4.初報酬
「……っていう事があったんだけどさ。一応知らせておこうと思って」
冒険者ギルドに到着した俺達は、赤猪と薬草を買い取ってもらうついでに、森であった出来事をトラヴィスさんに報告した。
「えぇ~? それって俺が拾いに行かなきゃいけないやつじゃないか~? めんどいなぁ……」
「トラヴィス! そういう事じゃないぞ! とにかく、二人共無事でよかった! そいつはトラヴィスが責任持って拾いに行くから、二人は家に帰って休むといい」
このお酒を飲んでなくても気のいい人は、トラヴィスさんの先輩職員のルークさん。
トラヴィスさんは有能だけど、女性職員の近くに置いておくと気分によって褒め殺したり、余計な事言って怒らせたりするらしく、防波堤役をしている苦労人らしい。
「なぁ、ルーク。この後森に向かう冒険者に、池のところに転がってる奴にポーション売りつけるように言えばよくない? わざわざ俺が行かなくてもさぁ」
「池の周辺に向かうなら新人じゃないか! そんなのがDランクにポーション売りつけられるわけないだろ! 脅されて奪い取られて泣き寝入りするのが目に見えている。リッキーみたいに肝の据わった新人は特殊だぞ、特殊」
「わぁ、リッキーってやっぱり凄いね!」
ルークさんが俺を褒めたから、ジョンに尊敬の眼差しを向けられて照れる。
確かに前世を思い出す前の俺だったら、怖くてポーションを差し出した上に、赤猪も横取りされていたかもしれない。
いや、その前に赤猪を討伐できなかっただろうな。
「こ~んな小さい赤猪にやられるような奴にビビるなら、冒険者向いてないから早々に辞めりゃいいってもん……はい、行ってきます」
まだブツブツ文句を言っていたトラヴィスさんは、ルークさんに睨まれて渋々とギルドから出て行った。
そしてトラヴィスさんの言葉で気になった事を聞いてみる。
「あの……、ルークさん、俺達が討伐した赤猪って小さいの?」
「ん~、トラヴィスの感覚だとそうかもしれないけど、一応成体だぞ。あいつは現役の頃、この辺では見ないような大物を狩ってたからだよ。魔素が濃い場所だと、同じ魔物でもかなり大きさが違うらしいから。ここのダンジョンだとあまり見られないけど」
「ダンジョンかぁ……、Cランクからしか入れないんでしょ? 早く入れるようになりたいな。なぁ、ジョン」
「そうだね! だけど赤猪も討伐できたし、Dランクにならすぐなれるんじゃない?」
依頼掲示板に赤猪討伐採取がDランクの依頼になっていたから、俺達はDランクの実力があるって事だ。
ギリギリだったからさすがにすぐにランクを上げてもらえるとは思ってないけど。
「Cランクもダンジョン攻略も十五歳にならないと無理だぞ」
「「えっ!?」」
ルークさんの言葉に、俺とジョンは同時に声を上げる。
ランクアップに関してはまだ先の話だと思って、リサーチしてなかったせいで知らなかった!
「じゃあ三年間はダンジョンに行けないのかぁ……」
ジョンはしょんぼりと肩を落としたが、別にダンジョンじゃなくても魔物は森に出るし、しっかり実力をつけてからダンジョンで無双する……イイ!
さっきルークさんがここのダンジョンでは大物はあまり出ないって言ってたし、あと三年もあるならいける!
「十五歳になるまでに森の主って言われるくらい鍛えてればいいじゃないか! 俺はやるぜ! ジョンは!?」
「僕もやる!」
力強く頷いたジョンとガシリと手を組んだ。
「いやぁ、青春してるねぇ。ほら、今回の薬草と赤猪の報酬だ。全部買い取りでいいんだろう?」
「うん! ルークさんありがとう!」
ルークさんにお礼を言って受け取る。
薬草と赤猪の報酬を合わせて銀貨二枚と大銅貨六枚と銅貨六枚。日本円に換算して二万六千六百円か。
薬草が一束銅貨三枚だから、赤猪は銀貨二枚……、冒険者デビューとして上々の成果だ。
「解体を覚えたらもっと稼げるぞ。狩ったその場で綺麗に解体できるようになったら、二倍の金額になるかなぁ。だけど、解体する時の森のルールがあるから、ちゃんと講習を受けてからするように!」
「「はい!」」
二人できっちり報酬を分けた俺達は、ホクホク顔で冒険者ギルドを出た。
「さて、今朝は失敗したけど、自分で卵を買えば母さんも文句を言わないはず! ジョン、俺はちょっと卵買ってから帰るよ」
「今朝リッキーが言ってた革命ってやつのため!? 僕も一緒に行くよ!」
期待がこもったキラキラとした目を向けられたら、ダメとは言えないじゃないか。
「ふっ、わかったよ。一緒に行くか!」
こうして俺達は村で鶏を育てているシア婆ちゃんの家で卵を六個買った。
卵はひとつ銅貨二枚だから、薬草四束分の収入が吹っ飛んだ。
赤猪を狩れてなかったら買うのをためらう値段だな……。
今朝、卵割りを失敗した時に母さんが怒ったのもわかる。
だがしかしっ! これは食卓の革命を起こすためには必要経費というやつだ!
買った卵は初心者セットの入ったリュックに入れてゆっくり帰った。
今は昼食の準備をするには少し早いくらいの時間だから、まだ台所は使っていないはず。
だから今度こそ食卓の革命を起こすんだ!!
そのためにも台所の守護神を説得しなければ。
俺とジョンは覚悟を決めて家のドアを開けた。