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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第九章:編入編
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第百六話:狩り

 魔法戦開始直後の雷で魔力を1/5を減らしたメランは、飛行魔術で飛びながらヘッケランを探した。

 メランは感知術式を使えないから、こうして肉眼で探す他ないのだ。

 そうしてメランは、木にもたれかかっているヘッケランを見つけた。


(いた!)


 メランが牢屋送りになった理由である魔法戦を誘った先輩というのは、ヘッケラン・ジェラートだ。

 メランはあの時の魔法戦では、みっともなく泣きながら逃げることしかできなかった。


(今はあの頃とは違うんだ!)


 メランはヘッケランを必ず倒してみせると決心した。

 メランは空中で静止し、詠唱を始めた。

 メランは詠唱によりできたかなりの大きさの火球をヘッケランめがけて放った。


「いっけーーーーー!」


 結界で守られたこの森では火球で炎上することはない。だからメランも遠慮せずに攻撃できるのだ。

 火球の着弾とともに、ゴゥン!と轟音が響き大きな煙が上がった。そして、メランは次の詠唱を始めた。

 だがメランが火球を生成するよりも早く、煙の中から一筋の光が飛んできた。ヘッケランが放ったであろう、雷の矢だ。

 メランは火球の詠唱を止め、飛行魔術で移動し雷の矢を避けた。

 メランはまだ移動しながら攻撃することができない。静止すればできるが、ヘッケランの攻撃速度がそれを許さなかった。

 このままだと煙の中から一方的に狙われると判断したメランは、高度を下げようとし─


「一人目」


 己の後ろから聞こえた声につばを飲んだ。

 メランは咄嗟に振り向くと、飛行魔術で移動したヘッケランが雷の槍が放たれた。

 咄嗟に避けようと体を捻るも右腕を貫き、メランは悲鳴を上げた。


「ぐあぁ!」


 激痛により一瞬意識を失った。それと同時に飛行魔術が解除され、メランは落下していく。

 魔法戦の結界は物理攻撃は無効化するが、結界が攻撃と判定しない、『事故』は無効化されない。

 高所から落下しているメランの状況がまさにそれだ。このままでは、メランは地面に叩きつけられ、死んでしまう。


「えぇい!世話のやける!」


 そんなメランの体を、巨大な水球が受け止めた。

 グレンの体は、パシャン!と音をたてて水球に沈み衝撃を吸収する。

 それを行ったのはラークだった。ラークは舌打ちをしながら水球を解除した。

 氷の魔術が得意だった彼は、どうやら水の魔術も扱えるようになっているらしい。

 全身ずぶ濡れになったメランは、咳込みながらラークを見た。


「副会長、ありがとうございますっす!」

「感謝よりもまず周りをよく見ろ!」


 協力しないと言っていた割に面倒見のいいラークは、短縮詠唱で自分とラークを囲む結界を張った。

 そしてその結界は、頭上と背後から迫る雷の矢を防ぐ。


「メラン・バグオール!奴は遠隔術式を使用する!

 警戒を怠るなよっ!」


 ラークに注意されたメランはさっきの一連に納得がいった。

 ヘッケランは飛行魔術でメランの背後に移動しつつ、遠隔術式で煙の中から雷の矢を放っていたのだ。

 ヘッケランはまだ煙の中にいる。そうメランに錯覚させるために。


「チィッ。結界が持たん。メラン!貴様は結界を張れないのか?!」

「俺が使えるのは火球と飛行魔術だけっす!」

「貴様それでも『結界の魔術師』の弟子か!?

 仕方がない、散開するぞっ!」

「はいっす!」


 ラークの掛け声とともに二人は散開し、木々の間を駆け抜けまた、隠れた。


 * * *


 ヘッケランは飛行魔術を解除し地面を歩きながら思考を巡らせていた。


(一人目、メラン・バグオール。飛行魔術と火球の同時発動は可能だが移動しながらの発動は不可能。

 短縮詠唱、防御結界は使えないから走るか飛行魔術で避けるしかない。

 『結界の魔術師』の弟子にしちゃあ魔術の素人にしか見えないがなぁ…)


 魔法戦ではダメージに比例して魔力が減るようになっている。

 メランに命中した雷の槍は相当な威力があり、魔力量が少なければ終わっても不思議ではない威力だった。

 また直前に受けたミリアの雷のことを考えても、いまだピンピンしているメランはかなり魔力が多いのだろう、とヘッケランは判断した。


(二人目、ラーク・ヴェルトン。こっちは高度実践魔術で見かけたことがあったなぁ。

 属性は氷と水。また短縮詠唱に防御結界、2つの魔術の同時発動も可能。飛行魔術が使えない分機動力に劣るが、総合力ではこっちが上だな。

 一人目より劣るが魔力量もかなり多い)


