿に消えていただくのが一番楽なのですが」


 相変わらず物騒な発言である。

 モナカがその発言に硬直していると、ローランは憂いた顔でため息をついた。


「『黄昏の預言者』殿は穏便に済ませたいと仰っていましてね。なので、古代魔導具を取り上げて、ちょっと痛い目を見てもらうことにしました」


 ということで、さっきの「リンチしに行く」だったらしい。

 リンチとは、いつから穏便を示す言葉になったのだろう。モナカにはとても穏便とは思えない…


「まぁ、流石に全治数ヶ月の重傷にはさせませんよ。

 互いの愛する娘について語り合った仲ですし、長年お世話になっていますからね」


 あぁ、良かった。この物騒な同期にも人の心はあったのだ。

 安心しホッと息を吐き出すモナカに、ローランは非常に爽やかな顔でこう言った。


「『黎明の魔術師』殿と契約してる上位精霊を、1、2体まで消滅させてやるのですよ。なので特に本人には怪我をさせるつもりはありません。

 あぁ、最近はストレスなっさんで来ていなかったから困っていたのですよ(小声)。それに何故かレイメルには懐かれないし(ボソボソ)」


 あぁ、ダメだ。この物騒な同期には人の心は無かったのだ。

 契約精霊とその主は、いわば切れることのない強い糸で結ばれているらしい。

 その糸はそう易易と切れるものではないし、切れた場合の喪失感というのは半端なものではない。

 しかも新年の儀で見た『黎明の魔術師』と契約した風の上位精霊はかなり仲が良さそうだったので、もし失った時の激情は計り知れない。

 契約した風の上位精霊ということで、そこでモナカはあることを思い出した。


「あ、あのっ、フィーちゃんさんと会ったときって、どうすればいいです、か?」

「その時はブチのめしてやってください。

 消滅しても、その時はその時です」


 精霊と契約しているのさというのに、案外あっさりしているものである。

 いや、もしかしたら何か秘めた感情があるのかもしれない。

 いくら人の心が見えないローランだろうと、そう決めつけるのは流石に良くない。

 モナカがそう反省していると、ローランはまたもや爽やかで嬉しそうな顔で言った。


「あの馬鹿メイドが消滅して新しく真面目な精霊と契約できるようになったらと考えたら、逆に嬉しくなってしまいますね」


 そんな事なかった。何も、内に秘めた感情など微かにも感じさえしなかった。


「話を戻すと、この件において最重要事項は、『黎明の魔術師』殿の無効化及び捕縛ではなく、古代魔導具の両方の破壊です」

「えっ!古代魔導具を、破壊?」


 古代魔導具は国宝と言っても差し支えない。値段の付けようのないほどの価値がある唯一無二のもの。

 その古代魔導具を、どうして破壊しなければならないのか。

 もし使用可能な状態であれば、無傷で回収することが正しいはずなのに!


「どうして、そんな貴重なものを、破壊なんてするです、か?」

「古代魔導具2つを破壊する理由は三つ。

 一つは、古代魔導具は意志を持っているということ。誰かに回収され、古代魔導具が誰かに話そうものなら、内密に行った意味などないでしょう」


 モナカは以前見た『星の動脈』を思い出した。

 モナカはミリアの補助をする形で『星の動脈』を拝見したが、その時には装着者を乗っ取って喋っていた。

 『星の動脈』は言葉こそ同じだが、会話が成立する類のものではないとひと目見て分かった。


「二つ目は、『鏡割りの鈴』は『黎明の魔術師』殿に限らず、誰かに奪われた場合にとても危険で面倒であるから。

 三つ目は、『奈落の波動』という古代の中でも古代の古代魔導具は、現在を遥かに凌駕する性質を持っているから。

 我が国が管理している古代魔導具と比べても、この二つの古代魔導具はあまりにも危険すぎる。魔術師でない誰かであったとしても、その危険性はバチクソ高いのです」


 そう語るローランの声は、リンチ発現の際とは違い、低く重かった。


 * * *


 ローランとモナカの2人がレーブンの森に到着し地面に足をつけたところで、空からバサバサとフクロウが降りてきた。このフクロウは『黄昏の預言者』マリン・フォルゼマートの使い魔だ。

 フクロウの足には筒がついており、ローランは筒を取って中身を開き、手紙を確認した。


「『黄昏の預言者』殿から伝言です。『白い服を着た者二名と、それを乗せた大柄の狼がこの森に入ったことも確認』とのこと」


 白い服と言われ思い浮かぶのはセレスティナの制服だ。ラークもメランも行方不明になる前には着ていた。

 モナカは早口でローランにたずねた。


「大型の狼とは…狼に化けた精霊でしょうか?それから狼の背中にいた人達についての証言はどれくらいありましたか?

 意識はあるのかとか、怪我はしているだとか」


 いつになく必死なモナカだが、対照的に、ローランは淡々と答える。


「そこまでは書かれていません。ただ、衣服の特徴と時刻は一致してますし、行方不明のメラン達と見てほぼ間違いないでしょう」


 やはり、この森にラークとメランはいる。

 ローランは複雑な折り方で手紙を折って筒に戻しフクロウの足に括り付けた。その場に筆記用具が無くとも、折り方で返事が分かるようになっているのだ。


「…メラン達がなぜ精霊と行動を共にしているのか。それは不明ですが、後で問いただすなりすれば分かること。方針は決まりました」


ローランはフクロウを見送り、分厚いグローブを付け、斧を肩に担いでモナカに振り返った。


「先ほど、私達の最重要事項は古代魔導具二個の破壊と言いましたが、それは七賢者として。

 これは私達の最重要事項としてですが、まず行方不明になったメラン・バグオールとラーク・ヴェルトンを保護。

 そしてこの件が知られる前に2人を森から逃がす」


 モナカは心の内で安堵した。

 人の心が無いと確認済みなローランならラークに「自力で帰りなさい」ぐらい言いそうだと思っていたからだ。


「次に、古代魔導具二個の破壊と『黎明の魔術師』殿が契約した上位精霊の数体消滅」


 ローランは目を凝らして森を睨む。

 冬の森の木々は葉が落ちているから見やすくなっていたが、それでも奥までは見渡すことができない。

 結局この森前太鳳を見て回って『黎明の魔術師』の居場所を探し出すしかないが、全て見て回るのには時間がかかる。


「貴方の役割は、メラン達と『黎明の魔術師』殿を見つけるまでの陽動です。

 襲いかかる精霊は下位中心でしょうが、『黎明の魔術師』殿ならば何か仕込んでいるかもしれません。

 十分にお気をつけて」


 ローランはそれだけ言うと振り返り、モナカとは真反対の方向を進んでいった。

評価、ブクマなど、投稿の励みになりますので、どうぞよろしくお願いします!

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