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無情の魔術師  作者: 情緒箱
第九章:編入編
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第百話:お勉強

最初はメラン視点。

 メランは精肉店をかまえる両親の長男として生まれた素朴な少年だった。幼いうちから両親を手伝い、暇な時は幼い妹たちの面倒をよく見るいい兄だった。

 メランは幼い頃から、英雄王バルスの建国物語が好きで、村の友達や妹たちと一緒に、よくごっこ遊びで遊んでいたものだ。

 村で遊び仕事も手伝っていたある日。とある事情でメランは、そうした日常とは少しばかり疎遠になってしまった。


 そうして、村から離れてゴードンに入学していた時期があった。

 ゴードンは身分関係なく入学することはできるが、それでも生徒の八割は貴族の子女。当然、平民出身のメランは蔑みの視線で見られた。

 メランはそんな生徒達を見返すべく勉強するも、3ヶ月で限界になった。メランは魔術を学ぶだけでなく、実践をしたくなったのだ。

 本来、ゴードンで魔術を使うには、魔術学についての知識を十分身につけ、半月が経過する必要がある。

 しかしある日の夜、メランは『結界の魔術師』に次ぐ不良と知られる先輩に、夜の秘密の魔術の特訓をしないか、と連れ出された。

 メランはダメなことだと考えつつも、背徳感から参加してしまった。

 そうして行った特訓というのは、魔法戦だった。

 初めての魔法戦と容赦ない先輩にパニックを起こしたメランは、火球で校舎の一部を破壊させてしまった。


 * * *


 校舎を破壊したことで牢屋送りになったメランは、その後『結界の魔術師』ローランに弟子として引き渡されることになった。

 弟子となって間もない頃、メランは魔術の修行にあまり乗り気ではなかった。

 もし前のように魔力暴走を起こし魔術が暴走すれば。

 そう考えるだけで体はすくみ、魔力は練れず、頭も回らなくなる。


「どうしたのですか、そんな辛気臭い顔をして。

 さっさと詠唱しなさい」 

「…俺、魔術の訓練、嫌っす」


 魔術の訓練中、ローランにそう言われた。

 メランは拗ねくれたようにしつつ、正直に伝えた。

 するとローランは非常にあっさりとした様子でこう答えた。


「ならば、やめればいいではありませんか」

「え?」

「私はやる気の無い人物に物を教えるのは非効率と考えているのですよ。それに…」


 ローランは細い指をくるりと回し、そしてその指をメランの額につけた。


「そもそも、お前は、身の丈に合わない大きな力を、何の努力もなしに手に入れただけに過ぎません」


 何の努力もなしに、という言い方に頭にきたメランは、ローランの指に額を付けられたまま思わず強い語気で言い返した。


「お、俺!ゴードンできちんと勉強してきたっす!それに、秘密の特訓だって…」


 メランの主張に、ローランは腹を抱えて上体をのけぞらせて「ハッハッハ」とさぞ愉快そうに笑った。


「何がおかしいいんすか…」

「いやこれは失礼。

 たった数ヶ月のお勉強と素人訓練を努力と言い張る若造の言う事が面白すぎて」


 ローランの言うことに反応を返せないメランを見下す視線を向けローランが続けた。


「半ば惰性。お前がただこなした訓練を努力の結晶と言い張るとは。

 お前はお手軽に満足感を得られていいものですね」


 この男、口調こそ丁寧だが、その奥にある性格の悪さは隠せていない。

 不貞腐れて俯いたメランにローランは上品に微笑んだ。


「血のにじむ思いをせずに進んできた輩は必ず何処かで挫折します。挫折を知らずに増長した者はいつか必ず痛い目を見るのです。

 良かったではありませんか、先に挫折を経験して」


 増長なんかしていない、とメランはいい切れなかった。元々メランは村で優秀で甘やかされていたし、ゴードンでも3ヶ月が経過した頃には勉強も飽きて、しなくなっていた。


「積み重ねの無い強さなど、崩れるのは一瞬です。

 積み重ねなさい。幸いお前には時間がある。

 もしそれが嫌だと言うなら止めはしません。

 お前はどうしたい?」

「…俺、諦めたくはないっす。

 …でも、まだ攻撃魔術は怖いっす…」


 ローランはしばし考え、メランに笑みを向けた。


「そ〜らを自由に、飛びたいな〜♪

 さぁ、お空を羽ばたこうではありませんか」


 * * *


 モナカはここ最近、放課後はよく図書室に来るようになった。

 ミリアはネロとメロに甘くないようで、本も買ってもらえないらしい。そこで、モナカに図書室から借りてもらおうというわけで、モナカをパシリとしてこれまで使っていた。ちなみにモナカはパシられていることには気づいていない。

