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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第九章:編入編
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第百十話:レーブンの森

 ウェンラポートは困惑していた。ようやく森まで辿り着いたのだが、森は深い霧に包まれている。しかも霧は魔術によって生みだされた、魔力をたっぷりと含んだ霧だ。

 この霧の持つ魔力はウェンラポートの感知能力を鈍らせていた。これでは、どこで魔法戦が行われているのかが感知できない。


(……とにかく、急いでヘッケラン・ジェラートを討たねば)


 人型に化けた方が移動しやすいが、万が一誰かに目撃でもされることは主人であるフィリップの求めることではない。ウェンラポートはトカゲの姿のまま森を移動した。

 今回の命令は、彼の主人のほんの気まぐれだ。本来の目的とは、かけ離れたところにある。

 それでも、フィリップはモナカ・オルフェという少女を助けたいのだろう。


(あの方はモナカ・オルフェ嬢を気に入っている……やはり、似ているからだろうか…)


 そんな考えがちらと頭を過ぎるが、ウェンラポートはそれ以上考えることをやめた。契約精霊如きが主人の心に土足で踏み入ってはいけないのだ。


 * * *


 魔法戦の決着がつき、モナカが魔法戦の会場を離れて数分が経った後、ウェンラポートは現場に到着し、困惑していた。

 この騒動の元凶であるヘッケラン、挑戦者であるラーク、メラン、ダーウィンが倒れていたからだ。なぜかミリアは居なくなっていたが、一体どういう状況なのだろうか?


(できることなら医務室まで運んで差し上げたいが、人前に姿を見せるのは…)


 木に張り付いて思案していると、向かいの茂みが揺れ、その間から獣が現れた。狼であることは分かるが、普通の狼より大きい。猪のようだ。

 そして狼の背中には5、6才ほどの少年がまたがっていた。少年は首から下に長いマントでぐるぐる巻きにされていて、頭以外はブーツしか見えない。


(あれは…どちらも精霊?)


 同族でも話しかけるつもりはなかった。主人のために、自分の存在を知られるわけには行かないのだ。

 ウェンラポートは気配を消して2人の様子を見る。

 少年は狼の背中から降りると、3人を見てたどたどしい口調で狼に話しかけた。


「フェンリ、魔術で戦ってたのは、たぶんこの人たちです」


 フェンリと呼ばれた狼が口を開いた。鋭い牙を持つ口からは低い声がでた。


「魔力が多いのはどれだ?」

「うーん、今はみんな魔力切れっぽくてわかりません…全員連れて行くことはできませんか?」

「2人で限界だ。なるべく軽そうなのにしろ」


 少年は地面に倒れた4人を順番に眺めた。


「…一番軽そうな銀髪さんと、あと─」


 少年の目がメランを捕らえると、少年は目をパチリとまたたいた。


「この人、とっても大きい魔力の器持ってます。普通の人より、ずーっとずーっとおっきい!」


 少年が手を大きく振りながら狼に説明すると、狼は不機嫌そうに眉を下げた。


「俺には分からぬ」

「目をよーくこらせば、ふわっと見えます」

「見えぬ。早く乗せろ」


 頷いた少年のマントの裾から、氷の枝が現れた。

 少年は枝分かれした氷の枝で器用にラークとメランを引っ掛け持ち上げると、狼の背中に乗せた。


(あの2人を連れ去る気か!)


 セレスティナはウェンラポートの主人が生徒会長を務める学園だ。トラブルを回避するにはあの2人を助けたほうがいい。

 だが、戦闘の苦手なウェンラポートがあの、上位相当と中位の精霊相手に勝てる自信はなかった。なにより、戦闘中に2人に姿を見られるのも都合が悪い。


(わたくしがすべき事は…)


