第九十九話:左手を怪我した少女
この章からモナカが主人公となります。
出番が少なかったモナカに拍手!
正式護衛任務や新年の儀かわあったおかげで、長い冬休みも一瞬で終わった。
冬休みが終わって1週間ほど経った朝、モナカは生徒会室に入ると、既に他の生徒会メンバーは着席していた。
遅刻はしていないし、なんなら5分前に来ていたのに、一番最後に来たのがなんだか気まずいモナカは他のメンバーに頭をペコペコ下げながら着席した。
生徒会メンバーが全員揃うと、生徒会長フィリップは、穏やかに微笑み口を開いた。
「この7人が、今こうしてこの場にいることを心から嬉しく思うよ。この新しい年もまた、我らがセレスティナに聖霊の加護があらんことを」
その言葉を皮切りに、新年初の生徒会会議が始まった。
最初にフィリップから最終学期のスケジュールについて説明された後、各役職から連絡事項が伝えられた。
副会長のラークからは、各委員会の今学期における目標や課題解決について。
書記のエリックとメアリーからは、各クラブの大きな予定について。
会計のアーリアとモナカからは、現在の生徒予算と、最終予算の予測について。
庶務のニーアからは、運営会からの共有事項について、それぞれ報告されていった。
報告が終わると、エリックが思い出したように呟いた。
「そういえば、今年の生徒総会にはモナカも出るんだったな」
「ふぇっ?!、リアがやってくれるんじゃ…」
「そんなことないわよ。モナカだって会計なんだから、生徒総会の予算発表はしなきゃなのよ。
そのせいで、去年、会計は連日お茶会に呼び出されていたわね」
アーリアによると、生徒総会の前に予算会議があり、そこで各クラブの予算が決定するらしい。
また、各クラブは自分のクラブに予算を増やしてもらおうと躍起になるようで、毎年会計は連日お茶会に誘われるのが恒例らしい。
「私が手強いということは去年から学んでるだろうし、気弱そうなモナカが標的にされるでしょうね」
「お茶会という名の招待、そして健全なお願いならかなりマシな方だぜ。中には、前会計にしたように賄賂を渡したり、家柄を盾に恐喝恫喝してくるやつらもいるんだぜ」
モナカの様子を見かねたフィリップが、穏やかな声でなだめた。
「全く。エリック、あまり彼女を脅さないでおくれ」
「事実だろう。
オルフェ嬢は前会計とは違い賄賂には動かない。
ともなれば恐喝恫喝をされる可能性は高いだろう」
「へぇ。賄賂に動かないと確信しているんだ」
「これまでのオルフェ嬢を見てれば分かるだろ」
「それもそうだ」
エリックは平民出身のモナカを嫌ってはいたが、それでも能力は公平に見てくれている。
だからこそ、賄賂には屈しないという、いわば信頼の判断をしてくれているのだろう。
「殿下。それでは、オルフェ嬢の茶会の際には、生徒会の人間を同席させるのはどうでしょうか」
「そうだね、そうすることにしよう。
オルフェ嬢、予算関係でお茶会に誘われたと感じたら、必ず他の生徒会役員を同席させること。
分かったね?」
「は、はいぃ」
ブンブン首を振り、頷くモナカに笑みを浮かべた後、フィリップが口を開いた。
「それでは、今日の生徒会会期はこれにて─」
「失礼します」
フィリップが終わらせようとしたところで、扉を開け入室した人物は、資料を片手に携えたセフィルだった。
「どうしたのかなセフィル?」
「後ほど全校生徒にお伝えしますが、生徒会の皆様にはいち早く報告するようにと学園から伝えられまして」
「なるほど。それで、いったい何を教えてくれるんだい?」
セフィルは携えた資料をテーブルに広げた。
「こちらは、今学期から編入する生徒となります。
一人目は三校大会のチェス大会で来校されたことのある、ダーウィン・クリーム。
二人目は元ゴードンの生徒で、かの『弾劾の魔術師』様の甥、ヘッケラン・ジェラート」
「これはこれは。どちらもまあまあな有名人じゃないか」