 今日もパシられ、モナカがネロとメロに本を持っていく日なのだ。

 ちなみにジャンルは推理小説。


 セレスティナの図書室は流石というべきか、蔵書量が多い。

 さすがに魔術書はゴードンの方が多いが、その他の分野の本であれば圧倒的に上だ。蔵書量はゴードンの2,3倍はあるだろう。


(何回来ても慣れそうにないなぁ)


 少し萎縮されながら目当ての本を取ろうとすると、左手の痛みで顔をしかめた。

 正式任務以降、左手の痛みがまだ引かないでいる。

 握力も回復しきっていないから、本を手でささえることは難しい。

 立ち読みが難しいと判断したモナカは、何冊かの本を持って、左手の痛みに耐えながら机の方にに移動した。

 空いている席を探していたモナカは、この場にいるのが似合わなそうな金髪の少年─メラン・バグオールがいるのを見つけた。

 メランは一冊の本を開いてお勉強中らしいが、顔をへの字に曲げている。苦戦していそうだ。

 友人として何か手助けできないかと考えたモナカは、まず声をかけてみようと考えた。

 友人でも、まだ自分から話すことが苦手なモナカは、勇気を出してメランを訪ねてみた。


「メランさんっ。こ、こんにちは」

「こんにちはっす。モナカも勉強しに来たんすか?」

「いえ、わたしは読書を…メランさんは、お勉強、です、か?」

「そうっす。でも難しくて…」


 モナカはちらりとメランの本を見て、絶句した。

 メランが呼んでいるのは、モナカ自身も投稿したことのある短縮詠唱についての論文が集まった本だ。

 そしてまさに、メランが今開いているページの内容がモナカの論文だ。


「あの、もしかしてメランさんは、短縮詠唱を覚えたいんです、か?」

「そうっす。やっぱり実戦を意識するとなると、短縮詠唱は重要っすから」


 メランの言う通り、短縮詠唱は実戦においてかなり重要だ。

 魔術師の弱点は詠唱に時間がかかることと、それによる隙であり、短縮詠唱をマスターすれば詠唱時間を半分までに短縮でき、その分隙も少なくなる。

 だが短縮詠唱とは、複雑な魔術式を理解し、略せるところをできる所まで略していくものだ。それ故、高い魔術式への理解力が求められる。

 だが、見るからにメランにはそこまでの魔術式への理解力はない。


(だったらどうすればいいんだろう…あ、そうだ!)

「メランさん。短縮詠唱は後回しにしたほうがいいかも、です」

「えっ?」

「短縮詠唱とかは、あくまで魔術発動の速度を上げれるだけです。」


 モナカは世界で唯一無詠唱魔術を扱う魔術師として評価されてはいるが、それらをや無詠唱魔術や短縮詠唱をそれほど高く評価していない。

 それらはあくまで速く打ち出せるだけ。

 どんなに強力で打ち出しが速い魔術でも、当たらなければ意味がないのだ。


「チェスもそうですけど、どれだけ先手を打っても、キングを取れなければ勝てません。なので、メランさんは次は、追尾術式を覚えたほうがいい、と思います」


 追尾術式とは、その名の通り魔術に一定時間の追尾効果を追加する術式だ。移動する敵を狙う時や室内の対人戦ではよく使う。

 追尾性能は高いとは言えないため、どっちにしろ本人の攻め方が大事だが、それでもただ真っすぐ打つよりかは圧倒的に命中精度は上だ。


「何より、追尾術式で覚える術式内容は一つだけなのに対して、短縮詠唱は多くの魔術式のパターンを覚える必要があって、とっても大変です。

 なので、メランさんが覚えるべきは追尾術式だと、思います」


 言い終えたモナカは、ポカンとしているメランと目が合った。

 モナカはさあっと青ざめた。


(や、や、や、やりすぎちゃった!うぅ〜、もっと遠回しに言えばよかった…それより、どう言い訳しないと…)


 モナカは視線をぐるぐると回しつつ、必死に言い訳を考えた。


「えっと、ですね…あ、ラーク様がそんな感じで以前言ってた気が…」

「そうなんすね!魔術が得意な副会長が言うんなら間違いないっすね!」

(よかった〜、なんとか誤魔化せた…)


 モナカが安心していると、メランは立ち上がり恥ずかしそうに頭を掻いた。


「モナカ、ありがとうっす。俺ちょっと焦ってて。

 早く次のステップに行かなきゃって、順番を間違えるとこだったっす。

 本当にありがとうございますっす!」


 モナカは恥ずかしさから俯いて、指をもじもじこねらせながら小声で提案した。


「あの、わたし魔術はからっきしですけど、数式なら得意なので、少しならお手伝いできるかも、です」

「助かるっす!ありがとモナカ!」

「いえ…えへへ…」


 メランの感謝の笑みにつられてモナカも変な笑みを浮かべた。

補足、覚えてないかと思いますが、メランは魔力量がとても多いので、入学してから使えた適当な初級魔術も、威力は上級相当です。

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