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未来への道標(3)

「打ち合わせが必要な事項はこれで全部……だよな?」



 30分ほどの話し合いが終わった後で、リヒト王子が向かい側に座っているクルトに聞いた。ここは、魔術師塔の最上階にある召喚の間。私たちは、本格的な会談に向けた事前打ち合わせ会をしていたところである。



 種族が違う上に長い間コミュニケーションも途絶えていたからだろう。精霊と王国の代表同士の交渉は、なかなか話が嚙み合わず難航していた。そこで、救出作戦で行動を共にした私たちに白羽の矢が立ったのである。


 もちろん私たちは外交に関しては素人なので、ぶっちゃけて言うと成果はあまり期待されていないらしい。少しでも親睦を深めるきっかけができれば御の字といったところのようだ。


 そのため、この場には私たち3人しか出席していない。また気兼ねなく話がしやすいようにという配慮から、クルトを召喚した宮廷魔術師とカイルも奥の部屋で控えている。



「日程の調整と出席者の確認、重点的に話し合う問題……まぁこれだけやりゃあ、十分だろう。

元々打ち合わせ後の雑談がメインなんだし、本番は次にやる会談の方だからさ」



 そうなのだ。今回の打ち合わせとは違い、そっちには国王や外交官も参加し、サラマンダーや他の精霊も来る予定になっている。


 そして何より、正式な友好条約が結べるかどうかは会談の結果に懸かっているというのである。なんだか恐ろしくなってきて、思わず身震いした私にクルトが笑いかけた。



「緊張すんなって。アンジェラがいるだけで、場の雰囲気が和むはずだからさ。少なくとも、精霊のみんなは会えるのを心待ちにしてるぞ」


「本当に、出席するだけでも大丈夫? 発言がゼロでも許してもらえるかな?」



 私の弱気な態度が面白かったのか、リヒトとクルトは同時に噴き出した。リヒトに恨めしそうな視線を送ると「ごめんごめん、俺が悪かった」と謝りながら私の手を握りしめてくれた。



「アンが参加してくれると、俺も心強いよ。外交の場に立たせてもらうのは初めてだから、実は俺も緊張しているんだ」



 照れたように笑うリヒトが可愛すぎて、腹が立っているのに愛しさがこみ上げてきてしまう。こんなのずるいと思いつつも、私は彼の横顔に見とれてしまった。



◇◆



「オマエら、もう新婚の夫婦みたいにラブラブだよな」



 一応まだ会議中なんだから2人の世界に入るなよと、クルトがからかった。


 事件が解決して以来、リヒトの愛情表現は日を追うごとにエスカレートしている。学校が終わったら真っすぐに私の職場に来るし、人目を気にせず手を繋ぐようになった。おやすみのキスも毎晩欠かさずしている。


 カイルが知ったら卒倒するだろうが、近頃では毎晩のように彼の部屋に招かれて王国の歴史を教えてもらっている。酒場でもできるのに、わざわざ部屋へ行くのはもちろん勉強後にイチャイチャするためだ。昨日なんて、膝の上に座らせてもらってキスまでしてしまった。もう、いつ間違いが起きてもおかしくはない。



「俺、実は前からずっとアンのことが好きだったんだ。だから両思いになったのが嬉しくてさ」



 リヒトはそう言ってはにかみながら、恥ずかしそうに頭の後ろをかいた。でも彼の激しいラブラブ攻撃には、もう1つ別の理由があるのを私は知っている。


 休暇中にお見舞いに来たリヒトにせがまれて、私は前世プレイしたゲーム『乙女の祈りと薔薇の園』の内容を説明した。リヒトやカイル、ダニエラが登場する、現在私がいる()()世界が舞台になった不思議な乙女ゲームのことだ。


 ゲーム内で碌な人物に書かれていなかったリヒトは、私の話を聞いて怒り出した。



「俺がキザでチャラいだけの馬鹿なボンボンになっているって? しかもダニエラの恋人候補!?