ダーウィンは学問は全般優秀なうえにチェスの腕前が高いことで有名なチェスプレイヤー。
ヘッケランは、『弾劾の魔術師』の甥であることと、ゴードンでかなりの問題行動を起こした人物として、フィリップも噂で聞いたことはあった人物だ。
「モナカ、どうしたの?」
「え、あ、ちょっと…何でもない…」
青くなったモナカの顔色を聞いたアーリアに、ラークが説明した。
「ダーウィン・クリームは、三校大会でオルフェ嬢に求婚した件があったから、まだ忘れられないのだろう」
「あ、そういうことか。
ごめんねモナカ。配慮が足りてなかった」
生徒会の皆が、モナカはダーウィンのことで不安になっているのだろうと思っていたが、実際は大きく違っていた。
(ジェラート先輩!?嘘、セレスティナに来るなんて…)
モナカはヘッケランと。ゴードン時代面識があった。いつかは忘れたが、ヘッケランに魔法戦で勝ってしまったせいで、いつも付きまとわれるようになってしまっていたのだ。
モナカが無詠唱魔術を発明し、研究室にこもるようになってからはそれも少なくなったが、研究室に出た日にはいつも魔法戦を挑まれていた。
モナカのストーカーというだけならまだしも、モナカの『沈黙の魔女』としての実力と素顔を知っている人物の編入は、護衛任務では致命的だ。
(み、見つかったらどうしよ〜!)
モナカが青ざめながら頭を抱えていると、フィリップが「今日はこのへんかな」と呟いた。
「今日はこれで終わりにしようか。通暁常務は明後日からということで………あぁそうだ。これは私の個人的なお願いなのだけど…」
そうしてフィリップは生徒会メンバーを見回し、言った。
「訳ありでね。左手を怪我した女の子を探しているんだ。見つけたら教えてほしい」
モナカの心臓が跳ねた。
(どういうこと?殿下はわたしの左手の怪我を知られてないはずだし、なによりわたしがセレスティナにいることがバレて…!)
顔と姿勢に出ないように硬直していると、隣のニーアがたずねる。
「女の子っていうのは、高等科の女子生徒ということでいいのでしょうか?」
「いや、もしかしたら中等科かもしれないし、従者かもしれない。ただ、職員でないことは確かなんだ」
「殿下、それ以外に何か特徴はありませんか?」
「そうだね…オルフェ嬢と同じくらい小柄だったね」
そう言いフィリップはモナカに視線を向けた。
モナカは身体が変に動かないか怖くて仕方がない。
モナカが固まっていると、更にラークが質問した。
「その女子生徒は殿下にとってどのような人なのですか?」
「そうだね、恩人…といったところかな。うん、どうしても直接会ってお礼を言いたくて」
フィリップは恋する少年のような甘い笑みを浮かべた。それは彼の敬愛する『沈黙の魔女』へ向けられるものだ。
やはり、フィリップはセレスティナに『沈黙の魔女』がいることを知っている。そして探し出そうとしている。
モナカフィリップに不審がられないように行動しなければいけなくなったが、同時にどこから情報が漏れるかも注意しなければならない。
モナカが怪我しているのを知っているのはミリアだけだが、彼がそれを漏らすことはない。
なら誰かがモナカの正体に気づき、左手を怪我していることも見抜かれたということになる。
はわわ、とモナカが内心おびえていることもいざ知らず、フィリップはモナカに視線を向けたまま聞いた。
「そうだ、オルフェ嬢もこれに手伝ってくれないかな?オルフェ嬢と身長は同じだから、もしかしたら僕が気づかないところまで気づくかもしれない」
「え?は、はい…!」
「それじゃあよろしく頼むよ」
なぜか『沈黙の魔女』本人が『沈黙の魔女』探しに協力することになったが、なんとか切り抜けることができた。
(か、隠し通せて、よかった〜)
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