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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第九章:編入編
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第百四話:開始の雷

 決闘の魔法戦が行われることになったため、フィリップはライクネット教諭のもとをたずねた。


「君たち、簡単に魔法戦魔法戦って言ってるけど、あの結界って君たちが思ってるより準備も管理も大変なんだよ?しかもこの魔力量と多さのメンバーとなればもっと大変なんだから。…え?観戦もできるようにしてほしい?

 はあ…分かったよ。助っ人を呼んで大急ぎで完成させるからね。三日後で頼むよ」


 そのライクネット教諭の言葉により、魔法戦は三日後の放課後に行われることになった。

 モナカはその3日間、生きた心地がしなかった。

 生徒会での騒動は野次馬たちによってすぐさま噂として広がってしまったからである。

 中でもモナカとヘッケランの関係性についての噂は憶測が飛び交っていた。


『モナカはヘッケランの元娼婦であり、ヘッケランはモナカに執心している』


 というのが大体の内容だ。

 全くもって事実とは違かかったが、モナカにはそれを否定できるほどの元気はなかった。

 それに否定したあとの、どういう関係だったのかまで踏み込まれた時に、モナカには答えられる自信がなかった。

 ゴードン時代の先輩後輩です、と馬鹿正直に答えたら、モナカがゴードン出身であることがバレてしまう。つまり設定がおかしくなる。

 おかげで何も弁明のできないモニカは「ヘッケランの元情婦」の烙印を押されることとなり、行く先々で心ない噂と視線に晒され続けた。

 自分の噂だけでも頭が痛いのに、更に頭が痛いのは、モナカがメランやダーウィンに体を売って誘惑した、という噂である。自分のせいでメランやダーウィンまで、心ない噂に晒されていると知ったモナカは、この3日でずいぶんやつれた。


 * * *


 当日。

 モナカ達観客は、ダンスホールに設けられた観客席に着席して魔法戦の開始を待っている。


 ヘッケランが提案した決闘の噂は僅か三日で学園中に知れ渡り、多くの生徒達の憶測を呼んだ。

 その上で学園側が懸念したのが、この騒動を冷やかしにきた生徒が誤って結界の中に入り込み、巻き添えをくらうのではないか、という点である。

 そこで生徒会側は、この魔法戦を観戦できる場を設けることで、教師陣を納得させた。

 映像は、結界に遠視術式を組み込むことで水晶に映し出し、それを白い布に投映することで観戦を可能にされた。

 その観客席に詰めかけた生徒は予想の半分以上多く、モナカはそれを見て失神しかけた。

 席に座れなかったから立ち見をし始める生徒もいるほどだ。

 それほどまでに生徒が多くなったのは、やはりこの決闘に挑む面々が目立つ人物ばかりだからだろう。


 素行は悪いが『弾劾の魔術師』の甥で、魔法クラブのほとんどの面々に勝利したヘッケラン・ジェラート。

 生徒会副会長でセレスティナ一の魔術師であるラーク・ヴェルトン。

 学園祭で見事な演技をし、一躍有名人となったメラン・バグオール。

 成績優秀なカロライナからの編入生ダーウィン・クリーム。

 そしてヘッケラン指名のミリア・マイル。


 ラークに関してはフィリップからの命令ということでかなりざわめいていた。つまりラークはフィリップの代理ということになるからだ。


 フィリップがこうして舞台を用意したことには、生徒の乱入に対する安全対策以外の理由がある。

 これまで噂が広まったならもはや隠すことは不可能だ。ならばいっそ華々しく行えばモナカを悲劇のヒロインとすることができる。


 ちなみにその悲劇のヒロインは心身ともに限界を迎えようとしていた。

 その表情は、男達の決闘を見守るヒロインではなく、死刑宣告を受けた囚人のようなものだった。


 * * *


 舞台を移したスクリーンは、最初は舞台となる広大な森を俯瞰したものだったが、徐々にズームアップされていった。

 まず、森の奥にいる人物が映る。それは今回の騒動を引き起こした張本人、左手の指五本に指輪を付けている、ヘッケラン・ジェラートだ。

 映像が切り替わり、場所が分からない暗い場所の、岩場に座っているミリアが映し出された。

 ミリアは右手に黄色い鎖を巻き付け、右側には紫と白の合わさった鐘が置いてあった。また紫色の宝石のついたブレスレットを身につけていた。

 そしてミリアは見られていることに気づいたのか、カメラ目線で微笑み手を振った。

 また映像が切り替わり、今度は森の入り口付近に立つ三人の挑戦者、メラン・バグオールにラーク・ヴェルトン、少し離れた位置にダーウィン・クリームが映った。

 魔法戦で使用される結界が作動すると物理攻撃は無効化されるため事前に武器等は無意味なのだが、なぜかダーウィンは腰に剣を携えていた。他の3人は手ぶらだった。

 魔法戦の結界はその気になれば、痛覚を軽減したり魔力量が一定数を切ると強制送還させる効果も追加できる。ただし、それに膨大な魔力を要するため、少なくとも魔力量の多い者が3名以上いないとできない。

