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2.前世と違う

「おはよう、リッキー、ジョン、そろそろ起きなさい」



「んぅ……? おはよ~母さん、ジョン」



「ふわぁ……、おはようおばさん、リッキー」



 翌朝、無遠慮にドアを開けた母さんの声で俺達は目を覚ました。

 夜は前世の記憶を反芻(はんすう)していて眠れないと思っていたけど、いつの間にか眠っていたようだ。



 朝食には今日もサラダが付くはず。

 これは昨夜計画したマヨネーズ無双の第一歩を踏み出すしかない!

 俺達が着替えを始めたのを確認して、部屋を出ようとする母さんに声をかけた。



「母さん、ちょっと作りたいものがあるから台所使っていい?」



「ちょっとくらいなら、いいけど……。今まで料理なんてした事ないのに、どういう風の吹き回し?」



「んっふっふ。今日は食卓に革命が起きる日なんだよ……!」



 キメ顔でそう言ったが、母さんの反応は明らかに「何言ってんだこいつ」の顔である。



「そう……、じゃあ期待してるわね。着替えたら来なさい」



 全然期待していない口調で、肩を竦めて行ってしまった。

 ぐぬぬ、あとでたっぷり称賛を俺に浴びせる事になるんだからな!

 閉じられたドアを睨んでいると、俺に注がれている熱い視線に気が付いた。



「リッキー、食卓に起きる革命って何!? 早く着替えて行こうよ!」



「ああ、楽しみにしててくれ」



 ジョンは俺を一点の曇りもなく信じてくれているようだ。

 さすが俺の大親友。いや、心の友よ。

 着替えを済ませた俺達は台所へ向かい、母さんから卵を入手した。



 ふふふ、ここは片手割りを披露してみんなを驚かせてやろう。

  前世では社会人になってから自分の朝食は自分で準備していたため、この程度はお手の物だ。

 おっと、そういえば卵黄と卵白を分けないといけないから両手でやらないとダメか。

 仕方ない、片手割りは今度披露する事にしよう。



 コンコン、パカッ。そんな音がするはずだった。

 しかし実際はグシャッという音と、調理台の上に広がる卵の中身。

 当然ながら殻に卵黄が突き刺さり、今更分けられないくらいに混ざっている。



「それが革命なのかしら?」



 振り向くと、腕を組んで仁王立ちしている母さんがいた。



「あ、あれ? おかしいなぁ……あはは……」



 前世の記憶通りにやったつもりなのに、思った力加減ができなかった。



「もうっ! あっちに行ってなさい! これはベーコンチーズオムレツにしてあげるから」



「やったぁ! ……じゃなくて! ちょっと失敗しちゃっただけだから……ジョンに代わりに卵割ってもらうよ! だからもう一回チャンスをちょうだい!」



「ダメよ。この調子じゃあ、いつまでかかるかわからないもの。すぐにご飯ができるから、座って待ってなさい」



 俺の訴えもむなしく、却下されてしまった。

 せっかくのマヨネーズ無双チャンスが!!

 だがしかし、忙しい朝食の時間に言ったのが悪かったのだ。

 時間の余裕がある時に仕切り直そうと、気持ちを切り替えた。



 美味しいベーコンチーズオムレツとパンでお腹を満たした俺とジョンは、冒険者ギルドへと向かった。

 目的は十二歳からできる冒険者登録だ。



「それにしても、こんな辺境の村に冒険者ギルドがあるなんて、ダンジョン様様だよね~」



「その代わりスタンピードが起きたら真っ先に襲われる位置だけどな」



 俺達の住むガルサッド村は、森に面しているが、数十年前に森の中でダンジョンが発見されて冒険者ギルドの支部が置かれる事になった。

 おかげで俺達のような子供でも、比較的安全な森で薬草採取をして小遣い稼ぎができるのだ。



 ギルドができて人が増えたとはいえ、定住している村人の数はそんなに増えていないせいで村自体はあまり大きくない。

 数分歩いたらもうギルドに到着した。

 初めて足を踏み入れる建物にドキドキしつつ、ジョンと顔を見合わせてから一緒に入る。



「だーかーらー、お前程度の腕じゃあこの依頼は無理だって言ってるだろ。本当にDランクなのか? 実力を誤魔化してなったんじゃなくて?」



「なんだとこの野郎! たかがギルド職員のくせに!」



 どうやらギルド職員と冒険者が揉めているようだ。

 いきり立った冒険者が職員に殴りかかる。

 が、何をどうしたのか、職員が冒険者の腕に触ったかと思った次の瞬間には、冒険者は床に倒れていた。



「すごい……」



 思わず称賛が口から漏れる。

 あのギルド職員は只者じゃない……って、よく雨の日に酔っ払って村を徘徊しているトラヴィスさん!?

 元冒険者でギルド職員してるとは聞いていたけど、強いなんて知らなかった!



「も~、シラフだと喧嘩っ早いんだから! エールあげるから喧嘩しない!」



 ギルドに併設されている酒場から、ウェイトレスとして働いている(と聞いていた)アメリアさんがカウンターの上にジョッキをドンと置いた。

 仕事中なのにいいのか?



「あぁ~ん、アメリアちゃん今日も美人~! ん~、チュバッ」



 トラヴィスさんはクネクネしたかと思うと、投げキッスをアメリアさんに送った。

 が、アメリアさんは見えないキスをサッと避けて、酒場のホールへと戻って行く。

 避けられた事を全く気にせず、もらったエールを一気飲みしているトラヴィスさん。



「う……、いててて……。いったい何が……?」



 一瞬気絶していたらしい冒険者が頭をさすりながら起き上がった。



「あ~、そんなにこの依頼受けたきゃ受けていいぞ。けど絶対怪我するからポーションは持って行くように。そこの売店でも売ってるからな」



「チッ、最初からそう言えよ!」



 結局冒険者は依頼を受けてギルドから出て行った。

 けど、ポーション買っていかなかったけど、持っていたのかな?



「あら、リッキーとジョンじゃない! そっか、あなた達もう十二歳になったんだっけ、冒険者登録に来たのね。一応教えておくけど、トラヴィスは元B級冒険者で腕は立つとはいえ、シラフだと口と性格が悪いから気を付けるように」



「酷いな~、俺は気のいいお兄さんだよ? お酒を飲んでいればネ!」



 アメリアさんの声が聞こえていたらしいトラヴィスさんは、笑顔で空になったジョッキを掲げていた。

 俺にもわかる、あれはおかわりの催促だ。



「もうっ、給料天引きでちゃんとお代はもらうからね!」



「わかってるって! ジョン、リッキー、登録するんだろ? お兄さんが登録してあげよう。薬草採取で森へ行くなら初心者セットを持って行くように」



「うん、わかった。登録お願い」



 見た目が二十代半ばだからお兄さんではあるけど、妙に老成された雰囲気で実際は年齢不詳だ。

 でもまぁ、俺達の認識ではいつも酔っ払ってる陽気なお兄さんで間違いない。

 攻撃的なところは今日初めて見たくらいだ。



 トラヴィスさんに無事冒険者登録をしてもらった俺達は、ギルドで買った初心者セットを持つと、薬草採取のために森へと向かった。

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