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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第九章:編入編
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第百二話:必死の懇願

 ダーウィンとのチェスを終えたモナカは、図書室に寄り本を借りた後、両部屋に戻ろうと廊下を歩いていた。

 モナカはふとセレスティナでの生活を思い出した。

 アーリアといった友達とは教室で話したり食堂で食べたりする。

 生徒会室では、ラークの怒鳴り声がよく響き、エリックはそんなラークに皮肉を言って喧嘩になり、フィリップに仲裁される。

 そんな、山小屋で住んでいた頃には、自分がこうなるとは思えないほどの楽しい暮らしだ。

 モナカは自分の恵まれた現実に、少しだけ目を閉じて空想に浸った。

 だから気づかなかった。

 角を曲がったときに、前方から歩く人物が足を止めたことにも、モナカを凝視し唇を三日月の形に変えたことにも、気づかなかった。


「なんで、お前がここにいるんだぁ?エルノート?」


 現在の空想のモナカは『沈黙の魔女』モナカ・エルノートではなく、生徒会役員会計のモナカ・オルフェだ。

 だからモナカは、自分を呼びかけられた誰かに気づいていなかった。

 そのままモナカが立ち去ろうとすると、ガシッと肩をつかまれた。


「無視なんて悲しぃねぇ。久しぶりすぎて俺のことは忘れちまったか?俺は忘れてないっていうのになぁ」


 肩をつかまれたことで、モナカは一気に空想から現実へ引き戻されていた。

 モナカは後ろを振り向かずとも、その声と口調を聞けば、それが誰かは疑うこともない。

 モナカは肩をその生徒の方へ振り向かされた。


「………ジェ、ジェラート、先輩…」


 ヘッケラン・ジェラートは、モナカがゴードン在籍時にしつこく追い回し、モナカに魔法戦をしつこく挑んできた男だ。

 モナカは周りを見渡したが誰もいなかった。

 エルノート、というのが聞こえる人物がいなかったというのは幸いだったが、助けてもらう人物がいないという点においては不幸だった。

 モナカは、自分を追い回したヘッケランに対して恐怖感情を抱いていた。

 しかも大柄な男性ということで、モナカの2つ目の恐怖感情も見事に得ていた。

 モナカは恐怖に耐えながら、勇気を出してヘッケランにたずねた。


「…ジェ、ジェラート先輩。今、のわたしはモナカ・オルフェです。大事、な任務で、正体を、隠してて…なので、秘密に、してください…」


 ヘッケランは考え込むように目を細めた。

 その間もモナカにかかる腕の力はゆるまず、抜け出すことはできない。


「…なるほど。お前がここに潜入していることを叔父貴が知っているなら、事前に忠告しているはず。なのに言われてないってこたぁ、ごく一部しか知らない政治的案件ってとこかぁ。

 お前の近くにゃ第二王子がいるから、さしずめその護衛と監視ってとこか。第二王女には別の奴が付いてるって訳か?」

「ち、違います」


 ヘッケランの粗暴さに見合わない、一から十を知る頭のキレと回転の速さはゴードン時代から変わらない。

 モナカは、自分の正体がバレてもミリアとニナのことはバレないようにしなければ、と考え、ヘッケランの問いに否定した。


「お願い、です。わたしが潜入してるってことを、バラさないでください…」

「いいぜ、そのお願い聞いてやるよ」

「あ、ありがとうございます…」

「─ただし」


 正体を隠してもらえるという言葉に安心したモナカは、「ただし」の言葉で体をビクッと震わせた。


「俺にも協力してもらうぜ。これはそういう契約だからなぁ」

「協力って、どんな、ですか?」

「俺は今魔法クラブに所属している。今週クラブの奴らに全員勝っちまったからな。だから放課後オレと魔法戦をやるのさ。お前はそこに入れ、なぁ?」


 モナカの顔はさあっと青ざめた。


「む、無理、ですっ。魔術は使えないことになってるし、それに、生徒会が…」

「だったら辞めろ」

「…ゃ、やっ…いやです…」

「『嫌』ってこたぁ、生徒会は強制じゃないってことか。なるほど、だったら辞めても問題ないなぁ?」


 こういう時は彼の頭のキレが嫌になる。

 確かに、生徒会に入っていなくても任務に支障は出るが、任務の継続は出来る。

 それでも、モナカは生徒会のメンバーと仲良くなってきて、空気にもよく馴染んできて、一人の生徒会役員として仕事を全うしたいと思ってきた時期なのだ。

 辞めたい訳がない。


「…お願いします…それだけは、ゆ、許してください…おねがい、します…」


 モナカが涙目でそう頼むと、ヘッケランはモナカを抱え上げた。

 ヒィッ、と息を呑み手足をバタつかせるモナカを無視してヘッケランは歩き出す。


「お、おろして、おろしてっ、くださいっ」

「だったら直接直談判しに行こうじゃねぇか。

 おっと、そうだった忘れるところだった。

 確か、ミリアの奴もいたよなぁ?どうすりゃいいかなぁ」


 どうやらヘッケランは、もう一人の護衛であるミリアも魔法戦に参加させる気らしい。

 そこで、どう言い包めるかを考えているようだ。

 するとヘッケランは唇を三日月に歪めた。


「いぃいこと思いついた」


 そう言いヘッケランはモナカを担いだまま中等科の教室へと向かった。

 一連の行動を受けてから、モナカはようやくこの考えに至った。

 ヘッケランの話の通じないところは、昔からほんの少しも変わっていなかった。

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