 今回の魔法戦ではそれらの効果は無いようだ。つまり、ダメージを負うたびに痛みに耐えなければならないのだ。

 しかも魔力がギリギリまで減り、意識を失うまでこの魔法戦は続く。

 モナカはラークとメランが心配で仕方がなかった。


 * * *


 魔法戦は学園のすぐ近くにある森で行われる。

 ラーク、メラン、ダーウィンの3人は開始の鐘が鳴るまで待機していた。

 メランは準備体操をしながらとある当然の疑問を発した。


「魔法戦って物理攻撃使えないっすよね?」

「当然だ。『結界の魔術師』の弟子だと言うのにそんな事も知らなかったのか?」


 辛辣なラークに慌ててメランは言い返す。


「し、知ってるっすよ!というか、そっちの人!」


 そう言うメランが指差したのは、革の手袋を着用しているダーウィンだった。


「どうかしましたか?」


 メランはダーウィンのことをよく知らない。ただ、カロライナからの留学生で、モニカとは選択授業が一緒なのだということだけは聞いていた。

 ダーウィンはメランより年下らしいが、背丈はメランとさほど変わらず、だが筋肉の厚みが違かった。あれは日頃から鍛えている者の体だ。

 メランが密かに感心していると、ラークがダーウィンを一瞥して、ボソリと呟いた。


「……なるほど、魔法剣か」

「はい、その通りです」


 ダーウィンは頷き、剣を鞘から抜いた。ダーウィンの剣は途中で途切れていた。しかしダーウィンが詠唱すると水が足りない部分を補うように伸び、剣の形になった。

 魔法剣について、メランは師匠のローランから少しだけ話されたことがあった。

 魔法剣はレティーラ王国より東の国、隣国や帝国で主に使われているそうだ。

 剣先から魔力で刃を作ったもの、柄の部分も魔力で作ったものや、普通の剣に付帯魔術をかけたもの。その全てを魔法剣と言うようだ。

 ダーウィンは剣を元の形に戻し、鞘に戻してから言った。


「先に宣言しておきます。

 自分はヘッケラン・ジェラート先輩を倒し、オルフェ嬢をチェスクラブに来てくださるようにするつもりです。なので、ヘッケラン・ジェラート先輩を倒す役割は、お二人に譲れません」


 ラークは細い眉をピクリと動かし、ダーウィンを睨みつけた。


「聞き捨てならんな。

 オルフェ会計は生徒会の人間。よそのクラブに譲るのは殿下の意向に反する」


「この決闘はオルフェ嬢の身柄を賭けたもののはずです。ならば何も問題は無いかと」

「勝手にルールをねじ曲げるな!」


 ラークが不愉快そうに鼻にシワを寄せる。ラークの周囲が若干寒くなった。


「ヘッケラン・ジェラートを討つのは、殿下から命じられた私の役目だ。貴様らは指をくわえて待っているといい」

「ちょーっと待った!あの先輩をぶっ飛ばすのは、オレに譲ってほしいっす!あの人は、絶対にオレが倒さなきゃいけないんだ!」


 メランがいつもより語気を強めて言うと、ダーウィンが口を挟んだ。


「いいえ、討つのは自分です」

「私だ!」

「オレっす!」


 そうして開始直前にわだかまりを抱えた3人は視線を交わし、ヘッケランがいるであろう場所へ向いた。


 そして、開始の鐘が鳴った。


─カーン

─カー…


 そして、2回目の鐘の音が聞こえる前に、上空を覆う長く巨大な黄色の鎖が出現し─


 ─無数の雷鳴が鳴り響いた。


 * * *


 ミリアは立ち上がり、暗い森の中を歩き出した。


「これは私からの選別だよ。

 …さて、4人の魔力はどれくらい残ったかな?」


 ミリアが少し歩くと、暗い場所から空の光が見える所まで進んだ。

 そして、ミリアがミリアが空を見上げると、未だ鳴り響く無数の雷鳴が、そこにあった。

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