1.甦る厨二病
久々の新作です。
よろしくお願いします!
「炎よ、我が意に従え『着火』!」
俺が紡いだ呪文により、陽が落ちてひんやりとし始めた居間の暖炉に火がついた。
「わぁ、その呪文もカッコイイ! ねぇリッキー、僕も使っていい?」
「ああ、いいぞ!」
俺が考えたカッコイイ呪文を絶賛するこいつはお隣さんであり、俺の幼馴染のジョン。
赤ん坊の頃捨てられていたのを拾われたらしいが、当時赤ん坊だった俺と同じくらいだった事から同じ十二歳だ。
「お兄ちゃんやめてよね、その無駄な呪文みたいなの! 『着火』だけでいいのに、わざわざ詠唱を長くしてどうするのよ。それに片手で顔を隠す変なポーズも恥ずかしいから外でするのは絶対やめてね!!」
この口うるさいのは俺の三歳下の妹。
もうすぐ夕食だから居間に来たみたいだけど、小さい時は可愛かったのに今は母さんと同じくらい口うるさくなっている。
「「カッコイイからいいの!!」」
同時に妹に反論したジョンと顔を見合わせて笑った。
昔から俺を理解してくれるジョンは心から信頼できる大親友だ。
そんな俺達を両親は微笑ましげにながめている。
「ほらほら三人共、もう夕食ができたから座りなさい。やっぱり今日は三人共帰って来なさそうだから、ジョンはリッキーの部屋に泊まっていくといいわ」
「はーい」
ジョンの今の家族は両親と姉がいるが、今日は俺達の住む村には売っていない婚礼衣装を買いに町まで出かけているのだ。
町までは馬車で三時間かかるから、色々お店を見て回っていたら日帰りは難しい。
「んん~! やっぱりおばさんのオークポトフは最高!」
「あら、ありがとう。ウチの子達はそんな事言ってくれないから嬉しいわ」
「そんな事ないわよ! あたしちゃんと美味しいって言ってるもん!」
「俺だって思ってるよ! いつも美味しいって!」
嘘じゃない、ちょっと最近なんだか家族をほめるのが恥ずかしいから言わないだけで、母さんの料理はいつも最高に美味しいんだ。
このオーク肉がごろごろ入ったポトフは、噛めばジュワッとスープがしみ出して俺も大好物だし。
「あらあら、うふふ。それならよかったわ」
「もちろん父さんも思ってるし、口に出して言ってるけどな」
「ジョンが来てくれるとみんな素直になるわねぇ。それじゃあ思ってるだけのリッキーは、食事の後で身体を拭くお湯を準備してくれるかしら?」
「…………わかった」
いいんだ。
魔法が使えるようになる十歳の教会での洗礼で、人より魔力量が多いって言われたしさ。
食後、トイレの隣にある洗濯したり身体を拭く水場へ移動する、当然のようにジョンがついて来るのは詠唱を聞くためだ。
大きめの盥の上に手を掲げていつものように俺が考えた詠唱から始める。
誰もこんな詠唱をしないけど、絶対こっちの方がカッコイイから周りがなんと言おうとやめる気はない!
さわれる程度の熱めのお湯をイメージして……。
「命の源泉より湧き出でし水流よ、わが手に集え『水生成』!」
「うわぁ、やっぱりカッコイイなぁ! どこからそんな詠唱を思い付くのか……、僕には絶対無理だなぁ」
「どこから……」
詠唱は俺がカッコイイと思った言葉を組み合わせてる。
この水というか、お湯は空気中の水分を集めていると思うんだよな。
……あれ? どうして俺はこんな事知ってるんだ?
「あっ、あっ、リッキー! お湯! 大変だよ!」
「へっ!?」
魔法はイメージが大切だ、それなのに途中で他の事を考えたせいか盥数杯分のお湯が頭上にあった。
やばい!
焦ったせいで頭が真っ白になり、その瞬間頭上のお湯の塊が俺に落ちて来た。
バシャァァァン!!
豪快な水音と共に、思った以上の水圧に襲われた俺は、床に叩きつけられ昏倒した。
そして俺がカッコイイ呪文を付け足したり、妙なこだわりを持っている事の謎が解けた。前世の記憶を思い出したのだ。
いつか異世界に召喚され、勇者となってチートにチーレム、知識無双で大儲け。
幸い有名進学校を狙えるくらいに優秀な頭を持っていたおかげで、いつ異世界に召喚されてもいいように知識を蓄えた中学生時代。
結局何事も起こらず受験勉強が始まり現実を見始め、大学、大手企業へと人生は進んで行き、このままつまらない大人として生きて行くのかと思った矢先に交通事故にあった。
就職二年目、夏休み初日の出来事だ。
「リッキー! しっかりしてリッキー!!」
走馬灯のような、長い映画のような前世の記憶を思い出して呆けていた俺を現実に戻したのはジョンの泣きそうな声だった。
「ジョン……、大丈夫だから安心してくれ」
どうやら時間にして一瞬の出来事だったらしく、ビショビショの俺は水場に倒れたままで、俺を抱き起そうとしているジョンもビショビショだ。
「何の音!? きゃあぁぁっ! 何があったのリッキー!?」
水音で駆け付けたらしい母さんが、俺とジョンの状態を見て悲鳴を上げた。
あぁうん、びしょ濡れで倒れてるし、ジョンは涙目だし、そりゃ驚くよな。
「へへ……、ごめん母さん、ちょっと失敗しちゃった」
「怪我はないのね? まったくもう! 『乾燥』」
母さんの魔法のおかげで、ビショビショだった周辺含めて俺達も元通りに乾いた。
「明日は冒険者ギルドへ登録に行くんでしょ? 早く身体を拭いて綺麗にしたら寝なさい。それから冒険者登録をしても、成人するまでは安全な依頼だけ受ける約束は守るように!」
「「はーい!」」
この日、前世を思い出した事がきっかけで、俺とジョンが将来この国の双璧と呼ばれる事になるなんて、この時の俺達は思ってもみなかった。
そして俺の手先が壊滅的に不器用で、もどかしい思いをする事も……。