 ウェンラポートは気配を消したまま狼の尻尾に飛びついた。少年と狼はウェンラポートに気づかぬまま、森の外を目指して走り出した。


 * * *


 魔法戦の会場である森の中を、2人の男女が歩いていた。

 1人は長い髪を三つ編みにし、七賢者のローブを着た男、『結界の魔術師』ローラン・ヴァイス。

 もう1人は、レンガ色の髪を素っ気なく束ね、動きやすい服装の女。年齢はローランの一回り上の、30歳。

 ローランだけでなく、この女も、魔法戦の結界維持のため、ライクネット教諭に呼ばれていた。


「まさか、貴方がセレスティナにいるとは思いませんでしたよ。イリス」


 イリスと呼ばれた女は、七賢者であるローランに気負いもせず、自然に答えた。


「セレスティナの敷地の旧学生寮付近、特にここの森の奥、レーブンの森は魔力濃度が濃いってことで問題になっててね。魔法省からあたしが派遣されたわけさぁね」

「なるほど、そこをライクネット先生に捕まったと」

「ホントは、レーブンの森の魔力濃度調査をしたかったんだけど、そこの持ち主に断れちゃってさぁ。

 ローラン、なんか聞いてないのかい?アンタと同じ七賢者なんだけどねぇ…」


 イリスはローランに横目を向けた。さっさと答えろと、その目が言っている。


「…新年の儀に、何か言っていた気がしますねぇ。私も酔っていたので覚えていませんが」

「そりゃ残念」


 イリスはやれやれと肩をすくめ、結界内に目を向けた。


「しっかし、この魔法戦、どう始末つけるんだい?『沈黙の魔女』と『無情の魔術師』は潜入任務中で、バレちゃいけないんだろう?」

「ヘッケランの魔道具が暴走を起こした、勝負は引き分け…ということにするしかないでしょう。

 しかしあの小娘。潜入中に知人がいたとは不運なことですが、それをコテンパンにして口封じとは、なかなかやるようになったではありませんか」


 悪い顔でクックッと優越に浸るローランは、つい思い出したようにイリスを見た。


「イリス、すみません。あの2人の潜入任務につえては…」

「分かってる。黙ってるよ。人の事情を詮索するのは趣味じゃない」

「助かります」


 ローランが安心すると、イリスは思い出したように言った。


「それにしたって、ミリアと会えなかったのは残念だったねぇ。これなら途中お花摘みに抜けなきゃよかったよ。

 あの子、ゴードンにいた頃はよくあたしに懐いてたから会いたかったんだけどねぇ」

「本当ですか?あまり想像出来ませんね」

「そりゃ最近は人に冷たいからねぇ」


 ルイスは足を止めた。

 彼の視線の先には、セレスティナの制服を着た生徒が2人倒れていた。ダーウィンとヘッケランだ。


「おや、うちの馬鹿弟子がいませんね」


 一瞬、無様な敗北をし、ローランの折檻を受けたくがないために逃げ出した─という考えがよぎったが、そもそもローランが来たことをメランは知らないはずだ。

 思案するローランに、辺りを見回したイリスが言う。


「確か、挑戦者(チャレンジャー)にもう一人いたはずさね。銀髪の子。そっちも見当たらない」


 これは少し妙だ。

 ローランは懐から指輪を取り出した。指輪にはめられた深緑の宝石は、上位精霊アルファードとの契約の証だ。


「契約に従い、ここに来たれ、風の上位精霊アルファード!」


 アルファードなら、失踪した2人もさっさと見つけられる。ローランは召喚の術を行った。

 この召喚の術を行えば、契約精霊は現れるのだが、何故かアルファードはローランの前に姿を現さなかった。

 ローランが困惑していると、心にあった、アルファードとの鎖が切れた気分がした。


「…アルファードとの繋がりが絶たれた?!」


 驚愕するローランを気にせずイリスは感知術式を使う。

 感知術式は精度は普通ぐらいで、魔力切れの2人を見つけられるかは怪しいが、それでもメランほどの魔力の器が、飛行魔術やらなんなりで逃げてれば引っかかるはずだ。


「感知術式に引っかかったのは2人さね。ただすぐに範囲外になったから正確な位置は分からない。

 方角は…」


 イリスが黙ると、ローランは少し苛つき、イリスの肩を揺らした。


「いったい何処なのですか?」

「…方角は、北東。レーブンの森の方向さね」


 ローランは思考を巡らせ、イリスに真っ直ぐな視線を向けた。


「イリス、1つ頼まれてくださいい」

「可愛い弟分の頼み事なら引き受けるよ」

「では、『黄昏の預言者』殿に、伝言を」


 伝える内容をローランが伝えると、イリスはすぐに飛行魔術で飛び去っていった。

 もしかすると、ほかの七賢者を動かすことになるかもしれない。

 ローランは美しい顔の内側で舌打ちをした。


 * * *


 レーブンの森の中に、小さな家があった。

 古びてはいないが、侘び寂びを感じさせるその作りは、見るものが見れば感嘆するだろう。

 その家の中に、1人の男がいた。年齢は30代後半ほどだ。

 男は開いた窓から吹く冷たい風に浸り座りながら、隣に置いた魔導具と会話していた。


「『あぁ、我が主よ。今頃あの三つ編みは自らのアイデンティティを奪われたことに憤慨し、深い絶望を味わっているでしょう!

 それに、我らが森に侵入する不届き者も、貴方様の実験の、実に良い実験台になってくれることでしょう!』」


 会話しているといっても、男から話すことはなく、ただ一方的に魔導具が話しているだけだった。


「俺が反逆をするのも近いってことだな」

「『その通りでございます!貴方様を見下し、道具として見ていなかった奴らを、これほどまでか、と見返してやるのです!

 貴方様の威光をもって!』」

「…そうかい、それは楽しみなこった」


 男は立ち上がり、感知術式を使った。


「来たかよ、お前ら。

 …止めれるもんなら止めてみな。俺はもう…立ち止まることなんて、許されちゃいねぇんだからよ」

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