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学び舎

作者: 大西洋子

楽しげに喋りながら歩く下級生の一人の足元に爪先を差し入れ、転び泣く様を振り返りもせず、唯花は階段を昇り、その足でトイレにこもる。そうしてSNSに苛立ちを呟こうとして、つい先程、先生にスマホを取り上げられたことを思い出した。

(むかつく、むかつく、むかつく!)

個室のドアを蹴る。サニタリーボックスを蹴飛ばす。用も足していない便器に大量のトイレットペーパーを放り込む。

と、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り出し、運動場で遊んでいた男子達が教室へと急ぎ戻る声が聞こえてきた。

昼休みの後は全校生徒で掃除の時間。

(昼休みがもう終わりじゃないの!)

唯花は散らしに散らしたその場をそのままに、個室を出て、何事もなかったかのように手を洗う。

手洗い場の鏡に映る唯花の髪の毛は、金色と黒の二色アイス状態。ブランドロゴが大きく入った服は、着られなくなるそのときが間近に迫ってきている。

(可愛い唯花が台無し)

スカートのポケットから、学校に持ってきていないと答えたリップで唇を塗り直し、教室へと戻り始める。

校舎内がやけに薄暗く蒸し暑く、いつしか窓の外は黒い雨雲に覆われ、昭和の終わりに建てられたと聞くその校舎内は、古臭さを倍増させていた。

(こんな学校、大っ嫌い!)

唯花は乱暴にドアを開け教室に入る。と、頭上に何かが落ち、足元にチョークの粉がたっぷりついた黒板消しが転がった。

いたずらをされたと気づくまで約数秒。黒板消しを蹴飛ばし、いったい誰の仕業なのかと教室内を睨む。

「やーい、ひっかかった、ひっかかった」

一番前の席の丸坊主の男子が、ゲラゲラ笑いながら手を叩く。

「いたずら、大・成・功!」

目も鼻もない顔に大きく開かれた口。のっぺらぼうという妖怪の名前を思い出すまで、さらに数十秒。

「ねぇ、楽しい?」

のっぺらぼうだけではなく、教室には妖怪という妖怪が席につき、いやらしい笑みをうかべながら唯花を見つめる。

その視線に、唯花の憤怒の導火線についた火が、一気に消え失せた。

「ねぇ、いたずらされて楽しい?」

唯花は声にならない声をあげ、教室を飛び出、廊下を走る、走る、走る。廊下の曲がり角のすぐ先に人影が。

「あっ!」

気がついた時にはもう遅い。唯花の目から火花が飛び散り尻もちをつく。ぶつかった相手から、ばらばらと何かが散らばり、乾いた音が廊下中に響いた。

「もうっ!」

立ち上がろうとついた手に固い物が触れ、反射的に掴み、それを見てしまう。

唯花の手の中でドクドクと波打つ木製の心臓。唯花は言葉にならない声をあげ、それを放り投げた。

「ぼくの心臓、素敵でしょ?」

人体模型を背に、唯花は階段を全速力で駆け下りる。が、エスカレーターを逆走しているかのように、ちっとも先に進まない。

それどころか三階にあるはずの音楽室へと、唯花は駆け込んでいた。

「唯花くんはダンスの勉強をされていたと耳にしたが、どのような音楽でどのようなダンスをされていたのですかな?」

肖像画から抜け出した色褪せた音楽家らに詰めよられ、唯花は音楽室を飛び出し、二階にあるはずの図画工作室に入り、

「毎日、髪の毛染め直したいって言っているだろ? だから、あたいが染め直してあげる」

頭から絵具をかぶせられ、廊下へと飛び出すと、腕を掴まれ、引きずり込まれた一階の保健室で、無理矢理着替えされられたのは、ブランドロゴが手描かれた体操服。

「いくよ!」

気がつくと唯花は体育館の中央に立ち、四方八方から、ドッチボールにバレーボール、バスケットボールに玉入れの玉と、様々なボールというボールを投げつけらた。

「はぁはぁ」

体育館を飛び出し、ようやく辿り着いた下駄箱。唯花は上靴を脱ぎ、自分の靴へと履き替えようとしたその中には、大量の錆びたネジ。

「もう、どうなっているのよ!」

「そりゃあ、もちろん、わたしたちが知っているいたずらを復習しているのさ」

足跡のついたドア、床に散らばる汚物、そして水にふやけた大量のトイレペーパー。そうそこは下駄箱ではなく女子トイレで、唯花を天井から見下ろすその少女が、トイレの花子と呼ばれる学校の妖怪だと思い至った。

「ホント、久しぶり。いたずらの先生になる子が現れるなんて」

校内放送が授業を始まりを告げるチャイムが鳴り出した。

「ねぇ、私達が復習したいたずら、このやり方でもいい? 唯花せんせ」




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