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5.これがマヨネーズ無双だ!

「「ただいま!」」



「あら、おかえりなさい。今日は冒険者登録だけにしたの? それにしては遅かったけど」



 母さんの言葉に、俺とジョンは視線を交わしてニヤリと笑った。



「俺達の冒険者デビューはなかなかのものだったんだからね! 報酬で卵を買っても……ほら!」



 俺はドヤ顔で今日手にした報酬の残り、銀貨二枚と大銅貨五枚と買った卵を見せた。

 きっと母さんは驚いて俺達を褒めたたえるだろう。



「いったい何をしたの!? 初心者の報酬がこんなに高いわけないもの!」



 予想と違い、母さんは驚くというより、心配しているように見える。



「たっ、たまたま赤猪(レッドボア)をトレインしてきた冒険者がいたんだ! それでリッキーと僕が力を合わせてやっつけたんだ! みんな無事だったのはリッキーのおかげだよ!」



 ジョンが慌てて説明すると母さんの眉尻が下がり、並んでいる俺達を同時に抱き締めた。



「無事でよかった……! 今度からは危ない時は逃げなさい。わかったわね?」



「「はぁい……」」



 本気で心配してくれているのがわかって、何だか面映(おもは)ゆい。

 俺達が無事で安心した今なら、こころよく台所を使わせてくれるだろう。



「ねぇ母さん、自分で卵を買って来たから、台所を使ってもいい?」



「は?」



 あ、あれ? いつもより数段低い声でひと言だけ返って来た。



「今度は俺じゃなくて、ジョンに作業してもらうから! だから大丈夫!」



 ジトリとした目を母さんに向けられるが、ここでは負けてはいけない。

 精一杯懇願する表情で訴える事数秒、母さんは大きなため息を吐いた。



「はぁ~~……。仕方ないわね、三十分以内ならいいわよ。それまでに終わらせてね」



「わかった! やるぞ、ジョン!」



「うん!」



「清浄なる光よ、穢れを払え『清浄(クリーン)』」



「ありがとうリッキー」



 外から帰って埃っぽい自分達と一緒に、卵も清潔にする。

 俺が口頭で説明すると、ジョンは的確に作業を進めてくれて、母さんの許可した三十分後には無事にマヨネーズが完成していた。

 俺とジョンの手の甲に少し載せ、ペロリと舐める。



「うん、ちゃんとマヨネーズになってる!」



「これが食卓に革命を起こすの? 美味しいけど……、革命なのかなぁ?」



「ククク……、昼ご飯のサラダを食べる時にわかるさ!」



 完成したマヨネーズは、冷蔵魔導具の中に片付け、使った道具にも洗浄魔法をかけると昼食の時間を待った。

 大抵食事にはサラダが出されるが、塩を振るだけというのが基本なのだ。

 ジョンは懐疑的だが、マヨネーズのポテンシャルが発揮されるのは、単体ではなく何かと食べた時だからな!



 母さんの昼食作りが進み、匂いに釣られて妹のメアリーが部屋から出て来た。

 お昼は簡単に焼いたソーセージとサラダとパンが定番だ。

 俺とジョンはテーブルにお皿を運び、冷蔵魔導具から出したマヨネーズをサラダにかけて席に着く。



「お兄ちゃん、今かけたの何? 変な物かけないでよね!」



「ふふん、そんな口がきけるのも、それを口に入れるまでさ! 食べてお兄様を崇め奉るがいい!」



「リッキー、何を騒いでいるの? あら、サラダにかかっているのは何? さっきあなた達が作っていた物かしら?」



 母さんも席に着いて、サラダにかかっているマヨネーズを見て首を傾げている。

 父さんは役場で働いているから、お昼は近くの食堂で食べるので帰って来ない。

 父さんへのお披露目は夕食までお預けだな。



「いいから! 早く食べてみて!」



 母さんとメアリーは恐る恐ると言った風にサラダを口に入れた。

 ジョンは大きなひと口だ。



「「「!!」」」



 サラダを咀嚼してすぐ、三人は目を見開いた。



「何これ……! すっごく美味しいわ!」



「うわぁ、野菜と一緒に食べると全然違う! やっぱりリッキーは凄いや!」



「うそ……これ、いつも食べてるサラダだよね!? お兄ちゃんが作ったの!?」



 メアリーにはそうだと言いたいところだが、嘘は俺の信条が許さない。



「作業したのはジョンだけど、発案者は……俺だ!」



「やるじゃないお兄ちゃん!」



 これ! これだよ! 俺が求めていたものは! この称賛、最高に気持ちいい!!

 卵二個分だとすぐなくなっちゃうな。

 目的のためには父さんにも食べさせたいから、後でまたジョンに作ってもらおう。

 余った卵白は何に使おう……、ラングドシャが無難かなぁ。母さんとメアリーも喜ぶだろうし。



 昼食を済ませてから、俺達は再びマヨネーズを作った……というか、ジョンに作ってもらった。

 よほど気に入ったのか、母さんも一緒になって作っていたけど。

 夕食の時間になり、父さんだけでなく、お土産と花嫁衣裳を手にしたジョンの家族も一緒に夕食を囲んだ。



「アリスお姉ちゃん、後で花嫁衣裳見せてね!」



「いいわよ~、ちょうど王都から商人が来たところで、いいのが買えたのよ! メアリーは何年後に着るかしら、ふふっ。そういえば、あの王都の商人の顔、どこかで見た気がするのよね」



「これがリッキーとジョンが作ったまよ……ナントカってやつか? どれどれ……美味いっ!」



「やだ、凄く美味しいわ! こんなの考えるなんて、リッキーったら天才じゃない?」



「でしょう? 持ち帰れるように余分に作っておいたわ」



「ありがとう! いきなりお邪魔して夕食までいただいちゃって、悪いわね」



「帰ったばかりで夕食準備するのも大変でしょう? そう思って多めに用意したのよ~」



 俺とジョンが口を挟む隙がないくらい、会話が飛び交っている。

 マヨネーズは好評だからいいんだけどさ、せっかくの賛辞がすぐに会話に流されてしまった。

 だが、今の俺の目的は父さんに話す事だ。

 これは村の発展のための第一歩になる。俺は覚悟を決めて口を開いた。

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