 魔力量に関して言えば、ヘッケランはこの2人より少ない。ミリアの雷でダーウィンの次に痛手を負ったのはヘッケランなのだ。

 持久戦に持ち込まれれば先にヘッケランの魔力が尽きる。だから短期決戦で勝ちに行く必要がある。


(奥の手を出してもいいが…数個はミリアに残しておきたいからなぁ…)


 ヘッケランは自分の両手を見た。

 奥の手が無いとミリア戦で不安だ。

 だから奥の手は使ってもいいが、数個は残さなくてはならない。


(だが、それをするにあたって、伏兵を考えるのは面倒だ)


 ヘッケランは感知術式を使用したがダーウィン・クリームは発見できなかった。

 メインディッシュはミリアと決めているため、それに向けて魔力はいくらか残しておく必要がある。

 だからこそ、潜伏中のダーウィンを残しておいては魔力を想定外に削られる可能性がある。

 感知術式も飛行魔術も、雷の矢と比べれば消費魔力は多いのだ。節約しなければならない。


(まずは潜伏中の奴を炙り出すとしよう)


 見たところ、あの3人には協力体制は無いように見えた。つけ入るならそこだ。


 * * *


 ラークは木々の陰に隠れながら様子を見ていると、ヘッケランが飛行魔術を解除し地面に降りた。

 余裕の笑みを浮かべている。それを見ると腹が立ってきてしまう。

 ラークとメランの威力を合わせれば、ヘッケランを倒すことはかなり楽になる。が、一つ問題があった。

 ラークとメランの得意とする属性は氷と火、真逆なのだ。つまり同時に発動させれば相殺される。

 だから個々で攻撃する他なくなっていた。

 考えなしにメランは火球を放っているが、ヘッケランは走るか一瞬の飛行魔術で回避している。

 対してラークが氷の矢を放っても、ヘッケランは防御結界で防いでいる。


(精度が高く威力の低い魔術は防がれ、威力の高い魔術は避けられる。

 ならばその足を潰す!)


 ラークが今までとは違う短縮詠唱をした。ヘッケランが警戒するようにラークを見たがもう遅い。

 ラークは飛行魔術で避けるヘッケランの進行方向に氷の壁を生成した。ヘッケランは方向転換を図るが、その前に氷の壁が広がり、移動を妨げる。


「今だっ!メラン・バグ─」


 ラークが言い終える前にメランの火球がヘッケランに放たれる。


「甘いぜぇ?」


 ヘッケランはすんでのところで急上昇し、火球を避けた。

 氷の壁も空に二をすることは叶わない。

 メランの火球は命中敵わないかと思われた…が。


「甘いのはそっちっす!」


 メランの火球は進行方向を真上に変え、ヘッケランを追った。ヘッケランは初めて焦りに顔をゆがめた。

 この、相手を自由自在に追いかける術式は…


「追尾術式!?…使えたのか?!」

「覚えたてっすよ!」


 火球は命中し、ヘッケランは地面に落とされる。


((ここで仕留めるっ!))


 その隙を見逃さず、ラークとメランは詠唱を始めた。

 それと同時に潜伏中だったダーウィンが飛び出した。


「お覚悟」


 ダーウィンは剣を抜き、水の刀身を現した。

 そして魔法剣の切っ先をヘッケランに向け、振り下ろそうとし─


 ダーウィンは硬直した。


 硬直したのはダーウィンのみならず、ラークとメランも同様だ。

 三人は背中に激痛を感じ動けないでいる。


「なん、だっ?」


 呟くと同時に、ラークの体は火の矢に貫かれた。

 魔法戦では魔術で肉体は傷つかないが、今回痛覚は軽減されることはない。

 皮膚と内臓を焼き貫く激痛に、ラークはうめき声を上げながら崩れ落ちる。

 視線を走らせれば、メランとダーウィンも同様だった。


(遠隔術式?いや違う。ヘッケラン・ジェラートは詠唱をしていなかった。

 どういうことだ。これではまるで…)


「ん〜んん〜♪」


 ヘッケランは上機嫌そうに鼻歌を歌いながら、指を曲げた。

 それと同時に火の矢が3本、3人の体を貫く。

 焼かれる激痛と声のない悲鳴が森に響く。

 魔術師というのは詠唱がなければ魔術を扱うことはできない。だが、それを可能とする技術が、人物が、一つだけ存在する。

 ラークは視界を火の矢に焼かれ、激痛から意識を失う直前、それを思いついた。


(まさか…無詠唱、魔術…?)

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