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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第九章:編入編
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第百一話:チェス

 あのダーウィンがセレスティナに編入したということで、キョロキョロと見回しながら廊下を移動し、洗濯教室に辿り着いたモナカは、空いている席に着席した。

 そんなモナカのそばに、顔見知りの女子生徒と男子生徒が腰を下ろす。モナカと同じくチェスの選択授業を受けているセフィルとエリックだ。


「どうしました、モナカさん?顔が青く見えますが」

「え、わたしの顔、青くなってたんですか?」

「そうだな。ラークやニーアが見たら、ちゃんと栄養は取ってるのかって言ってくるだろうから、ちゃんと食べておけ」

「はい。ありがとうございます」


 そう言えばここ最近、確かに夜食を食べて居ないこともあったので、エリックの言う通り栄養も足りていなかったのだろう。

 ラークやニーアに心配をかけさせたくはないし、夜食はちゃんと食べるようにしようとモナカが考えたところでセフィルが心配そうにたずねた。


「モナカさんは直近で予算会議があるのでクラブ長の対応で疲れると思いますが、そういうときこそちゃんと食べてしっかり寝ないと、疲れはとれませんよ」

「予算会議の件は同席する奴らが基本進めてくれるだろうから安心しろ」


 セフィルとエリックの配慮はありがたいが、モナカは全く別のことで悩んでいた。フィリップについてのことである。

 フィリップはそもそもなぜアズノール公爵の傀儡に甘んじているのか。そしてそれに甘んじている彼の目的。

 それに、国王陛下が病に伏せ、王の座争いが激化することにより、フィリップとセフィルを狙う暗殺者がさらにでないかの不安。


 また、フィリップの『沈黙の魔女』探しにどう対処するかも問題だ。

 フィリップから指示を受けた生徒会役員たちは、少しずつ、しかし着々と小柄な女子生徒の左手をチェックしている。

 時間が経てばモナカたで絞られるかもしれない。

 そこにヘッケランのこともある。

 彼に見つかれば最後、全てが水の泡だ。

 最悪はミリアとニナに任せればいいが、それでもこの学園で、フィリップが卒業する最後まで見届けたい。


(うぅ…胃が痛いぃ…)


 モナカはそんなことから目を背けようとチェス盤に集中しようとした。

 半ば現実逃避の気持ちでいると、顧問のロベルトが扉を開けて入室した。


「編入生を紹介する。

 ダーウィン・クリーム君だ」

「ご紹介にあずかりました、高等科一年生ロベルト・クリームです。

 どうぞご指導ご鞭撻(べんたつ)のほどよろしくお願いします」


 セフィルとエリックから、同時に同情の視線が向けられた。

 モナカは失神した。


 * * *


 三校大会のチェス大会でモナカに敗北し、婚約も断られたダーウィンは、その後またたく間にカロライナに退学届を提出し、セレスティナへの編入を決意した。

 ダーウィンは世界一のチェスプレイヤーになるためだけに、祖国からレティーラ王国へ入学したのだ。

 カロライナもチェスの強者はいたが、すでに敵ではなく、それならばもっと強いチェスプレイヤーのいる学校へ編入することは当然の流れだろう。

 セレスティナに編入すればモナカとチェスをすることができる。

 しかも在学中に婚約が出来れば、卒業後もチェスができる。

 ただ生憎ダーウィンには恋愛についての知識がなかった。そしてダーウィンは一度モナカへの婚約に失敗している。

 なのでアピールはするが、婚約を申し込むことは控えで行く、ということがダーウィンの当面の作戦になった。


 * * *


「おい、オルフェ嬢、起きろ」


 エリックに揺さぶられ起きたモナカが意識を回復させると、既に自由対局時間が始まっていた。これから対局相手を探し、授業終了まで続けるのだ。

 チェスをしなければ、チェスをして心を無にしなければ─そう考えていたモナカの前に、大股で歩き出してきた人物がいた。ダーウィンだ。


「モナカ嬢、よろしくお願いいたします」

「よ、よろしくお願いします………あの」


 ダーウィンの袖がまくし上げられ見える腕を見たモナカは、我慢できずにダーウィンにたずねた。


「はい、なんでしょう」

「袖まくりして、寒くないんですか?」

「問題ありません。

 毎日鍛えてますので」

(毎日筋肉を鍛えるのと体温にはどんな関係があるんだろう…)


 そのことについてはあまり深追いしないように決めた後、試合が始まった。

 そして終了のチャイムが鳴ると、今回もまたモナカの勝利に終わった。

評価、ブクマなど、投稿の励みになりますので、どうぞよろしくお願いします!

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