一体どこのどいつが、本人に了解も取らずにそんなデタラメな話を作ったんだよ!!!」



 彼の怒りももっともである。なんせ出会った当初はゲームでの印象が強すぎて、彼をカッコいいと思いつつも恋愛対象としては見られなかったのだから。


 自分がゲーム内の『リヒト』と全くの別人だと躍起になって主張し始めたリヒトは、「俺はアン一筋だ」というアピールの一環として、容赦なくスキスキ光線を浴びせまくるようになったのである。



 ……ゲームを作った犯人、か。


 リヒトの発言がきっかけで、私はあのゲームが誰かの意図によって作られたものではないかと疑いはじめていた。もちろん実際に制作したのは『現実世界』のマイナーなゲーム会社なのだが、背後に『この世界』の誰かがいる気がするのだ。


 私が考えを巡らせている横で、王子はクルトに向かって嬉しそうにのろけ話を語っていた。クルトの方はすっかりしらけ切っているかと思いきや、熱心に話を聞いてメモまで取っている。



「意外だな。リヒトって、恋に落ちたら見てくれをかなぐり捨てて猪突猛進するタイプだったんだ」



 少年が小声で出したコメントを、リヒトはスルーしたが私は聞き逃さなかった。



◇◆



 リヒトの長い長いボーイズトークが終わると、クルトはにやりと不敵な笑みを浮かべた。



「幸せ一杯なのも、今のうちだぞアホ王子。すぐに追い越してオレ様が奪ってやるからな」


「馬鹿だな。年を取るスピードはみんな同じなんだから、追い越せるわけ……あれ?」



 私とリヒトは、この時はじめてクルトの容貌が変化していることに気づいた。


 よく見たら、背も伸びているし、顔つきも幼さが薄れてしっかりしてきている。前に会った時には小学校に入学したてのような外見だったのに、目の前にいる彼は10歳くらいにまで成長しているのだ。



「精霊は、精神状態がそのまま見た目に反映されるんだ。

……アンジェラに出会って、やっとアイーシャが死んだのを受け入れられた気がするんだよ」



 そう言って少年は静かに笑った。普段の生意気な態度が、嘘みたいにしおらしい。


 前に『クルトの想い人』と呼ばれていたが、精霊王アイーシャを失った悲しみは150年の間ずっと癒えなかったようだ。それほどまでに、彼女はクルトにとって大切な存在だったのだろう。


 私は、ふと浮かんだ疑問を口にした。



「ねぇクルト、アイーシャってそんなに私に似ているの?」


「何言ってんだよ。全っ然ちげーよ。似てるわけねーだろうがよ。

アイーシャはなぁ、この世界の誰よりも綺麗で、勇敢で、そして気高い女性だったんだぞ! 調子に乗って気安く自分と重ね合わせるんじゃねーよ!!」



 クルトは顔を真っ赤にして、ものすごい勢いで全否定してきた。どうも精霊王は他を圧倒する存在だったらしい。



「そうか、生まれ変わりっていっても記憶もないし、ほとんど別人だもんね。……なんかごめん」


「まぁ、その、なんだ。声と面倒見のいいところ位は、ひょっとしたら似てるかもな。

でも、なんでそんなことを聞くんだよ? 今まで大して興味が無さそうだったのに」



 謝られるとは思っていなかったようで、クルトは慌ててフォローをしてくれた。しかし彼の答えを聞きながら、私の頭の中で急速にひとつの仮説が組み立てられていった。


 精霊王の事もある程度冷静に受け止められるようになった今だからこそ、私は真相が知りたいと強く思った。クルトに向かって、私は自分の推理を未完成のままぶつけてみた。



「君が異世界に干渉してまで呼び寄せたかった相手がどんな人か、気になったの。

クルトなんでしょ? 私がこの世界に転生するきっかけになったゲームを作ったのって」


「……バレちゃしょうがないか。全部、正直に話すよ」



 少年は、身じろぎもせずに目を見開いて黙り込んだ後、しばらくしてからそう答えた。


 私のカマかけは、どうやら見事に成功したようだった。

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